最凶の怨霊
人型を解き、黒き鬼神の姿に変幻した 大嶽丸は、おりんの肩を抱き寄せる
「叔父上 上です!何かが来ます」
おりんの指差す方向を見上げる、そびえる高い樹々の梢の隙間を輪郭のぼやけた球体が浮遊し、ゆらゆらと下降してくる その球体に触れた枝葉が、一瞬で色を失いパラパラと散り落ちる
「叔父上、なぜあのような瘴気の塊が、この迷いの森に?」
「わからんが、嫌な予感がする おりん 結界で身を守るんだ」
「はいっ」
淡い光を放つ盾状の結界が、自分と大嶽丸を守るように展開される
“ほ〜う 天女などと呼ばれていた女と似た術が使えるのか?”
地の底から響きわたるような、低く重い声というよりも、空気の振動そのものが直接脳内に響く
「天女様を知っている?」
あまりの怖気に、両腕にできた鳥肌を擦りながら おりんが小さくつぶやく
“あの忌々しい女の縁の者か……強い妖力に惹かれて来てみたが、どうやら当たりを引いたようだな 美福門院を再び滅するために力を貸せ 鬼神よ”
2人の頭上でゆらゆらと揺れる瘴気の塊
「美福門院? 九尾の姉さんの事を言っているのか? 姉さんも戻っているのか?」
「叔父上 あれはお玉様を殺した崇徳天皇の怨霊ではないですか?」
「ふむ そんな名を姉さんから聞いた気はする……お前などに力を貸すわけがなかろう!!
お前の声を聞いていると、吐き気をもよおす この地より去れ!! ふんっ!!」
大嶽丸が力を込めると、鬼神の覇気が迷いの森の大気を震わせ、大嶽丸の足元を中心として
枯れ葉が渦を巻き、舞い上がる
瘴気の塊が覇気を受け乱れる その球体からやせ細った腕が伸び、長く伸びた鉤爪を持つ指が
禍々しく宙を掻き毟る 長く伸びた髪が、風に乱れ逆立ち 蒼白く痩せこけた顔には深いシワが刻まれ 落ち込んだ眼窩には赤い怨念の瞳が輝く 瘴気の霧が晴れ その全貌が顕になる
着崩れた束帯はドス黒い朱に染まり、その背には黒い炎が、まるで怨念のようにゆらゆら揺らぐ
耳まで裂けた口角から、舌が垂れ下がり 滴り落ちるよだれが地表を“ジュッ”と焼く
人々が思い描く夜叉の姿が、大嶽丸とおりんの頭上で揺らいでいた
”我が戻っているのだ、美福門院も間違いなく魔界より戻っている 今生こそは、妖狐の命を
再生が出来ぬほどに灼き尽くし、縁の者もすべて滅ぼし、帰る場所など無いのだという絶望を
与えてやらねばならん そのためには、個としてこの国最大の戦力である大嶽丸 お前には
我のために働いて貰わねばならん”
「そのような戯れ言を聞くはずが無かろう 怨霊ならば怨霊らしく黄泉の国へと帰るがよい」
氷の大剣を創り出すと、頭上の夜叉へと放つが、何の抵抗もなく吸い込まれるように通過する
「叔父上 あれには実体がありません 物理的な攻撃は無駄ということです」
「では、どうすればいいのだ?さきの戦いでは奴をどうやって倒したのだ?」
「それは、天女様の封印魔法で結界を作り閉じ込めたのですが……わたしにそのような術は
使えません やはり天女様に戻っていただかなければ!!」
「なるほど閉じ込めればよいのだな……どうやって? いろいろと試すしかあるまい!」
胸の前で手を組み、雷神を呼ぶと、雷が夜叉を四方から囲み 雷が縦横無尽に囲い内を走る
「駄目か……」
“鬼神よ 我もお前を滅することは出来ぬが、お前も我を滅することは出来ん しかし我はこんな事が出来るのだぞ”
頭上の夜叉が一瞬で掻き消えると、おりんの背後に現れ、おりんに重なるように溶け込んでいく
「おりんんんん~!!!!」
力なく倒れかけたおりんを引き寄せ、その顔をのぞき込む大嶽丸
するとおりんの眼が開き 赤い瞳が大嶽丸を睨みつける
「解るか? 我はこの娘を呪い殺すことも、憑依して意のままに操ることも出来るのだぞ」
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