おりんとお雪と雪女
「つい勢いに押されて、連れてきちまったけど あの怨霊は本当にやばいんだぞ」
人型となった大嶽丸が神妙な顔で、白馬御前と向き合う
「そうです もし叔母様にもしもの事があったら、お母様に顔向けできません」
「大丈夫だよ あんたに怨霊なんぞ憑依させちまったら、あたしの方が顔向けできないじゃないか 何があっても守るからね」
そう言いながら、おりんの羽衣もそっと脱がす
「あの大嶽丸様 わたしたち、今からお風呂を頂くのですが……」
お雪が、脱ぎかけた小袖の胸元を押さえる
「ふむ そのようだな どうじゃ広くなって気持ちのいい露天風呂じゃろう? 脱衣所まで
作らされたからな!」
胸を張り、自慢する 大嶽丸
「ここが、その脱衣所ですよね?」
「そうだ、見ろ!この竹籠まで俺様が編んだのだ」
「あんたに出ていけって言ってるんだよ!このスットコドッコイ!!」
冷水を頭から浴びせられ、逃げるように脱衣所を出ていく 大嶽丸
「なぜじゃ〜 おりんのおむつも俺様が替えていたんじゃぞ〜」と捨て台詞を残して……
「わたしたち、お風呂にばかり入っていますね」
「天女様とお雪ちゃんのために叔父上に作ってもらった露天風呂ですから ようやく
来てくれたんですから、一日中入っていて欲しいくらいです」
お雪が、袴に手を掛けるのを、じっと見ている おりん
「ふ~ん そう言えば、おりんは殿方に興味は無いのかい?」
おりんの、お雪を見る視線を遮るように聞いてみる 白馬御前
「殿方ですか?ルイは可愛くって好きでしたけど、普通の殿方はごつごつしていて苦手ですね
それに比べて、天女様やお雪ちゃんは、すべすべして柔らかくって……それはもう〜
そう言えば叔母様は、お風呂に入れるのですか?」
首を伸ばして、露天風呂に入っていくお雪を目で追う おりん
「あたしは、熱いお湯には入れないね〜 水浴びでもさせてもらうよ」
薄手の着物を“するりっ”と一気に脱ぐと、透き通るように白い裸体があらわになる
「叔母様……綺麗な肌ですね まったく無駄がなく引き締まって素敵です、なんで今まで隠していたんですか?」
「べつに隠していたわけじゃないんだけどね……おりん、目が怖いよ」
「美しいものに目が無いだけです 叔母様……ちょっと触ってもいいですか?」
「おりん 自分の身に大変な事が起こってるのに、なんでそんなに気楽でいられるんだい?」
「だって叔父上も叔母様も雪ちゃんも、みんなが大丈夫だと言ってくれるのです
なにを心配することが、ありますか?」
白馬御前の胸の膨らみを触りながら、うっとりとした表情を浮かべる おりん
「確かに絶対に守るけど あんた!どこ触ってんだい!!」
「叔母様の肌、冷たくってすべすべして気持ちがいいです……」
「ほら さっさと湯船にお入り、あたしの近くにいると冷えるだろ?」
「全然、大丈夫 “くっしゅんっ” です ”くっしゅんっ”」
すたすたっと湯船に向かい、飛び込む おりん
「明日の朝なんですね 怨霊が来るのは……おりん様、怖くはないですか?」
離れた場所で水浴びをする白馬御前に聞こえないように囁く お雪
「……………………」
無言でお雪を見つめる
「おりん様?」
「それは怖くないと言えば、嘘になります 少しの時間ですが、あの怨霊に憑依された時の事は、忘れられません 憤怒、嫉妬、悲哀、憎悪 あらゆる負の感情が一気に押し寄せて……
あれが、あのような怨霊を作り出した元凶なのでしょう そのすべてが、お玉様とお玉様に縁のある者たちに向けられているのです 悲しいことですが、あの怨念は断ち切らねばなりません
もしもわたしに憑依したのならば、わたしの命を掛けて終わらせるつもりです」
わずかに震えているおりんの手を握りしめる お雪
「そんな事はさせません おりん様はわたしが守ります わたし、こう見えても強いんです」
「今日は、お雪ちゃんと白馬の叔母様と過ごせて本当に良かったです あの……お雪ちゃん、
手が痛いです 強いのは、解りました」
いいね!やブックマーク&評価などして下さると嬉しいですm(_ _)m




