開戦
日の出までは、まだ時があり 闇に包まれた
扇川と海との中洲にあたり 鳴海城の南東800メートルの地点
行軍を止め 本陣を張る
そこに次々と持ち込まれる2000張を越える弓
「この弓すべてに強化と風の加護を授けます 効果時間はおよそ6時間 射程距離は通常の倍以上になります ここから鳴海城まで
届く距離ですね まずは、500張」杖を胸の前で浮かせ 目を瞑り
黄色い光が放射状に弓へと降り注ぐ
それを馬場信春の弓兵500名が列を作り手に取っていく
「相手の射程外から火矢を撃ち込んでください 残りの500名
こちらに並んで下さい 筋力強化と身体硬化の加護を授けます」
500人の兵士に赤い光が降り注ぐ
「それと馬場信春殿と榊原康政殿には視覚、聴力の加護も授けました」
「では馬場信春殿の部隊1000兵 善照寺砦をお願いします
天女様に言われたように 敵の射程外から火矢を降らせ
戦意を削いだところで一気に討ち入り占拠という流れでお願いします」
総大将の山県昌景が念を押す
「うむ 行ってくる わしのところが一番早く片付きそうじゃの ガッハッハ」豪快に笑う 馬場信春
「ご武運を」
同じ流れで榊原康政の部隊1000兵が丹下砦に向け出陣していく
予想される敵勢力は、それぞれ3000と数字の上では不利だが
天女の加護により、誰一人として負けるとは思っていない
傷つくとさえ思っていないのであった
これだけの規模で強化魔法を使用したのは、初めてではあるが この世界の濃縮された魔素があるからこそ
可能な荒業である 以前いた王国では、この半分でも不可能なことは間違いがない
「天女様 顔色が優れませぬが 休まれたほうが宜しいのではありませぬか? お許しいただけるのでしたら、この本多忠勝
単騎にて鳴海城を落としてまいりますが」
「大丈夫です これは、これからの武田軍の攻城の試練でもあるのです 貴方が一人で落としては意味がありません」
肩で息をする エヴァ
「おのれ! 織田信長 天女様をこのような目に合わせおって まずは、羽柴秀吉から血祭りに上げてくれる」
鬼のような形相で[蜻蛉切り]の石突を地面にめり込ませる
「忠勝殿 貴方が鳴海城の斥候をすべて排除してくれたおかげで、この戦は勝ったも同然です 感謝しています」
「もったいなきお言葉 この忠勝 天女様がごゆるりと休まれる為に、鳴海城をすぐに落として参ります」
「そこは、武田の為でお願いします」子供のように可笑しそうに笑う エヴァ
その顔を見て 幸せそうに目尻を下げる 本多忠勝となぜか徳本先生
「山県殿 日が昇る前にこちらも、出陣いたしましょう」
残り1,000張の弓と1,000人の兵に加護を掛ける エヴァ
「では私は、少し休ませて頂きます もし怪我をされた方が居れば、すぐにこちらまで運んでください 忠勝殿
あとはお願いしますね」
「はっ すぐに戻ります 山県様 天女様をお願い致します」
「ふむ 任せよ ご武運を」
闇に紛れ本陣を離れる 本多忠勝の部隊2000兵 本陣から300メートルほど離れた扇川の辺りで行軍を停め
1000人の弓兵が横へと広がっていく 鳴海城の西側は海で南側は深田 残る東側と北側を容易に包み込む
強弓[5人張り]に3本の矢を番え 物見櫓の見張りに狙いを付ける 本多忠勝
その距離500メートル 4台の櫓の見張りを 4度弓を絞り黙らせる もともと得手であった弓の腕前が
もはや神業にまで昇華されている
「火を熾せ」合図と共に篝火が灯され 矢の先に油を含め火を着けられた弓が一斉に鳴海城に襲いかかる
1,000本もの矢が鳴海城の建築物に次々と刺さり 火を燻ぶらせる
騒然とする城内 弓を持ち500メートル先の篝火に矢を射るが はるか手前で失速し落ちていく
「なぜ あそこから届くのだ??」「本丸に火がついたぞ 水を持って来い!!」
「見張りは何をしておったのじゃ!!」蜂の巣を叩いたような騒ぎで右往左往する 織田信長軍
2射。。。3射。。。4射目と更に火の手が広がっていく城内




