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8マルセル

何か…効果的な方法はないものか…。


攻撃魔法ではなく、周囲に迷惑をかけることなく、莫大に魔力を消費するもの…。


どんどん魔力が増えて、魔力回路に負荷がかかり始めているのがわかる。

早くしないと、まともに術を発動できなくなる。


焦ってもろくな結果にはならないことは、何度も死線を潜り抜けてきて十分すぎるほどわかっている。


気休め程度でも魔力を消費する為に、素早さを上げる術を繰り返し自分にかけ続け、限界まで重ね掛けしたところで、ちょうど思いついた。


特別任務でダンジョンに潜っていた時、国から支給されたマントに付与されていた隠蔽の効果を、もし魔法で再現するとしたら、という話を、カミーユ君としていた時期があった。

魔力を温存しなくてはならないダンジョン内だったので試すには至らなかったけど、設計だけは二人でしてみたのだ。


隠蔽の魔法なら、誰にも迷惑を掛けずにかなりの魔力を消費できるだろう。


全く、カミーユ君はあれで学院時代に一度も首席にならなかったというのだから、私と同学年であったなら私は首席での卒業はできなかっただろう。


おっと、そんなことを考えている場合じゃない…、と、急いであのときに暇つぶしで考えた術式を思い浮かべる。長時間、休憩の度に、二人で何度も話し合ったので、すぐに思い出すことが出来た。


今にも破裂しそうな魔力回路をなだめながら、大急ぎで発動させた。


…間に合った…。


大量に消費された魔力によって、とりあえず魔力回路に感じていた負荷は無くなった。


でも、他に誰もいないので、隠蔽が効いていて、自分が見つからなくなっているかどうかを確かめるすべがない。


魔力消費のためだったとはいえ、ちゃんと成功しているかどうか知りたいのだが…。



ひとまず隠蔽の魔法の成否は後回しにして、じっと安静にして、自分の魔力の様子を感じ取ると、どうなっているのか、まだ魔力が増え続けているのが分かった。


万が一魔法の暴発が始まった時に、建物の被害を最小に抑えるため、余裕のある今のうちに屋上に出ることにした。


屋上からなら、最悪、王都外の森を目標に魔法を使うこともできるだろう。


限界まで素早さを上げているので、今の私は普通に歩いていて誰かの目の前を通ったとしても、早すぎて、風が吹き抜けた、という程度にしか認識できない。


この状態で剣を振ったりすると、空気が盛大に切り裂かれて爆音を上げ、その衝撃波でも魔物にダメージを与えられたりする。


今は戦闘中じゃないから、そんなことになったら大変だ。

まあ、武器を今は持っていないが…。


ドアを壊さないようにそろそろと、ゆっくりと開けると、屋上に向かう。


途中、三階の用品庫に屋上の鍵があったはずだ、と立ち寄ったのだけど…どこに鍵があるのか、さっぱり分からない。


たくさんある棚を片っ端から開けて探しているうちに、また魔力がかなり増えてきた。


「嘘だろう…」


あの試作品、よほど私の体に合った、というべきか…。

これだけ大量に魔力を消費したのに、まだ回復し続けるなんて、驚きを禁じ得ない。


これは急いで屋上に出なくては、と焦るのだけど、鍵が見つからない。


仮眠室としても使われているので、はじに置かれていたベッドに座り、落ち着いて、鍵のしまい場所を推測する。


そのとき、廊下に誰かがいるのを感じた。

避難するように言ったのに、と苛立っていると、その誰かがどんどん近づいてきて、そしてこの部屋のドアを開けた。



顔を出したのは、同期で唯一の女の子だった。

部屋の中を覗き込んで、キョロキョロと見回して…サラサラの金髪がそれに合わせて揺れている。


「あれ?おかしいな?やっぱりここだよね…」


そういうと、部屋に入ってきて、盛んに目を凝らしている。


暫く、あっちを見て、こっちを見て、をしている女の子を、何をしているのかと凝視してしまった。

すると、ふいにこっちを見たので驚いた。


「んん?ここ…?」


まっすぐ、自分が座るベッドに向かって来た。


そして、私が見えなかったのだろう、急に身を乗り出した女の子に、額にキスをされた形になった。


「んぐ…?」


キスと言えば聞こえはいいが、私の額と彼女の口元がぶつかったのだ。


相当痛かったらしく、女の子は涙目になって口元を押さえてうずくまった。

こちらにもある程度の衝撃はあったのだから、口の中が切れたかもしれない。


涙目になりながら、回復系の魔法を口元にかけた彼女は、手を伸ばして、自分が何もないはずのところにぶつかった辺りを探っている。

私はもちろん、その前には少し横にずれているので、その手に触れられることはない。


これは、鍵が見つからないと諦めて、一階に降りて外に出て、転移で森に出るか…。


いや、屋上への扉を壊す方が早いな。


そう決断したとき、さっきまで私がいたあたりを探っていたその手が、私の腕を、がしっと掴んできた。


「あの?マルセルさんですよね?」


見ているような見ていないような表情で、こちらをみて訊かれたので、「ああ、そうだ」と意識してものすごくゆっくり答えると、慌てたように手を引っ込めた。


「私、ルーエ室在籍の、ミリアン、と申します。ルーエ室長に頼まれて、マルセルさんを探していました。魔力暴走の対応をする準備がほぼ整ったので、マルセルさんを保護したいのに、見つからないというので…」


そうか、この同期の女の子はミリアンという名前だったか。


「もう対応チームが到着したのか?」


私がそう訊いたのだけど、ミリアンは首を傾げた。


「あの、マルセルさんで間違いないのですよね?ちょっと待ってくださいね?もしかして隠蔽かけていらっしゃいますか?それと何かおっしゃっているのは分かるのですが、全く聞き取れないです」


ああ、しまった。


戦闘中なら、全員に素早さを上げる術をかけるので、重ね掛けの回数の差で早口だな、と思う程度の差が出ることはあるが、今の私は限界まで重ね掛けした状態だから、何もかけていない相手にとっては、ゆっくり話したつもりでも、早すぎて聞き取れないらしい。


ダンジョンの中でなら、戦闘の終了とともに、素早さを上げるなどの補助魔法の効果は強制解除される。

でもダンジョン外では、解除には時間経過を待つしかないので、仕方なく、会話をするためにミリアンにも素早さを上げる魔法を数度かけた。


すると、ミリアンは何か詠唱しはじめ、その魔法が発動すると、目があった。


「やっぱり隠蔽の術ですね!物に隠蔽をかけて見つからなくすることはありますけど、人にかけられる術があったなんて知りませんでした!さすがはマルセルさんですね!」


頬を赤くしながら拳を握って興奮して話す様子に、一瞬面食らう。


どうやら、カミーユ君と考えた隠蔽の術は成功していて、そしてこの子がさっき詠唱した魔法は、隠蔽を見破るものらしい。


ルーエ室所属と言っていたのを思い出して納得する。

ルーエ室はそういう『見る』系統の研究をしているのだ。


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