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戦国魔法奇譚  作者: 結城謙三
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天守曲輪大広間

話が重くなってしまい 短めです

朝から土砂降りの雨が降り続く

それは何の前触れもなく。。。 

しかし縁故の者たちは不吉な予感を

頭の片隅に浮かべては、押し戻し 浮かんでは 押し戻しと

その憂いに支配されそうな心情を 吉報のみを信じ 

ここ数日の間を過ごしてきた 


彼らの主が、この浜松城を出立して ちょうど2週間

大半の者の予想通り 主は帰城した 

しかし 大半の者の願いを裏切り 物言わぬ姿となって


ここ大広間に集う者すべてが 彼らの眼差しを一身に受ける

男の言葉を待つ 

《天下布武》と書かれた布に包まれた

かつては、徳川家康だったものを前に座す 武田信玄


「わしは、今日一日 喪に服す」それだけを言うと ひどく疲れた様子で広間を後にする 信玄


「なぜ 僅かな供回りで殿を行かせた。。。?」初めに口を開いた本多忠勝 強く唇を噛み締め血が滲んでいる

「我等も同行を願い出たが、領内と同盟国内の道程だと言われ

 許されなかった」 そう答える酒井忠次の顔は血の気を失い

肩を震わせながら 忠勝を睨む

「殿は、信玄公に反意無きことを示すためにも 従者だけを

 伴い向かわれたのだと思います」大久保康隆 虚空を見つめ

ここに存在することさえ放棄しているようにも見える

「わかっているのだ! 貴殿らを責めているのではない

 己の不甲斐なさを呪っているのだ」本多忠勝の目から

堰を切ったように涙が溢れ落ちる

「我々も喪に服そう 明日 信玄公に戦の準備を始める

 許しを頂く」榊原康政が静かに だが決意に満ちた眼差しで

 皆を見据える


月も登り 降り続いていた雨も勢いを失っていた

ただ一人 亡き主に縋るように背を丸める 本多忠勝

広い広間が、さらに大きくさえ見える

その背中に音もなく近寄る 巫女の衣に身を包んだエヴァ

緋袴の緋色が淡い燭台の灯りに照らされ 幻と見紛うほどの

朱色に化ける

「慕っていたのですね」この上もないほどの慈愛に満ちた声で

忠勝の背に問い掛ける 返事はないが微かに肩を震わせる

「この方も、貴方を随分と大事に思われていました

 貴方のために何度も何度も 私に頭を下げられ。。。」

丸まっていた背中が、さらに丸まり 握りしめた拳を

己の口にねじ込み 全てのものを圧し殺すような嗚咽を漏らす

「貴方の体調は万全ではありません 戦えませんよ」

「力が欲しいですか?」今の忠勝が最も欲するもの

天使にも悪魔の囁やきにも聞こえる 甘き誘惑

逡巡の暇もなく肯く


昨日の大雨が嘘のように 晴れ渡る空

訃報を聞いた 近隣の領主が浜松城に駆け付ける

井伊谷城.城主 井伊直虎 野田城.城主 菅沼定盈

久野城.城主 久野忠宗 高天神城.城主 小笠原信興

掛川城.城主 石川家成 田原城.城主 本多広孝

夜を徹して駆けたのであろう 西三河の松平家の姿も見える


天守曲輪の大広間に武田、徳川それぞれの重臣、賓客らが粛々と

膝を並べる この集まりが徳川家康の送別だけでなく 

各々の領土を、この国の未来を左右するものであると

誰もが心得ていた

上ノ郷城.城主 松平康元を大久保康隆が席へと案内し

着席したのを見計らい 武田信玄が上座に着く


頭を垂れる一同

「頭を上げるがよい 今日は我が盟友 徳川家康のために

 足を運ばれた事に この武田信玄 心より感謝する」

「通夜、葬儀の日取りは、追って通告いたしますが 本日は、

 この場で各々方の決意を表明して頂くこととなります」

信玄の横に着座する 徳川家家老 酒井忠次が宣言する


一瞬ざわつく広間内 







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