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9.

本日2話投稿の1話目。

視点変わります。

 売られた喧嘩は買うし、勝つ。


 玉座に興味はないが、王都に居るだけで暗殺者に年に数回狙われ、毒殺についても片手以上、嫌がらせの類いは数え切れないほど仕掛けられて、いささか迷惑に感じていた。腹違いの兄達の手の者だろうが、本人が仕掛けてきたかどうかは怪しい。度胸も知略も持ち合わせていないような当人らのことである。

 ただ、彼ら自身の臣下を抑えられないのなら、王座に就くための手腕は彼らに無いのかもしれない。……まぁ、無いだろうな、と思う。


 王都の馬鹿者どもには嫌気が差していた。

 そんなおり、現国王の弟、俺の叔父であるハウツィヒ公から、ギスムントでの政務を打診された。隣国との国境と交易港を抱える貿易と国防の要所である。

 更迭とも降格ともとれる意向。王妃の差し金という線も有り得るが、最終的な許可は現国王。彼はここ数十年の内政を見ても分かる通り、なかなかの切れ者だと思う。俺の胸裏に関しても熟知していた故の判断ではないかと思う。

 これ幸いと、苛烈を増す継承権争いから逃れ、居を移して早2年が経過しようとしていた。


元々のギスムント地方を治めていたのは叔父であるハウツィヒ公である。いくつかの領地を抱えていたのを俺に委譲する形である。「手が回らなくてね」と言うほど荒れてはいなかったが、地方役人達の性格や人柄を吟味し、人員の入れ替えを大々的に行うと共に、2年の間に国境ルートの道路保全と盗賊の討伐、不正や賄賂の横行していた陸路・海路の交易についても粛正しシステムを見直して、治安もすこぶる良くなった。

 現在は、周辺地域からの移住希望者もあり、今年の人口増加は著しい。


 人口が増えて活気が出るのは良いのだが、それに伴って仕事も増える。

 公営の住居の建築を急がせ、郊外の市場を奨励し、過密化を防いだり、上下水道の整備を見直したり、いくつかの商工組合での取り決めが原因で起こったいざこざの仲裁、職業仲介所の整備、私塾の補助金制度や奨学金制度、税納付の厳格化……色々と考えることも増え、それなりに忙しい。

 中には仕事の能力が高いのに、王都の人間関係や煩雑さを嫌って流れてきた者もいて、重用しているが、やはり人手はどこも足りない様子だ。


 ──それに、この地は我が国においても重要な、とある事情を抱えていた。




 「はぁ、なに言ってるのかわかんないし。なによ。名前ここに書けばいいのね……で。私の制服とカバンはいつ返してくれるのよ。もー。だからわかんないってば。え、なに。この地図のトコに行けばいいの? 」


 聞き慣れない言語に、振り返ると異世界からの流民らしい人物が目に入った。

 いつもの光景だ。だが、あの声質は女だろう。異界渡りに女は珍しい。それで、何とはなしに目で追ってしまったのだ。


 懸命に彼女は担当事務官の意図を読み取ろうと地図や資料を覗き込んでいたが、顔を上げた拍子に被っていたフードが肩に落ち、頭部があらわになった。


 その色に、目が奪われた。


 ここ、ギスムントは異世界から流れ着く者が非常に多い。

 100人に1人程度の割合で異世界人が都市の人口を占めているというから、国内随一の密度である。

 各地に配備した治安管理を兼務する流民管理官によって、異世界人はこの管理事務局に送られ、戸籍やこの地で暮らすために必要な知識や資金を与えられるのだ。


 フードが脱げた途端、釘付けになった。

 彫りが浅く、柔和な線を描く顔のパーツ。声からも推測できたが、やはり華奢な造りは女性なのだろう。

 異世界人で女性というのも珍しいが、それより何より……

 「なんだ、アイツ……」思わず市井の言葉がこぼれた。


 髪が黒い。目も黒い。


 ──聞いた事がある。

 王族の始祖は、黒髪に黒い目だったと。


 明るい髪色や淡い目の色が多い我が国において、黒に近い髪色や黒に近い目の色の者がもてはやされるのは、そんな事情がある。

 そういう自分も濃い藍色の髪に深い紫の色の瞳だ。黒に近づきたい者達の混血の結果といえよう。 


 だがしかし、あんなに濃い「黒」の人間は見た事がない。


 「どうかされましたか? 」尋ねる筆頭書記官の言葉を片手で押しとどめる。

 「クルツ……あの異世界人の世話役、俺がやる」


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