朝倉信景と一乗谷
347話【未来を開く】大幅加筆修正しました 話が繋がらずおかしいと思われていた方 申し訳ありませんでした
僕のミスです
長い間放置していたにも関わらず たくさんの方に読んでいただき本当にありがとうございます
外伝としてしばらくお付き合いください
朝倉義景の居城がある 一乗谷
城下町のいたる所に高札が設置され、惜しげも無く紙を用いた瓦版が市中の民に配られていた
すると一乗谷の城下が、久しぶりの明るい話題に沸き返っていた
「信景様が一乗谷にお越しになるげんと!」
「ほ〜ん? なんでも【袴着の儀】が執り行われるっちゅうことやな!」
「ほ〜ほ〜、そりゃあ大事なことや で? その信景様っちゅうのは誰や?」
「お前、ほんにアホやな。殿様の御嫡男やぞ!」
「朝倉家の行事っちゅうこって、平泉寺白山神社で五月五日の端午の節句に盛大に行われるらしいわ」
「柏餅やらちまきが振る舞われるげんと! これは行かんなんやろ!」
「ほんなら、今から1ヶ月後が待ち遠しいわ〜。参道で鯉のぼり振ってお迎えするんがええんちゃうけ?」
「鯉のぼりか〜……でも、あれ高いやろ。」
「何ゆうとるんや!? かかぁを質に入れてでも行かなあかんやろ!」
「男達が馬鹿な話をしてるけどね 確かに今の殿様は若君様達を続けて亡くされて 信景様に掛ける思いも尋常ではないんだろうね〜 信景様には、健やかに成長して頂きたいね〜」
その頃、一乗谷城朝倉館ではすべての畳を張り替え、城内すべての水瓶まで新調され
部屋の隅々、廊下の隅々、庭の隅々まで徹底した大掃除が行われていた
屏風や掛軸の埃を払い 天井や梁に張った蜘蛛の巣や埃を払う
石畳や門前の苔取り 壮絶を極めたのが調理場の清掃であった鍋や釜の焦げや錆まで光沢が出るまで磨き上げられ、かまどの中の煤までが拭い払われた
「どんな小さな塵一つ見逃さぬよう 板の間の隙間まで楊枝を使って掃除をするのですよ!
塵や埃が病の元になるやもしれませんゆえ カビや苔など言語道断です!!
特に調理場は、信景様のお口に入るものを作る場所です 一切の妥協は許されません!!」
女中頭が声を張り上げ 城内を忙しなく走り回る
藩医の中川先生に信景様の近辺は常に清潔に保つようにと何度も念を押され
信景様の到着予定の数カ月も前から、徹底した大掃除か゚日々の日課となっていた
そしていよいよ信景が到着するという前日
朝倉義景 自らが、女中頭のお絹を従え城内の隅々までを入念に点検をして廻るという
家老職の朝倉景鏡を先頭に女中頭のお絹と2名の女中が続き その後ろを朝倉義景が歩く
中庭に面した廊下でふいに足を止めた朝倉義景が磨き上げられた柱に人差し指をす〜と上から下に走らせる
そしてその指を見つめた後 おもむろに舐めてみせる
「ふむふむ お絹よ 厠の壁を舐めれるか?」
「勿論に御座います 壁だけでなく床まで舐め尽くしましょう」
場内をくまなく見て廻り 最後に調理場を見た義景は、鍋の一つを手に取りうんうんと目を細め
「お絹! そちの働きには大いに満足じゃ! 褒美を取らすぞ そなたの実家の禄を加増いたすゆえ たしかに父上に伝え、登城するよう申し付けるがよいぞ!」
朝倉義景と景鏡が引き上げた後、ぺたんと座り込んだ女中頭に若い女中が心配そうに背を擦る
「大丈夫ですか?」
「大丈夫 これを使わずに済んで 気が抜けただけです」
そう言うと胸元から短刀を取り出す 何か手抜かりがあった場合の自害用に忍ばせていたのだ
越前国 一乗谷への街道の雪も溶け、過剰なまでの従者と護衛を引き連れた信景一行が門前町に姿を見せたのが、一乗谷の名の通り 城下町が谷間に作られているため物見櫓に登るまでもなく大手門より確認する事ができた
すると城内にいる者たちすべてが信景を出迎えるために大手門の磨き抜かれた石畳の両脇に
大手門を入るとすぐに朝服を身に付けた上級家臣らが並び、その後に直垂に狩衣を重ねた武士団が刀を脇に置き、若き跡取りの到着を待つ
その後方や脇に控えるのが色とりどりの衣装を身にまとった女中や簡素ながらも小袖を着用し
京の文化を重んじる朝倉家に相応しい格式の高い面々が頭を垂れている
そして大手門の広場を囲むように4月の桜たちが信景の門出を祝うように咲き乱れる
束の間の後 開かれた大手門の外に護衛や従者たちが両脇に片膝を付いて控え 絢爛豪華な籠が
置き据えられると、まだ年若く見える乳母が籠の扉を開き 信景の手を取り何やら耳打ちをする
生まれて初めて一乗谷の地を踏む 朝倉信景
大手門をくぐり抜け、両脇に頭を垂れ微動だにしない人々の間を、乳母のお里に言われた通り
粛々と歩みを進める
そしてその先に、見覚えのある顔 年に数える程ではあるが母の家に訪れ、2,3日滞在している間
片時も信景のそばを離れずに、母と同じ無償の愛を注いでくれた父上が待っている
駆け出したい衝動に駆られる…… ちらりとお里の顔を見ると
首を横に振り、目が“いけません!”と語っている
いったいどれだけの人数が控えているのだろうか? 思えばこれだけの人間を見るのも生まれて初めてかもしれない などと考えながら父上まであと僅かのところで再びお里が耳打ちをする
言われるままに片膝をつき、籠の中で何度も練習をした口上を述べる
「遠路ご苦労であった 信景よ 皆の者に顔を見せてやるがよい」
振り返る 信景 朝倉景鏡が声を張る「皆の者 面をあげよ」
何百人という人間と一斉に目が合う 幼い信景は後退りしたい気持ちを堪え見つめ返す
「幼い身ゆえ 皆の助けが必要です どうか支えていってください」
“ほぅ”という感嘆の吐息が漏れる わずか5歳とは思えない 凛とした佇まい
やや大きめの礼服に幼さと頼もしさが混在し、たちまちのうちに多くの者を魅了した信景だった
朝倉義景の満面の笑みで見守るその顔には、嬉しさと物悲しさが垣間見えた
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エヴァの事件録の方も読んでやって下さい さみしいのでwww




