飴玉を噛む時
「結婚する気はない」
そう言い放った彼女の冷静な眼差しは、もう光を含んでいなかったし、僕の溢れる情熱さえ1mmたりとも受け入れる様子はなかった。
彼女の意志は固かった。そんな強固な拒絶を面と向かってぶつけられた僕は、苛立ちを隠せなかった。
随分前から彼女が僕と結婚する気がない事は分かっていた。僕が彼女との未来を想像しながら例え話をすると決まって彼女は黙り込んだ。彼女は残酷なほど正直な人だったから、僕を弄んだり、その場だけでも同調して良い気分にはさせてくれなかった。
だから、分かってはいた。僕と彼女に未来がない事くらい。
このまま現状維持したいなら将来の話はタブーだった。
今日は僕の誕生日だった。いつもより少し手の込んだ料理を一緒に作り、安物のワインで乾杯した。食事の後、彼女は照れ臭そうに僕がいつだか何気なく欲しいと言っていた時計をプレゼントしてくれた。覚えていてくれたのが嬉しくて、迂闊に、一生大事にする。と時計と彼女を見ながら言うと、やっぱり彼女はそれまで完璧だった笑顔を少し歪ませた。
こんな日でも、彼女は彼女が決めている事を崩さなかった。その決意は恐ろしいほど一貫していて、僕をがっかりさせた。
僕がいくらキャンパスに絵の具で色を塗っても塗っても、彼女の言動は一瞬で色を褪せてしまわせた。
酒を飲んでいた事と長い間行われていた彼女の非道に辛抱たまらず、聞きたくてたまらないけど聞いてはいけない事を、その日は聞いてしまった。
「結婚とか、どう思う?」
彼女は、それまでの和やかな雰囲気を一変させ、節目がちにし表情は読めないが、気落ちしているのがわかった。




