堅田沖湖上戦 終戦
“信景、今なら誰も見ていない……射るのだ!あの男は、きっと我らの障害となる”
久しぶりに信景の中のネボアが精神と身体を支配しようと表層へと浮かび上がる
「ネボア駄目だよ!少なくとも彼は僕たちが倒すべき相手ではない」
“信景、我を信じるのだ あの男は昨日の白拍子の、つまり九尾の妖狐の仲間だったのだぞ
いつ我らの正体に気づくかもしれん 射るのだ!”
「ネボア、僕たちは太樹寺でこの国の中枢に居る人たちに会うんだ 疑われる行動を起こすべきじゃない……ネボアは彼に10年前の恨みを晴らしたいだけじゃないのか?」
信景とネボア ほぼ10年間この身体に同居してきて、初めて意見が対立している
“信景!退け!我が殺る!!”
キリキリッと引き絞られた弓が、満腹丸の背に狙いをつけられたまま、信景の右手の2本の指から
解き放たれる 唸りを上げ真っ直ぐに満腹丸の背へと飛んでいた矢の軌道がわずかに右に逸れると打刀を振り上げ満腹丸に斬りかかる男の腕を貫く
“なんだとっ!?” おもわず独り言ちる ネボア
すると後ろも見ずに右腕を上げ、親指を立てる 満腹丸
「見たかい?彼には見えていたんだよネボア それに僕も君の能力を使うことが出来るんだよ」
その事実よりも、自分が身体の主導権を掌握できないことに驚く ネボアだった。
乳飲み子から憑依し、ついこの前まで幼子だと思っていた信景の精神が、ネボアを抑え込めるほどに成長していたことに驚愕するのだった。
それと同時にネボアが生まれて初めて対等な立場で、ものを言える存在という者に頼もしさを感じたのは自分でも意外な感情だった。
それからの波羅鬼との戦闘は圧倒的だった。
安宅船を制圧し、港へ向かった景竜隊と遅れて合流した浅井軍の手でたちまちのうちに鎮圧され
首領である水城玄馬も捕らえられ縄を打たれて観念した様子で、頭を垂れている。
「君が水城玄馬だね、僕は浅井満腹丸 将軍·武田信玄公より、この地の守護を命じられた者だ。
古来より、この地は堅田衆に自治を任せてきたつもりだったんだけど、琵琶湖を航行する船舶や
この地を往来する商人たちからの苦情が急増してね そのことを改善するようにと何度か使者を送ったよね? あっ君たち縄を解いてあげて」
水城玄馬の前に立ち、まるで友達に話しかけるかのように弁明を待つ 満腹丸
「この土地は、あんたが言うように昔から堅田衆が守ってきた土地だ!それが六角が急に現れ
支配すると言い出し、それに異を唱えた者たちはたくさん殺された。
その後も延暦寺が、この地が交易の要所になると利権を主張し始め、織田信長が六角に攻め入り
その騒動で俺の親父は大きな怪我を負った。 もうお前らに振り回されるのは嫌なんだ!
だから俺たちの国を造りたくって……」
縄を解かれた水城玄馬は、胡座をかきまるで不貞腐れた子供のように釈明を始める。
「なるほど……どうやら僕たちの目が行き届いていなかったようだね、君たちの国を造ることは
許可できないが、一緒にこの土地を誰にも侵攻されない暮らしやすい地にすることは出来ると思うんだ どうだろう?」
「お前たちは、俺の仲間をたくさん殺しておいて!そんな言葉を信じろというのか!?」
水城玄馬の瞳に火が灯り 満腹丸を睨みつける
「僕もね、部下たちを守らなければいけないからね 自分たちの身を守るために刀を振るけれど
なるべく命までは取らずに琵琶湖に落とすように言ってあるからね 君の仲間たちはほとんどが引き揚げられているはずだよ」
そう言い、救助を終え着岸してきた船を指差す
「そうなのか……?」
着岸した船から、波羅鬼の船員たちがぞろぞろと降りてくるのを見て、顔を綻ばせる 水城玄馬
今後の協議を家老に任せ、信景の元へと歩いてくる 満腹丸
「信景君、ご苦労さまだったね おかげで思っていたよりも早く片付いたよ 君たち景竜隊の力は僕の予想以上だったけど……君は彼らを連れて一体何をするつもりなんだい?」
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