源氏長者
5日間に及ぶ 大樹寺での徳川家康の葬儀は、弔問に訪れる人々が後を立たず
内外に武田、徳川のこの国での影響力を誇示する形で終わった
岡崎城 本丸 大広間
「此度は、我が殿の葬儀をこれほど立派に執り行えたこと我ら一同、心より感謝致しております」
筆頭家老である、酒井忠次が上座に座る武田信玄に頭を下げる
「わしは、ちょこっと力を貸しただけじゃ その方らと家康殿の人徳じゃよ」
「この国における、武田信玄公のお力の強大さに感服いたしました 今日より我ら一同 武田家の末端として
親方様と呼ばせて頂く許しを頂けましたら 恐悦至極にございます」
一斉に平伏する 徳川家臣団
「それはならん!」
静まり返る 大広間
「その方らの気持ちは嬉しい それは真じゃ しかしのお主らの主君は、わしに降ってはおらんぞ
共に東国に幕府を興そうと語り合ったのじゃ わしも家康殿も源氏の嫡流として 東国に幕府を興す願い
お主らの当主である 徳川信康殿と共に叶えたいと思うが。。。どうじゃ?」
平伏したまま聴き入る一同
「それが叶いますのでしたら これほどの誉れは御座いませぬ」榊原康政が口を開く
「信康殿は、まだ若い お主らがしっかりと支えよ まずは尾張 織田信長を討ちに行くぞ!」
そう言うと、立ち上がり奥の間へと消える 信玄 真田幸隆が話を繋ぐ
「これより2日後 鳴海城へ向け 出陣いたします ご存知のように相模、駿河、遠江、三河より続々と
鳴海城に集結しており 甲斐、信濃の武田軍は、東美濃の岩村城を目指しております 加賀の朝倉も2万を率いて
浅井長政の小谷城に向かっていると報せが入っており 時を合わせて尾張討伐に動きまする」
「いよいよでございますな!」
奥の間にて武田信玄を待っていた 細川藤孝
「細川殿 聞いての通りじゃ」腰を下ろすなり 言い放つ信玄
「東国に幕府でございますか? 鎌倉幕府の再興と言うことですか。。。足利義昭を滅ぼすと?」
「お主は、このまま将軍義昭公に就くもよし わしの下に来るというのなら歓迎するぞ それと義昭公を滅ぼすつもりは無い」
「それは、放っておくという事ですか?」
「討てというのなら討つが、その必要もあるまい 顕如を通じて朝廷に従三位、源氏長者を承れるよう打診しておる 義昭公と同じ官位で源氏長者であれば東国に幕府を興すことも無理な話ではあるまい 真に強い武士の幕府を作るとなれば 朝廷もわしか義昭公かどちらに肩入れをするか お主ならわかるじゃろう?」
「織田信長を討ったとなればの話ですな まぁ 負けるとは思えませんが」
「そういう事じゃ 上杉、毛利あたりが騒ぎそうじゃが 後の祭りという奴じゃな」
「そういう事でしたら、私からも朝廷に上申しておきます その代わり将軍義昭には手を出さないと言質を頂きたい」
京へと帰って行く 細川藤孝を見送り 一息をつく信玄
「お疲れ様でした 親方様」
「天女殿 どうじゃったろう?」
「素敵でした 親方様! あの“それはならん“!と一喝されるところ 痺れました」うふっ
「そうかの〜 ちょっとやりすぎたかと思ったんじゃけど」照れくさそうに笑う 信玄
「あの後の、皆さんの尊敬の眼差し 感動しました」うふふっ
「細川藤孝の前で、東国に幕府を興すことを宣言して将軍義昭公の耳にも入るのではないかのう?」
「そうですね〜 入っても問題ありませんけど あの人は、言いませんよ もうすでに見限っていると思います
いずれ親方様に取り入ってきますから 安心してください」
「天女殿が、そう言うのならそうなんじゃろうな」
小谷城 浅井長政居室
「殿! 伝書鳩にて武田より文が届きまして御座います」
《朝倉軍が到着次第 出陣し関が原に陣を張り織田を迎え撃つべし 関ケ原にて待つ》
「関ケ原にて待つ? 援軍が先に待っているということか?」




