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戦国魔法奇譚  作者: 結城謙三
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大天狗

『これを、登って来いという事か?』

目の前の、岩の塔を見上げる 先程まで、体の感覚が無いと思っていた忠勝だが

産まれたままの姿で立ちすくむ、自分の身体を見下ろし 両の手の平を広げ見つめる

長い間に馴染んだ天女の加護。。。それが無い身体に、心細さを感じながらも

岩肌に手を掛ける 十分な光源が無いために、手探りで、岩の割れ目や所々に存在する

隆起に手足の指を掛けながら、体を上へ上へと押し上げていく

わずか10mほど登った所で爪が割れ、痛みが走る

それを気にすることなく、さらに上へと体を押し上げる

決して下を見るな!と自分に言い聞かせながら 上だけを見て、手足を動かす

どれほど登ったのかは、定かでは無いが 指から噴き出した鮮血が、左の目に入る

爪が剥がれ落ち、指先が裂け、血が噴き出したようだ 激痛に歯を食いしばりながら

なおも岩の隆起に手を掛ける

『半ばほども登ったのだろうか? これを、登り切った所で、本当に尊天の加護が貰えるのだろうか? そもそも。。。あの大天狗は、本当に自分に手招きをしたのだろうか?』

あまりの疲労と激痛に心が折れそうになってくる 忠勝


エヴァの顔が脳裏に浮かぶ〈本当に、無理はしないで下さいね〉つい先ほどに

何度も聞いた台詞、〈貴女を遺して絶対に死にません!!〉

そう俺は、愛する人と約束をした 絶対に生きて戻ると!


およそ1年前、浜松城で瀕死の俺を治療してくれて、3日も動けなくなった エヴァ

その浜松城で、我が主の死を知らされ心が張り裂けそうになる俺に、力を授けて下さった

岡崎城では、我が主の葬儀のために、陰ながら多大な貢献をして下さった

沓掛城でも、鳴海城でも、関ケ原でも戦いを終え 戻ると怪我などしていないかと心から

心配して下さった

焼け野原となった京の都で、鴨川に取り残された 赤子を助け褒めて下さった

一緒に旅もした 勝さん 勝さんと呼んで下さり バナナに舌鼓を打った

越中への旅では、夢屋という宿に泊まり 与夢弐号室という部屋で、死ぬまで忘れる事の出来ない まさに夢のような時間を過ごした

絶対に死ぬわけにはいかない! 俺には、あの人を遺して死ね事など出来ない!!


エヴァの事だけを考えながら、痛みも疲労も忘れ 手を足を動かす

『この命は、自分だけのものでは無い 天女様の、いや愛しい妻の許可なく

このような所で散らす訳にはいかない!』

指先の皮膚も肉も削げ落ち 剥き出しになった骨を岩の隙間に喰い込ませる

『これしきの痛み、火竜の犠牲になった 都の民の苦しみに比べれば!』

ふと 上を見上げる 大天狗の足元が、すぐそこに見えている事に驚き

最後の力をと、身体の芯から振り絞り 右手を伸ばす


その時、腰に下げていた羽団扇を大天狗が手に取り 忠勝に向かい一閃する

ぶわっと、忠勝と岩肌の間を、突風が吹き抜ける

忠勝の両手、両足が岩から離れ 啞然と大天狗の眼を見る 

『俺は、落ちるのか!? ここまで来て落ちてたまるか!!』


ふわっと忠勝の背中を一陣の風が押す

「えっ!?」 必死に岩肌にしがみつく 忠勝

《天女が待っているよ! こんな所で気を抜くんじゃないよ!!》

「えっ!? お玉様!?お玉様 かたじけない!ありがとうございます!!」

足の指に力を込め 岩を蹴り 腕を伸ばし 大天狗の足首をがっしりと掴む 忠勝


大天狗の動向に注意をしながら 岩の塔の頂上へとよじ登る

攻撃を仕掛けてくる様子のない大天狗から、視線を逸らすことなく 

その場で、大天狗と対峙する

「登ったぞ!!」

「ああ 見事だった」

大天狗から、人語が発せられた事に驚く もっとも口元はピクリとも動いていないのだが

「話せるのか!?」

天を指差す 大天狗

「お前が話しているのではないのか?」

いつの間にか、日中のように明るくなっている空を仰ぎ見る

「本多忠勝 お前で、ここまでたどり着いたのは、2人目だ 1人目の遮那王は、この国に愛想を尽かし 大陸へと去ってしまったがな」

天から声が降ってくるように、淀みなく忠勝の耳に入ってくる

「お前は、尊天の力を何に使う?」

「愛する者を守る為に、火竜を討つ!」


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