夜叉とお雪
「お雪ちゃんが………わたしの代わりに………」
お雪の落としていった独鈷杵を胸に抱く おりん
「すまない、俺様がついていながら」
「あたしもだよ、怨霊があれほどの力を持っているとは、お雪に憑依されたら手に負えなくなるかもね あの怨霊の言う通り、始めからお雪が狙いだったと思うよ あたしでは、活動できる範囲に縛りがあって白馬から、これ以上離れられないしね」
「あの、お雪ちゃんの気配は探知できませんか?」
「駄目だね なにも引っかからないし、すでに憑依されていたら、近くにいてもわからないよ」
悔しそうに唇を噛む 雪女
「ああっ 天女様になんと言えば……」
「おりん お雪は、必ず探し出し取り戻す 九尾の姉さんの知り合いを片付けると言っていたろう? 心当たりを当たっていけば、きっとたどり着けるはずだ!」
拳を握りしめ、まさに鬼の形相の大嶽丸
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ー『素晴らしい体を手に入れた 若く、強く、しなやかな肢体に、なによりこの女の持つ情報
天女たち一行は、この世界ではなく、自分たちが元いた世界に帰ってしまったらしい
天女と呼ばれる女にも思うところはあるが、邪魔者が居なくなったのは都合が良い
誰にも邪魔されること無く九尾の妖狐を葬るために、この女の頭にある妖狐の縁者を片付けていくとするか
それにしても、この女の持つ能力……スキルと言うのか? 実に興味深い、いろいろと試さねばならんな』ー
肉体を得た夜叉は、お雪の姿そのままに街道を京へと向かい歩く 瞬間移動や飛行の能力を行使が可能だが、久方ぶりの肉体を満喫していた
1人街道を歩く、巫女姿の若い女 いくつかの宿場町も素通りし陽も暮れようというころ
前から歩いてくる、人相の悪い2人の男 下卑た笑いを顔に貼り付け お雪の進路を塞ぐように
近づいてくる 背の高い方の男が腕を広げ通せんぼをし、酒臭い顔を近づけてくる
「巫女さんよ この辺には宿場町なんか無いぜ、俺らの小屋に泊まっていくかい?」
「結構です 先を急ぎますので」
精気の感じない冷たい声で言い放つ お雪
「そんな事を言わずに、顔を上げて見せてくれよ」
お雪の顎に手を伸ばし、顔を上げさせる
「おおっ!上物だぜ、おまけに見てみろよ、この胸をよ!」
「ひっひっひっ 堪んねえな〜 可愛がってやるからよ」
背の低い方の男がお雪の後ろへと回る
ー『さて、殺すのは簡単だが、人の通りの多い、この街道で面倒事は避けたいものだが……
飛んでも、消えても騒ぎになるか? どうしたものか?』ー
「向こうに行くとよ 荒れ寺があるんだよ、そこならどんなに大きな声を出しても誰も来やしないぜ ひっひっひっ」
背後から、お雪の耳元で囁き、街道から外れた山の麓を指さす
「おおっ! いいな、おとなしくしていれば、傷つけないからよ ちょっと遊んでいこうぜ」
お雪を挟むように、足元の暗くなった夜道を歩く 朽ちた山門をくぐり、床の抜けかけた寺社へと上がり込む
「ちょっと寒いな お前火を熾せや」
「おお そうだな!夜は長いからな、枯れ枝を集めて来るよ 逃げられないように、ちゃんと
見張っていろよ!」
背の低い男が出ていくと、お雪に手を伸ばしてくる男
「確かにここなら、どんなに大きな声を出しても大丈夫そうですね〜」
「そうだろう?巫女さんも楽しもうぜ」
巫女の衣装に手を伸ばす男の手を制し、自ら着物に手を掛ける
「汚したくありませんので、自分で脱ぎます」
すっかり陽も落ちた寺社内、目の前で着物を脱ぐ巫女の体によだれを垂らし目を凝らす 男
「まったく、あの馬鹿はいつまで待たせやがるんだ!?早く火を熾しやがれ、見えねえじゃないか!!」
「ぎゃあああああっぁぁぁぁっーーーーー」
裏庭で枯れ枝を集めていた男の耳に、絶叫が飛び込む 慌てて集めた枯れ枝を投げ出し
2人の元へと駆け戻る
「おいっ!でかい声を出して、いったいどうしたんだ!?」
駆けつけた男の目には、巫女の裸の後ろ姿と、その奥で口をぱくぱくっとさせ、小便を垂れ流す
背の高い方の男が、床を掻きむしりながら逃げようとしているが、腰を抜かしてジタバタとしているのが見えた
「どうしたっていうんだよ!?」
巫女の女がゆっくりと振り向く 境内から射し込む月光に照らされた美しかった顔は、口は耳まで裂け、深いしわが刻まれた痩せ細った顔には生気がなく 窪んだ眼窩には赤い光が宿っていた
言葉にならない叫びを上げ、腰を抜かす 男
御神木に並んで吊るされる男たち
「ここなら、どんなに大きな声を出してもいいんだよ 誰の迷惑にもならないしね」
しかし、目も口も縫い合わされた2人には、叫ぶことも話すこともできず
数カ月後に発見された時には、ミイラのように枯れ果てていたという……
いいね!やブックマーク&評価などして下さると嬉しいですm(_ _)m




