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戦国魔法奇譚  作者: 結城謙三
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義景と信景

生母とともに暮らしていた年月、信景は満ち足りていた

無償の愛を注き゚続けることにより、赤子の信景に憑依していたネボアの荒れ果てた精神をも

解きほぐすほどの母親という生き物 

生来がネボアという存在は、殺戮のみを目的にダンジョンより生み出され 

なんの因果かこの異世界への転移に巻き込まれ、この異世界で命を散らした そんな母竜

ベヒーモスから生み出された 憎悪、怨念、悔恨、呪詛、厭悪、殺す! 殺す! 殺す! 殺す!

およそ言葉にできるすべての負のエネルギーに産まれた瞬間から晒され続けたネボアには

それ以外の感情も、他の種族をすべて根絶やしにするという以外の使命も不要だったのだ

皮肉な事に他者に憑依、洗脳し思うままに操るネボアが、母性の前に一本ずつ牙を抜かれていき

生母や乳母達の笑う顔が、幼い自分にできる唯一の使命だと思い始めていたのだ


この一乗谷に来るまでは……


一乗谷で過ごす日々は快適だった この年齢の子供が何不自由なく暮らす為のおよそ考えうる

すべてが揃っていた 女中頭お絹の献身 筆頭乳母であるお里は片時も信景の側を離れる事なく 何かが欲しいと言う必要などなく、すべてが絶妙のタイミングで信景の前に差し出された

この世界の暮らしに多少なりとも触れていたネボアには、この暮らしがどれほど恵まれているかを理解しており、自分がこの環境を受け入れる事が周囲の幸せであるとも悟ってはいた


しかし後から来ると言われた生母は10日が過ぎても姿を見せなかった


そして父である朝倉義景は、何かに取り憑かれていた……


毎日 信景の居室に訪れる父は、まるで信景の生を確かめるように抱き寄せ、頬を寄せる

そしてひとしきり満足すると、決まって滔々と語りだす……時には朝倉家の栄光ある歴史を

時にはこれまでの朝廷との繋がりを、時には自らの生い立ちを上機嫌で信景に聞かせる

しかし自分の言葉に興奮してきた父は、徐々に様々な怨みつらみを吐き 口角から泡を飛ばす


織田信長討伐の為に関ヶ原へと駆けつけたにも関わらず 我が領土は加増も無く、新幕府設立の際にも朝倉家より唯の一人も重臣への登用も無い

同じ立場で関ヶ原へと駆けつけた浅井長政は大幅な加増と京都守護という大役を任せられているというのに、武田信玄も朝廷も我が朝倉家を軽く見ていると双眸に怒りの火を灯す

今の平和な日の本があるのは 朝倉家の尽力があったためだと、にも関わらず この国の民は

武田信玄を讃え 朝廷を讃える 話がこの頃になってくると義景は信景を見てはいない

幼くして亡くなった阿君丸を偲んで泣き 一昨年に7歳で病死した愛王丸を偲んで泣く

朝倉家の跡取りが早逝するのは、すべてが武田信玄の策略に違いないと、その証拠にわが領土には、病気や怪我を癒すという治癒の効果が込められた殺生石を奉った天女堂が無いではないか!! 

その為に一昨年、病状が急変した愛王丸を、ここからもっとも近い天女堂がある 新幕府の家老·真田幸隆の領土 上田に向け出立したのだが……間に合わずあと僅かという地で命を落とした

愛王丸 それがあまりにも不憫で……不憫で……両手を震わせ 顔を覆って咽び泣く 義景

(実際には、ルイやエヴァは日本国中を縦断する旅をした その行く先々で殺生石を置いていたのだが残念な事に唯の一度も越前に足を踏み入れることが無かった ルイやエヴァの意思で納められた殺生石を新幕府に移動させる権限もなく、武田信玄自身にその意志もなかった その為に、越前に天女堂は建立される事は無かったのである)

そんな父親の手を握り、黙って頷く 信景 その手から伝わる 愛する父親のうちから沸き起こる憎悪、怨念、悔恨、呪詛、厭悪……ネボアが慣れ親しみ、己の中に封じ込めていた感情が呼び覚まされそうになる しかし信景はそれを必死に拒む『嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 父上様 お願いですやめて下さい!』


「信景 お前だけが頼りなのじゃ 頼む余を一人にしないでくれ」

決まってその台詞を最後に、自らの寝所へと引き上げていく 父上

父上が取り憑かれているのは、自らが作り出した怨念であった



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