毘沙門天
京へと登る馬上で、様々な思いが交錯する 上杉謙信
降り注ぐ8月の強すぎる日差しに、絶え間なく続く蝉の声
12年前のこの時期、武田信玄と初めて刃を交わした時に、目を閉じ思いを馳せる
世間では、4度目と言われる川中島の戦い 自分の中では、これまでの牽制や睨み合いではなく、敵将·武田信玄の首を取る事を決意した 初めての川中島であった
1万3千の兵を率い、千曲川を渡り妻女山に布陣し退路を自ら断つ
それを見た茶臼山に布陣した武田勢2万は、軍師·山本勘助の進言により兵を2つに割り
挟撃をするために、夜陰に紛れて妻女山の後方へと兵を動かしている事を、毘沙門天の導きにより見通していた我が軍は、武田の別働隊1万2千に気づかれぬよう 夜半より辺りを覆い始めた濃霧に紛れ、武田本隊が布陣するであろう八幡原へと篝火も陣幕もそのまま妻女山に残し出陣をする
やがて東の空が白み始め、八幡原を覆っていた濃霧も薄くなり
我が軍が妻女山で別働隊と接敵すると思い込んでいた武田本隊8千に対し、上杉軍1万3千が車懸の陣で襲い掛かる
しかし、そこは当代随一の軍師·山本勘助要する武田本隊である 別働隊が戻る為の時間を稼ごうと、すかさず鶴翼の陣で支える
それも8千対1万3千の戦力差である、鶴翼の前列部隊を壊滅させ、次列部隊も剥がし
山本勘助を討ち取り 本陣を守る副将の武田信繁の首級を取る
武田信玄の居る本陣を丸裸とし、我自らが率いる本隊が武田信玄の首級を取るべく襲い掛かる 本陣内そこかしこで激しい剣戟が交わされる 本陣最奥に数人の赤備えに守られた
鬼の前立てに白毛をなびかせた諏訪法性兜が目に飛び込む
十数年ぶりに見る武田信玄である 武田別働隊が戻るまでに、その首を胴から切り離してくれる!!
一直線に武田信玄へと切り込んでいく、取り巻きを一人切り伏せ、もう一人を蹴散らす
「武田信玄!!覚悟!!」
上段より振り下ろした太刀が武田信玄の右手に持つ軍配で防がれる
2太刀3太刀と切り結ぶが首を取るには至らず 武田別働隊の接近の報せが入り
両軍合わせて8千人の死傷者を出す 死闘の幕が降りる
我が毘沙門天の加護を受けているように 武田信玄も何か巨大な力に護られているのだと
この戦いで気付かされる
「あれから12年か。。。」ふと目を開け、独り口籠る
領土欲など持たぬ自分が、戦、戦に追われる年月 関東守護の職を全うするために戦乱の世を駆け抜けた結果が、宿敵である武田信玄が将軍職に就き、それに従えとの勅命か。。。
自分でも何がしたいというわけでも、ましてや天下を統べたいという野心もないが
武田や北条と手を取り合う気にもなれず、出来る事なら放っておいて欲しいと言うのが
本心であった しかし、これだけの力を持っている上杉家を放置出来ないという朝廷及び幕府の言い分も理解ができる
さんざん思い悩んだ訳だが、この国を再び戦乱の世にはしないと言う武田信玄の言葉を信じ 越後を我が養子·上杉景勝に託し 我は、引退する許しを乞うための上洛であった
その事を伝えずに上洛している訳だが、こちらの真意もわからずに今頃、武田信玄も気をもんでいる事であろう いい気味である
その時、前方から兵たちの間を縫って 不快な瘴気が近づいて来ることに気付く上杉謙信
「人外の者か? オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ
オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ オン ベイシラ マンダヤ ソワカ」武神·毘沙門天の真言を唱え続ける 上杉謙信
上杉謙信を見つけたにも関わらず 強い呪文により憑依することが叶わず
中空を彷徨う ネボア
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