独鈷杵と殺生石
晴明神社の山門を潜り 巫女に案内され、二の鳥居横にある詰め所へと足を運ぶ
「神主様、ご無沙汰しております」
詰め所の戸が開けられ 神主の安倍清親が姿を見せ 頭を下げる エヴァ
「これは、天女様 お久しぶりですね 何やら顔色が優れないようですが、どうかされましたか?」
「はい 今日は、神主様にご報告とお願いがあって参りました」
「それは、わざわざご足労いただきまして それで? どのようなお話でしょう?」
「はい まずは、京の町を襲った火竜ですが、私の仲間のルイという者が、岩村城にて
討ちました」
表情を一切崩さずに告げる エヴァ
「それは、素晴らしい しかし天女様のご様子ですと、そのルイと言われる方も傷を負われているのでしょうか?」
「はい 重症を負いましたが、命に別状はありません それよりも問題は、火竜が3匹の子供を産んでいた事なのです 3匹のうち2匹は、母親である火竜と同じような生態で
もう一匹が、実体を持たない。。。私達は、霧の魔獣と呼んでいますが 怨霊に近い存在です 火竜は討ち果たしましたが、残された子竜達も討たねばなりません」
「なるほど それを報せにわざわざ来ていただいたのですね ルイ殿の回復を祈らせて頂きます」
「ありがとうございます それでお願いと言いますのが、神主様に頂いた独鈷杵と
この殺生石を錬成する許しを頂きたいのです」
そう言い、神主の前に独鈷杵と殺生石を並べる
「殺生石。。。この石は、殺生石というのですか? 凄まじい力を秘めた石なのですね? というより、力を秘める事の出来る石という事でしょうか?」
殺生石を手に取り、目を凝らす 安部清親
「はい 魔力や妖力を封じておく事の出来る石なのです お玉様が、400年もの間封じられていた 石の欠片です」
「お玉様と言われますと?」
「九尾の狐の化身、玉藻前様です 先日、霧の魔獣を取り込んだ、崇徳院の怨霊に呪い殺されました その時に、この殺生石を使って治療をしたのですが 私の力が及ばず
お玉様を救う事は叶いませんでした しかしお玉様の死後、この殺生石の性質が変化したようなのです」
「天女様には、脅かされてばかりですな 玉藻前と言えば鳥羽上皇の寵愛を受け 当時の朝廷を牛耳っていた女傑 崇徳院を陥れ、讃岐に島流しとした張本人
それが九尾の妖狐の化身で、崇徳院の怨霊に呪い殺され、この殺生石に思いを残されたというわけですか。。。」
「はい この殺生石が、この国の民を護ってくれる気がしてならないのです」
「もとより、この独鈷杵は天女様に差し上げた物 青龍の力も増しているようです
天女様の思うようにして頂ければ 宜しいかと 青龍と九尾の妖狐の同居する宝具が
どのような力を持つのか、興味深いですな」
「ありがとうございます 私は、これから岐阜城へと向かいます 近々御嶽山に居る
火竜の子供達との決戦になるかもしれません それが終わりましたら またお話をしに
戻りますね」
久しぶりに笑顔を浮かべる エヴァ
「楽しみにお待ちしております 必ず生きて戻って下さい」
晴明神社の山門を出て振り返ると 深く頭を下げるエヴァ
忠勝の魔力を探知する。。。反応は無いが、生きている事は間違いない
ふぅーと長いため息を吐き 東へと向かう
大天狗の大上段より、振り下ろされた穂先に、蜻蛉切りを、右下段より振り上げることで左に逸し
大天狗の懐に飛び込もうと、一歩踏み出したところを引き戻された十文字槍の鎌が、忠勝の右の太腿を抉る
右手に蜻蛉切りを、掲げたまま たたらを踏んで、大天狗に向かい崩れかけた忠勝の首を、大天狗が右から左へと払った穂先が切断し、その勢いのまま 蜻蛉切りを持ち、振り上げた右腕の肘から先をも両断する
数えることを諦めるほどに、何度も何度も繰り返された死
普通の人間であれば、いやエヴァに会う前の忠勝であれば、立ち向かう気力を無くし 永遠の死をと懇願していただろう
コマ送りのように遅くなった時間の中、霞みゆく視界の中 自分の体の正面を落下していく蜻蛉切りを持ったままの右腕に左腕を伸ばし、右腕の切断された肘の部分を掴むと残された力で、右上に向けて振り上げる 1秒にも満たぬ、わずかな時間。。。
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