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戦国魔法奇譚  作者: 結城謙三
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陰陽師·安倍清親

「イノリ!………イノリ!………起きな……」


ー『この声は……お玉様?……寒い……』ー

冷たい土の感触に微睡んでいた意識が、一気に覚まされる


「イノリ、風邪を引いちまうよ」


「お玉様、ここはどこでしょう?」

暗闇に目を凝らし、ようやく玉藻前に変幻した妖狐の姿を見つける イノリ


「日の本なのは間違いないようだね。おそらくは、この国の都の近くだと思うんだけどね〜

それより風邪を引いちまうよ あんたの着る物を探さないといけないね」

四方を見渡し、風の匂いを嗅ぐ 妖狐


「あっ!?ずるいです!なぜイノリだけ裸なのですか!?お玉様は着物なのに〜」


「あたしのこれはね、着物じゃないんだよ 変幻した身体の一部さ。だから脱いで貸すことも出来ないんだよ ん!? イノリちょっと気味の悪い魔力を見つけた あたしの背に乗りな」

そう言い、妖狐へと変幻すると、すかさずその背に飛び乗る イノリ


「お玉様……温かいです。」

妖狐の背にしがみつき、身体を押し付け暖を取る


        〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


弱々しい月明かりの下、京の外れの街道で、松明をかかげ1人佇む男の影

白い指貫に狩衣、烏帽子をかぶり、その背には晴明桔梗の紋を掲げた 安倍清親であった

よく見ると、その足元には大小様々な五芒星が白檀の粉で描かれ、清親の横に立つ木には無数の

護符が貼り付けられている


「そろそろか……?」

街道の先に目を凝らし、独り言ちる 清親

灯りも持たず、禍々しい気を抑えようともせずに、あまりにも不吉な存在がこちらへゆっくりと近づいてくる事を感じ取り 地面に描かれた五芒星に法力を通し、触媒となる五鈷杵を強く握りしめる 

「わが家の大祖である安倍晴明公、その血を継ぎし清親に悪しき者を討ち払い、人々に安寧をもたらす力をお貸しください!」


闇の中に浮かび上がる、生気を感じさせない見知った女の顔……


「お雪さん……やはり、わたしの易断は間違いではなかった。何があったのかは解りませんが、お雪さんあなたが崇徳院の怨霊に憑かれるとは……」

月の明かりに、お雪だった者の姿が晒される 見た目にはお雪だが、その瞳は淀み、口元には

不気味な笑みが浮かんでいる。それを見た安倍清親の背筋が一瞬で凍りつく


「大祖、安倍晴明よお力を!」

右手に持ち、突き出した五鈷杵に淡い光が灯る。

それを見たお雪が、不思議そうに首を傾げる


「どこかで見た顔だと思ったのだがな……どうやら、この娘の知った顔のようだな」


「崇徳院の怨霊よ お前に再び京の都の土は踏ません!お雪殿の身体を置いて退散せよ!!」

結界を編んだ呪符を左手の指先に4枚挟み掲げる 安倍清親


「その紋は、安倍の末裔か?陰陽師などに何が出来る!?占いでもして居れば良いものを」

お雪の口から、地の底より響き発するような言葉が漏れる その瞬間、お雪の姿が掻き消え


「来るっ!?」

すかさず左手の呪符を投げ、印を結ぶ


「臨·兵·闘·者·皆·陣·烈·在·前!!」

その刹那、清親の背後に現れた、お雪の爪が襲い掛かる!

“ガキンッ” 見えない結界に弾かれ火花を散らす 鋭い爪


一歩飛び退いたお雪が、口を開き薄墨色の瘴気を吐く お雪の周囲の草木が一瞬で枯れ果て

土までがただれる

地面の五芒星に法力を通した呪符を投げつける 清親


「火雷よ来たれ!!」

白檀の粉で描かれた五芒星が、“ドッゴーンッ”という爆炎を上げ瘴気を押し返す

文字通りの切り札である、封印を編み込んだ呪符を左手に挟み、立ち昇る炎に飛び込む 清親


燃え盛る炎の中、まるで何事もないように笑い、長く鋭い爪に付いた血を端からなめる お雪。

その胸元に目掛けて左手の呪符を突き出す……左手が無い? いや正確には、肘から先が無い

焦り足元を見ると、自分の左腕が転がり、封印の呪符が燃え上がっている

激痛に折れそうになる心に鞭を打ち、残された右手で握りしめた五鈷杵をお雪の顔に投げつける

「まだだ!まだ負けられん!!」

一瞬、お雪が怯んだ隙に炎から飛び出る 安倍清親


そして清親とお雪が、雷に打たれたように顔を跳ね上げる。東の空から銀の月夜を裂いて降りてくる異界の気配に………







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