響談
織田信長専属の尾張の忍者衆[響談]その頭領 根津平八は、配下の者達と共に沓掛城下に商人や町人に扮して
諜報活動を行っていた
配下からの報告通り 昼過ぎ武田軍4000が沓掛城下に入り拓けた平野部で昼食の支度を始める
おそらくは、総堀となっている沓掛城の橋が全て落とされている為に、城内に入れないためだろうと考えていた
商魂たくましい商人達は、様々なものを売るために近づいていく
米や野菜、味噌、干した魚ここ数年の度重なる軍隊の往来により だいたいの売れるものは把握しているようだ
焼いた団子を抱えた女が一際目立つ巫女の女に近づき 団子を見せる
一本を手に取ると、すぐさま齧り付き、何やら団子屋の女と楽しそうに話している
距離があるので会話は聞こえないが、どうやら気に入ったので全部を買うようだ
用意した皿に、20本ほどの団子を受け取り 隣に居る白い顎髭の初老の男が代金を支払っている
巫女の女が一本を手に取り 横に居る武者に渡す 『ん? あの鹿角の兜にあの巨軀 本多忠勝!!』
片膝をつき、有り難そうに団子を受け取り 口に運ばず見つめている。。。
自分の膝に置いた皿から2本の団子を取り、両手に持ち交互に口に運ぶ巫女
代金を支払った初老の男が皿に手を伸ばす 巫女の女が右手に持っていた団子を咥え 空いた右手でその手を叩く
なにやら巫女に抗議しているが、咥えていた食べかけの団子を渡され 文句を言うのかと見ていると
両手でその団子を持ち 見つめながら悦に浸っているように見える
薬売りに扮している根津平八は、その奇妙な3人に近づいていく
『もしやしたら、あの巫女が報告にあった天女様と呼ばれている女か? 本多忠勝が護衛をしている?』
3人の前で、背中に背負っていた薬箱を降ろし深く頭を下げる
「丹波市の薬売りで御座います 打ち身切り傷に効く熊野伝三膏薬 気付け薬の陀羅尼薬 頭痛めまいに藤八五文
色々取り揃えておりますが 御用はございませんでしょうか?」
本多忠勝と思われる男が警戒しているのか、わずかに腰を浮かせ不測の事態に備えているように見える
「我々には、必要ないのう 悪いが薬はこの軍隊では買う者はおらんじゃろ」初老の男が答える
「どこの軍隊でも喜んで頂けるものを取り揃えておりますが」
「それでも ここには、必要ないのじゃ 他を当たったほうが良いぞ 時間の無駄じゃ」
『本当にこの女は、天女でどんな傷も病も治すというのが真だというのか?』
長年、特に間諜に秀でた[響談]の頭領 根津平八は聡明な頭脳の持ち主だった
薬箱を背負い その場を離れる 根津平八
城下へと戻り 隠れ家に借り上げている長屋へと入る すでに3人の配下が情報のすり合わせの為
根津を待っている 「伝七とお雪はまだか?」 「まもなく戻ると思います」乞食に扮した男が答える
「そうか2人を待っている間に、お前らの成果を聞こう」
「武田信玄は、病との噂でしたがピンピンして岡崎城に居るそうです」
「この軍の総大将は山県昌景で副大将に榊原康政ですな」
「これからの行程ですが橋を直して城内に入り 援軍を待って鳴海城に向かうようです 足軽共の話ですが」
「岡崎城に天狗が出たらしいですぜ」
「あの本多忠勝が一騎打ちに敗れて 瀕死だったとか。。。信じられませんが」
「ただいま戻りました」残りの二人が、人目を気にしながら するりと長屋に入ってくる
「おう どうだった?」そう言った根津平八の目が見開かれる
戸を閉めようと手を掛けていた伝七の後頭部を鷲掴みにして 巨軀の男が入ってくる
「本多忠勝!!」具足を身に着けていないが間違いない
「一騎打ちで瀕死だった 本多忠勝だ」ニヤリッと笑うと 伝七の首を片手でねじり折る
一斉に匕首を抜く5人 と同時に【指弾】でお雪と根津以外の3人の額を撃ち抜く
「ひっ な なんでわかった?」
「お前 体から薬の匂いがしないぞ 薬を売り歩いているのにおかしいだろ? 尾張の響談か?」
匕首を構えて 忠勝へと向かってくる ドスッ カランッ 忠勝の腹を確かに刺したと思ったにも関わらず
鉄板でも刺したのかという衝撃に匕首を落とす 根津平八
根津のこめかみを右手で掴み 締め上げていく 「痛っ 痛ったったったった」ぐっちゃ 根津の体が土間に落ちる
「女 喋るのなら命は助けてやる」 「はいっ なんでも喋ります」ぺたんっとへたり込む




