表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

CAR LOVE LETTER 「Open traffic」

作者: YAS
掲載日:2009/08/14

車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。

貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?

そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。

<Theme:MITSUBISHI eK WAGON(H82W)、MAZDA EUNOS ROADSTER(NA6C)>


大きな事故を起こしてしまった。


仕事で訪れた長野の山村。慣れない道で、方角もよく分からない。

ナビを頼りにふもとの街まで降りて来たが、緩やかなカーブでガードレールに激突。

原因はナビに気を取られた脇見運転だった。


何が起こったのか全く分からない。

ボンネットはひしゃげ、ハンドルからはエアバッグが垂れ下がっている。

事故を起こしたと認識するまで、かなりの時間を要したと思う。


体が痛い。骨折まではしていないだろうが、私は鼻血が止まらない状況。鼻を強く打ったのだろうか。エアバッグには私の血痕が残っている。


逃げなくちゃ。もうろうとしながら、車からの脱出を試みるが、体が思う様に動かない。


すると突然ドアが開き、「大丈夫ですか!?」と若い男性の声が聞こえた。

その男性に助けられ、私は車から引きずり降ろされる。


「警察と消防、呼びますから。座って待ってて下さい。」

彼はそう言い、電話を掛けながら後続の車の誘導や、道路に散乱した私の車の部品をかき集める。


学生の頃から貯金して、初任給と合わせて買った私のeKワゴン。

そのeKワゴンは今、ガードレールの端末に突き刺さり、一筋の煙を上げながら、全ての機能を停止してしまった。


よく私は助かったものだ・・・。私は路肩に腰を下ろし、鼻をハンカチで押さえてeKワゴンの姿を見る。今私が生きているのが不思議に思えてしまう程の惨状だ。


さっきの男性が、沿道のヤジウマ数人に協力をあおぎ、私のeKワゴンを路肩に移動する。


「お姉ちゃん、寒いじゃろぉ。すぐ救急車来るからな。」

近所に住んでいる方だろうか。お婆さんが私の肩にショールをかけてくれた。


直に救急車が到着。これが生涯初の救急車搭乗。

救急隊員に名前と年齢を聞かれ、ペンライトで目を照らされる。

ものすごく眩しい。


救急車に乗せられ、事故現場から搬送される私。

動かなくなったeKワゴンを残し、お世話になった人にお礼を言う間もなく、後ろ髪を強く強く引かれる思いだった。


病院では、鼻の止血に始まり、レントゲンやらCTスキャンやら、いろんな検査を受けた。

結果は強めの打撲と、鼻の内側が切れた程度。あの惨状からは考えられない軽傷だった。


検査を終えると看護師さんが、私の鞄やコートを手渡してくれた。

事故直後もうろうとしてて、車から荷物を出す事をすっかりと忘れていた。


「それと警察の方と・・・、男の方が待っててくださっていますよ。」と言われる。

男の方?誰だろうか?と不思議に思う。


病院の待ち合い室ではおまわりさんと、私をeKワゴンから助け出してくれたあの人が待って居てくれた。


「大丈夫でしたか?心配しましたよ。」


彼はそう言い、安堵の笑みを浮かべた。

初めて会ったのに、とても親近感のあるその表情。


私の車は、長野の三菱のお店に運んでもらったこと、彼は私の直ぐ後ろを走っていたことから、事故の瞬間の話や、事故処理の話など、色々と話してくれた。

彼が居てくれたおかげで、おまわりさんの調書はあっという間に済んでしまった。


「ご自宅は名古屋の方ですよね?名古屋ナンバーだったので。お送りしますよ。」


救助から事故処理までしてくれて、更にその上県外まで送ってもらうなんて、これ以上ご面倒かけられない、電車タクシーで帰ります!と、彼の申し出を断ったのだけれども、


「もう電車も終わっているでしょうし、失礼ですが、そのなりでは電車はちょっと・・・。」


よく見ると、私のブラウスやスカートは血で真っ赤!

確かに電車に乗るのは・・・。


「名古屋なら高速ですぐですし、ちょうど今日は車を走らせたい気分なんです。ポンコツでよければ、乗って行かれませんか?」


すみません・・・私は顔から火が出そうだった。


病院の駐車場には、彼の緑の車だけが一台、水銀灯の光を浴びて、私達を待っていた。


屋根の色が違う。あぁこの車知ってる!確かロードスターと言うオープンカーだ。

初めて乗るオープンカーに、私は興味津々。それを感付いたのか、彼は、


「開けても良いですか?結構気持ち良いですよ。」と、軽い操作でソフトトップを開放した。


満天の星空に、綺麗な三日月。これが車から見る景色だなんて。


名古屋までの道中、彼とはいろんな話をした。会話も途切れる事もなく、怪我の痛みも一切忘れ、気付いたらもう名古屋市内だった。


アパートまで送ってもらい、私はお礼にと思い、財布から2万円を取り出し彼に渡そうとした。

すると彼は大きく首を横に振り、受け取る事をがんとして断った。


それでは私の気が治まらないと訴えると、


「それじゃあ、今度長野の三菱のお店に来られた時、蕎麦をご馳走して下さい。最高に美味しい蕎麦を知ってるんですよ。」


そう言うと彼は、私に名刺を差し出した。

よく知っている電子機器のメーカーロゴが、そこにはあった。


私のeKワゴンは、直すのにはかなりの費用がかかることから、残念ながら廃車する事にした。

体を張って私のことを守ってくれたeKワゴン。決断するときは、本当に辛かった。

だってeKワゴンは、私に生きるチャンスを与えてくれただけでなく、とても大切な出会いも与えてくれたのだから。


さて、待ち合わせからはもう30分も経っているけれど・・・まだ現れない。

さっき電話をしたら、ごまかしていたけれど、どうも今起きた様な声だった。

彼の会社の製品は、決して時間が遅れたりなんてしないのにね!


程なくして、交差点の向こうから聞き慣れたスポーツカーの音が聞こえてくる。

今日は私ではなく、彼のおごりで最高に美味しいお蕎麦をいただく事になりそうね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 幸せになる感じで、好きですねえ。こういう作品。さりげない彼の登場の仕方もグッド。でも、車はいつも大事故と隣り合わせになる危険性もあるので、息子や主人にあまり遠出はしてほしくないんですけど、誰…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ