猿飛仁助
佐助と才蔵が加わり大所帯となった信景一行は、朝倉街道まで戻ると、武生に向け歩みを進める
「傷を負わせてしまったようだな」
浅葱色の着物の肩口がどす黒く染まっているのを 山崎長徳が、労わるように見る
「ああ これなら大丈夫 一晩寝れば治ってるさ それよりあんたの槍捌きは凄いな!
躱したつもりだったのに、さらに伸びてきたからな〜 あんたほどの遣い手は、うちの里にもいないぞ」
嬉しそうに山崎長徳の周りを飛び跳ねる 猿飛佐助
「佐助!お前は口の利き方と落ち着くということを覚えろ 山崎殿 誠に申し訳ない この猿は産まれも育ちも猿ゆえ、お許し願いたい」
長徳に向かい 頭を下げる 霧隠才蔵
「確かに作法というものは身に付けたほうが良いが、猿ということならば致し方あるまい」
「人の事を、猿、猿、猿って……いや待てよ、作法を覚えるより、猿の方がいいか!」
腕を組み、首をひねる 佐助
「ふっはっははっはははっはっは〜 作法を覚えなくてはいけない人間よりも、猿のほうがいいとは ふっはっははっはは〜 確かに、それもまた真理かもしれませんね 久しぶりにこんなに笑いました 猿ゆえ作法無用ということですね」
信景が声を上げて笑う姿を初めて見た従者たちは、驚いた目で馬上を見上げ その子供らしい
笑顔につられて、その顔を綻ばせる
予期せず賑やかな道中となり、予定通り昼前に武生へと入った信春たちは
朝倉景鏡の屋敷の門を叩く
「叔父上 今回はわたしの急な願いに快く応えていただき、ありがとうございます」
お里と並び、丁寧に頭を下げる 信景
「水臭いことを言うな信景 わしに出来ることならば遠慮せずになんでも申せ この2人とは
無事に会えたようだな どうする? さっそく仁助と会うのならば、道場に待たせてあるが」
どこか線の細い朝倉家の人間には珍しく、骨太な印象を与える 景鏡を信景は気に入っていた
「道場でございますか?」
「ふむ 仁助の希望でな、喰えない爺だからな、何か企んでいるのかも知れん がっはっはっ」
「面白そうな御仁のようですね では、わたし一人で道場に行かせていただきます この者たちには、休める場所と食事をお願いできますでしょうか?」
「信景様!お一人で行かせるわけには参りません」
山崎長徳が同行すると、信景の前に歩み出る
「そんな心配しなくても、取って食ったりしないぞ うちの爺は」
そう言うと、さっさと道場に向け歩き出す 佐助
「では、長徳だけともをお願いします 叔父上あとの者たちをお願いします」
お里が心配そうな目を向けるが、大丈夫と軽く頷くと踵を返し 景鏡の屋敷の隣に建てられた
道場へと向かう 信景
「爺 戻ったぞ!」 「頭領 ただいま戻りました」
開け放たれた道場の中庭から、さっさと上がり込む 佐助と才蔵
縁側を上がり、道場内をのぞき込むと正面に作務衣を着た猿飛仁助と思われる老人が座り
上座にあたる、左手の床の間の前に座布団が用意されていた
一礼して道場に足を踏み入れると、両手をつき頭を垂れる 老人
「お初にお目に掛かります 信景様 わしが飛猿組の頭領·猿飛仁助といいます この足ゆえ迎えにも出れぬこと ご容赦ください」
見ると、左足の膝から下がなく 右手で上座を指し 座るようにとうながす
それを無視して、猿飛仁助の前に静かに歩み寄り 膝を突き合わせるように床に直に座ると
「そのようなお身体で、ここまでご足労いただき申し訳ない 朝倉義景が嫡男·朝倉信景です
そしてこちらが、ここまでの護衛をしてくれた山崎長徳といいます」
「景鏡様のお話によると、我らに話があるとか?」
柔和な語り口だが、射るような眼力で信景の目の奥をのぞき込む 猿飛仁助
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