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5マルセル

「領地かあ…」


カミーユ君というのが、今回の特別任務のダンジョン攻略で、後から攻略パーティーに加わってくれた子だ。


まだ21歳とかそんな若さだったのに、驚きの能力の持ち主で、彼のお陰で特別任務が遂行できたといっても過言ではない。


そして、ヴィリエ氏のお嬢さんの婚約者…いや、もう書類上は結婚した頃か?で、さらに既に伯爵で、領主でもあるのだ。


わが身を顧みると、親のイヤミもなんとなくわかる気がする。


婚約者もいなければ、いずれ継がねばならない実家の伯爵領の領地の経営なんて考えたことも無い。


自分は魔術バカだから、それでもいいやと思っていたけど、カミーユ君は、あの若さにして、その魔法の実力も自分と遜色がなかった。

なのに、ちゃんと魔術研究所で働く傍ら、領地経営もしているらしい。


あの子が規格外なだけ、な気もするが。


うーん、でも、そろそろちゃんと人生を考えないとダメか…。


その時その時にやりたいことをして生きてきてしまった。


突き詰めたい性格なので、好きなことにはのめり込んで人並み以上の成果を出すことも多いけれども、興味がないことには、とことん興味が持てない。


こんな私が領主では、民も困るだろうがなぁ…。


ぼんやりそんな考え事をしながら、自分の研究室に向かっていると、自分と同期の女の子がお弁当を持って、数人の後輩の女の子たちと連れ立って中庭に向かっているのが見えた。


魔術師の塔に就職できるのは、魔術学院でも成績上位のほんの一握り。

毎年、新人として採用されるのは多くても5人程度だ。

私は10年冒険者をしてから就職試験を受けているので、同期の子達とは10歳も離れている。

だから彼らは私と距離をとっているのだけど、私の中では彼らは同期なので、私の方は特別に親近感を持っていた。


あの年はたまたま、同期の女の子はあの子だけだった。

サラサラの癖のない金髪に、灰色がかった青い目をした、お人形のような人目を引く容姿をしているので、すぐに覚えた。

ただ、同期といっても配属先はバラバラで、名前と顔が一致していないのが残念なところだ。


いつの間にか、もう昼休憩の時間になっていたようだ。


女の子達というのは、ああして時間を合わせて一緒に食事をしたりするものらしい。


自分だったら面倒くさいと思ってしまいそうだな、男で良かったな、と思ってから、領地を継ぐのは面倒だから、女が良かったか…とか、どうでもいいことを考えた。


昼休憩の時間になっていることが分かったので、自分の研究室に向かうのを止めて、食堂に向かうことにした。

男の一人暮らしで、お弁当なんてあるはずもない。


「あらマルセルちゃん、久しぶりねー」


今日の昼定食をかき込んでいたら、10数年先輩の…年齢だと2、3歳年上なだけだけど…第1研究科のローズさんに声をかけられた。

妖艶な美女だけど、こと研究に関わることになった途端に、人が変わるタイプだ。


私の母親とローズさんの母親が友人で、いわゆる幼なじみというやつだ。

冒険者をやめて魔術師の塔に就職をしようかなと思った時に口利きをしてもらったので、一応恩がある。


「ミルグさんから聞いたのだけど、あなた特別任務中に、あの魔力回復薬を使ったのですってね?それで副作用が随分ひどかったとか聞いたけど、…ホント?」


「あの時はやむにやまれず、4本ほど立て続けに飲む羽目になった。かなり副作用が強く出たのは本当だな」


…嫌な予感しかしない。

特別任務だったダンジョンで飲んだ、あの魔力回復薬は、このローズさんが室長を務めている研究室で作られたものだ。


「実験台になるのはお断りだが」


あの時、5日ほど後遺症に苦しんだ。

ひどい吐き気とだるさが3日続き、その後少しずつ良くなっていったものの、何ともなくなるまでに5日かかったのだ。

生きるか死ぬかだったので、魔力回復薬のお世話になったのだけど、あの副作用に苦しんだ時は、死んだ方がマシだったか、と思いかけた。


「あらーそんな冷たいこと言わないでよ。副作用は個人差が大きくてね。今、全く新しいレシピでの魔力回復薬があるんだけど、以前の試作品の副作用を知ってる人に試してもらって、比べて欲しいのよー。お願い!安全性は、私も飲んでみたし、実証済みなの。副作用の程度を知りたいのよー、協力してくれないかしら」


「…はあ。仕方ない。私以外の被験者の結果を教えてもらってから検討してみることにする」


絶対嫌だと言おうと思ったのに、研究にかける熱意を感じて、つい前向きな返事をしてしまった。


「なら、夕方には資料を渡せるように準備しておくわ!」


もう承諾を得たかのようにホクホク顔のローズさんを見送って…。


復帰したてなのに、副作用でまた休むことになったらどうしよう、と思い、それから自分も既に飲む気でいることに気が付いたのだった。



その後、時間をとってもらって話をしたヴィリエ氏は、蘇生薬に興味は持ってくれたけど、国からの依頼の仕事が溜まっているので、すぐに共同研究するのは難しい、という、まあ想定内の返事を貰ってしまった。

話を聞いてもらう時間をとってもらっただけでもありがたい。


ヴィリエ氏は、尋常じゃなく忙しいはずなのに、家庭第一で、絶対に夕食は家で家族と囲む、というのは有名なのだ。


まあ、オルガたちでまずは取り掛かって、行き詰ったりしたら、改めて相談に乗ってもらうようにするしかないだろう。

蘇生薬を作ることができるようになる意味を、ヴィリエ氏も理解はしてくれているのだから。


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