穴
こちらは百物語六十七話になります。
山ン本怪談百物語↓
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小学生の時の体験です。
夏休みに入ったばかりのある日、私と1つ下の妹は色々あって田舎に住む爺ちゃんの家で数日間生活することになったのです。
自然溢れる田舎での生活。都会っ子でテレビゲームばかりやっていた私たち兄妹にとって、ここでの生活はとても新鮮なものでした。
山に入って動物や昆虫を見つけたり、川で釣りをして魚を食べたりもしました。
そんな生活の中で、私たちはとても不思議な体験をすることになるのです。
「あそこにゃ入っちゃいかんぞ。危ないからな」
爺ちゃんの家の近くには、どういう理由で作られたのかよくわからない「洞穴」があります。洞穴の入口は頑丈なフェンスで塞がれており、中へ入ることができないようにされています。
だから私たちは、きっと安心しきっていたのでしょう。
田舎生活最終日。
私たちは爺ちゃんの言いつけを破り、あの洞穴へ近づいてみることにしたのです。
「なんか変な臭いがするね…宝物とかあるのかなぁ~」
洞窟の中は真っ暗で、懐中電灯でも点けないと一歩先の足場すらわからない状態でした。
「何もわからないし、もう帰ろうか。なぁ?」
妹に向かってそう言い放った瞬間、妹がいきなり洞窟の闇を指さしたのです。そして…
「お姉ちゃんがおる!」
そう言い放ったのです。
「誰もいないじゃん!嘘つくなよ!」
私は咄嗟にそう言い返しましたが、妹は静かになるどころかさらに話を続けます。
「嘘ちゃうよ。こっちに向かって手振ってる。ほら、こっちに向かって歩いてきた…!」
妹は必死で見えている何かを私に伝えてきますが、こちらからは何も見えません。しかし…
「ほら、こっちくる!お姉ちゃんこっちきてる!怖い…怖い…!」
妹がパニックになり、私に向かって助けを求めてきました。しかし、何も見えない私にはどうすることもできません。
「大丈夫だって!何もいないじゃん?さっきからどうし…」
その時です。
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
洞窟の入口を塞いでいたフェンスが、いきなり大きな音をたてて揺れ始めたのです。まるで何者かがフェンスを押し倒そうとしているように…
「う、うわぁあああああああっ!?」
慌てた私は、急いで妹を連れて爺ちゃんの家へ帰りました。泣きながら帰ってきた私たちを見た爺ちゃんは、大きなため息をつきました。
「お前らアソコへ行ったのか?そんなことするから怖いもん見るんだぞっ!?」
言いつけを破ってしまったことがバレてしまい、私たちは爺ちゃんからきついお説教を受けることになってしまいました。
「アソコは『防空壕』だ。色々あったけど、アソコは特に悲惨でなぁ…」
あの洞穴は、戦時中に防空壕として使われていたそうです。この辺りは大きな爆撃の集中砲火を浴びたこともあり、当時はかなりの人々が犠牲になったと聞きました。あの防空壕に避難していた人々も…
「後で防空壕へ花を供えにいくぞ」
夕食が終わった後、私は爺ちゃんと再びあの防空壕へ向かうことになりました。しかし…
「妹は家に置いていくぞ。たぶん次見えたら連れていかれる」
私と爺ちゃんは防空壕へお供え物を持っていった後、迎えに来た家族と一緒に家へ帰りました。
あれから数十年間、妹は爺ちゃんの実家へ遊びに行っていません。
爺ちゃんが家へ遊びに来る日は増えましたが、妹は今だに爺ちゃんの実家へは出入り禁止になっているのです。
「隣に住む爺ちゃんの息子もアソコで連れていかれちまったからなぁ。妹は絶対ウチに連れてくるなよぉ?」
爺ちゃんは笑いながらそう話していました。
作者の山ン本です!
あけましておめでとうございます!
今年も怪談をたくさん書く予定なので、山ン本怪談百物語をよろしくお願いします!