大嶽丸と三つ目坊主
参道に力なく横たわる 大嶽丸の巨躯 それを見下ろすように立つ 三つ目坊主
「鬼神·大嶽丸か とんだ大物が手に入ったわい ヒッヒッヒッヒッヒ わしの妖力の肥やしとしてやろう」
大嶽丸の頭を足袋の踵で、小突く三つ目坊主
『俺様とした事が、迂闊だった! 三つ目坊主と言えば、額の目を見たものを眠らせ 命の尽きた者から精気を吸収しおのれの妖力に変えるんだったな という事は、ここは眠りの世界か?
どこにでもある山岳風景に、修験者の列が頂を目指し黙々と歩みを進めている その最後尾に
ついて歩いている 大嶽丸
この俺様が、あの程度の妖怪に遅れを取るわけにはいかぬな さて起きるとするか!
ふぬっ! ふんっ!! んっ!? ほ〜う 低級妖怪とはいえ、なかなかの術を使うようだな
しかし、この程度の子供だまし! えいゃっ!! とりゃっ!! ほいゃっ!!
ふむ……低級妖怪と言ったことは取り消してやろう それでも、この俺様をどうこうできるはずもないがな!』
『鬼神殿、いくら足掻いても無駄でございますよ このわしの眠りの世界から抜け出すことは出来ませぬ ヒッヒッヒ おとなしく、このわしの妖力となってくだされ ヒッヒッヒッヒッ』
『三つ目坊主よ 今なら冗談で許してやらんこともないぞ 俺様にはやることがあってな、時間が無いのだ ちょこっと現実世界の俺様を叩き起こしてくれるか』
『それは聞けませぬな 鬼神殿の妖力を喰らえば、どれほどの力がつくのか、今から楽しみですな〜 ヒッヒッヒッヒッヒッヒ』
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「それにしても、この鬼神は、どれほど眠らせれば、魂が抜けるんじゃろう? このまま首でも落として殺してしまえば、手間もかからなぬというのに、それでは妖力が喰えぬからな」
ごろりっと寝返りを打ち、高いびきを上げる 大嶽丸の顔を憎々しく見つめる 三つ目坊主
『よし 落ち着いて状況を整理するか 今、俺様は眠っている……いや眠らされているのか?
目が覚めさえすれば、三つ目坊主など一秒で葬ってやるのだが、どうやったら目覚めるのだ?
いつの間にか場面が変わり、田村丸の臨終の枕元に並んで座っている 自分と鈴鹿御前、そしてまだ幼いおりん 息を引き取ったばかりの田村丸の顔は、大嶽丸の記憶よりも随分と老けて見える それもそのはず人間の歳で78と言えば、随分と長生きをしたものだ
そんな田村丸の手を握り、静かに祈りを捧げ続けている 鈴鹿御前
なにも解らぬ おりんは、冷たくなっていく田村丸の頬に手をやり 静かに起きるのを待っているようだ そんな二人を見つめていた大嶽丸の視界が、なぜか涙でぼやけ始める……
夢など見ている場合ではないぞ、この眠りの世界でいったいどれほどの時間が過ぎたのだ?
おいおりん、ちょっと俺様のほっぺたをつねってみてくれるか?
不思議な顔をしながら、大嶽丸の頬をつねる おりん
痛くない……やはり夢の世界か……どうすれば覚めるのだ!? おい三つ目坊主!!』
『鬼神殿は、さすがにしぶといですな 普通の人間ならば目覚めることなど諦めて 夢の世界に溺れますのに ヒッヒッヒ』
『俺様の妖力が欲しいのならばくれてやる その前にどうしても鈴鹿山に帰らねばならぬ その後ならば、いくらでもくれてやるから 今すぐ俺様を解放しろ』
『そのような口約束を信じろと? なにもしなくても鬼神殿の妖力が手に入るというのに、そんな言葉を信じて逃がす馬鹿はおりますまい ヒッヒッヒッ』
『三つ目坊主よ あとで後悔するなよ!
そしてまた変わる場面 まったく視界の効かない竜巻内部で爆ぜる放電
大きく肩で息をしながら、言葉も無く薄れていく暴風に目を凝らす 妖狐、ルイ、大嶽丸
息を呑んで見守る 岩村城の人々 胸の前で手を組み祈りを捧げる おりん
そして目の前に浮かぶ 3体の竜 赤い竜フォゴの炎の息吹と黒き竜ナーダの黒い息吹が絡み合い大気を切り裂き岩村城へと向かう そして俺様はありったけの依代を放り投げながら
息吹と岩村城の射線に割って入る 身代わりの依代は、瞬時に燃え尽き 両手を広げた大嶽丸に迫る 死を覚悟した俺様は、九尾の姉さんとルイを見る 大声で叫んでいるようだが、聞き取ることができない ここの人間たちとおりんを頼む……夢の中の俺様が死んだ!!』
参道で横たわっていた大嶽丸がむくりと起き上がる 石畳で眠っていたせいか身体のあちこちがひどく痛む “ぼんっ”という音で横を見ると、頭が破裂した三つ目坊主が息絶えている……
「死んだら駄目だろう……連れて帰ろうと思っていたのに……あ~よく寝た」
何が起こったのか……大嶽丸にもよく解っていないのだが、本能で理解していた
生物は、自分が死んだ夢を見ない 何故なら死んだ経験がないからだ
しかし何度も死んだ経験のある大嶽丸なら、死んだ夢を見ることができ 夢の中で死んだ大嶽丸の妖力が一気に流れ込んだ三つ目坊主は、実際には生きている大嶽丸の妖力に耐えられず
弾け飛んだという事である 妖怪を連れて帰ることは叶わなかったが、眠らされていた村人たちは次々と目を覚まし、徐々に日常を取り戻していくのだった
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