風魔党
岡崎城の城下町 堀に架かる1つ目の橋に足を掛けたところで見知った顔に足を止める
向こうも気づいたようで声をかけてくる 「よぉ ルイじゃないか」
「うん? たしか小太郎といったな」駿河の大宮城に向かう途中で会っている
「覚えてくれていたようで嬉しいよ あの時は馳走になったな お返しと言ってはなんだが酒でもどうだ?」
口元に手をやりクイッとお猪口を煽る真似をする
「昼間だぞ? それに俺は酒を飲まん」酒癖の悪すぎるエヴァの影響なのか ルイは酒に対して一線を引いていた
「じゃあ 団子でも付き合え」返事も待たずに 踵を返すと すたすたと歩き出す 小太郎
一瞬、躊躇するが小太郎の背中を見送り、再び橋に足を掛ける
橋を渡り切ったところで、追いかけてくる小太郎の叫びが聞こえてくる
「おい!おい!おい!おい! おかしいだろ!!」ちょっと泣きそうな 小太郎
「いや 城に帰れば上手い飯があるから。。。」
「いや!いや!いや! それでも久しぶりに会った友に付き合うものだろ!?」
「別に友じゃないしな。。。10日も経ってないし」ますます泣きそうな 小太郎
「じゃあ 俺と勝負をしてくれ!!」
「最初から、そう言え そっちの方が楽しそうだ」
再び踵を返す小太郎に黙ってついて行くルイ
大林寺の山門を潜る
「確かここは、北条の援軍が駐屯してる寺だろ?」脳内地図で確認をする
「ああ 俺は北条の人間だからな 北条家が家臣 風魔党頭領 風魔小太郎だ」胸を張り ルイの驚いた反応を待つ
「ああ。。。そうなのか じゃあ行こう」小太郎を放って 石段を登る
「おい!おい!おい!おい! おかしいだろ!!」またも泣きそうな 小太郎
「面白いから からかっただけだ フッハッハッハ」心底可笑しそうに笑う
「。。。。。」頬を膨らますが 厳つい顔の大男がやると かなり不気味だ
「風魔党っていうのは?」
「まあ 元々は乱波(忍者)なんだがな、斥候を得意とはしているが 甲賀だの伊賀だのとは違い 闇に潜まない
戦にもでるし 領地も持つぞ」
「よくわからんが 堂々と名乗るのだから、忍者ではないよな。。。」
階段を登り切り 境内へと入ると出陣が近いせいか大勢が慌ただしく動いている
小太郎が辺りを見渡し 誰かを探す 目的の人物を見つけたようで大きく手を振りながら小走りで近づいていく
「ルイ 紹介する 北条家家臣 山角定勝殿だ この援軍の大将だな」
「山角定勝と申す 陰陽師で龍神殺しのルイ殿 噂は色々と聞いております」
「陰陽氏のルイです 良い噂なら良いのですが 小太郎 俺は加賀までとんぼ返りで疲れているんだ
さっさと始めようか?」山角に軽く頭を下げ 小太郎を急かす
「そう慌てるな 着替えたいのだが良いか? あと木刀を用意するから待ってくれ」
「木刀は必要ないぞ 真剣でいい 俺は無手で相手をしよう」
「あまり舐めていると 痛い目にあうかもしれんぞ? 一応聞いておくが 何を使ってもいいってことか?」
「ああ 良いぞ 鉄砲でもな」ニヤッと意地悪く笑う
用意されたお茶を飲みながら 小太郎を待つ 先程まで賑わっていた境内が開放され
20人ほどの黒の忍者装束の男達が境内に駆け込んでくる 同じ忍者装束であるが、ひときわ背の高い小太郎が
小太刀を2本腰に指し ルイの前に現れる
「何を使ってもいいってことだから 風魔党の俺の部下20名使わせてもらう」言い終わると同時に背後から飛んできた矢を上体を後ろに倒しながら 人差し指と中指で止める 鏃は外してあり 殺す気は無いようだ
「殺す気で来ていいぞ」上体を起こしながら右に飛ぶ 元いた場所に小太郎の指弾から放たれた小石が通過する
「ずいぶん上達したようだな 当たらないけどな」
左右から走り込んできた2人がルイの手前で交差しながらクナイを放つと同時に樹上から吹き矢が放たれる
それら全てを、両手の指の間で挟み止め2本のクナイを両手に持ち構える
「初めて見る武器ばかりだ 面白いな」
ルイの頭上に、短い導火線の付いた物体が盛大に煙を吐きながら投げ込まれる
視界を煙で遮られたルイに四方から吹き矢、クナイ、手裏剣、鏃のない弓が正確に打ち込まれる
それら全てを両手のクナイで弾きながら 正面から両手に小太刀を持ち、体を低くしながら切り掛かってくる
小太郎に備える 鋭い踏み込みから右手の小太刀を上段から斬りおろし
同時に左手の小太刀で足を狙って左から右上に切り上げてくる 怪力ぶりが伺える
これも左右のクナイで受け止める
「やっぱりお前強いな 部下の練度も高い」
「やっぱりお前は、化け物だよ ルイ」両の小太刀に力を込め 小柄なルイを抑え込もうとするがびくともしない
「楽しかったけど 終わりにするよ」ルイがそう言うと 両手の力が急に抜け 前方に倒れ込む 小太郎
煙幕の中に取り残された小太郎が視界の効かない 四方に耳を澄ますと短い悲鳴と打撃音があらゆる方向から
同時に聞こえてくる




