9.冒険者のお手伝い
教会へ続く一本道。
左右に木すら一本も生えていない殺風景な道を、武装した三人組が歩いていた。
一人は腰に剣を携え、また一人は背中に長槍を背負い、さらに一人は木の杖を両手で抱えている。
三人は迷うことなく道を歩き、先にある教会を目指していた。
「はぁ~ 何で教会ってこんな離れてるんだよ。しかも坂道だし……商店街の横とかでいいじゃん」
「神聖な場所だからだよ。ガヤガヤしてる商店街なんかと一緒に出来ないし、あそこは街の中では一番天に近いから」
「そんなんどこでも一緒だろぉ~」
「文句ばっかり言ってないで歩きなさい。もうすぐ着くわ」
「へーい」
槍を背負った男は気だるげに最後尾を歩き、その少し前を歩く剣士が彼を気に掛ける。
杖を抱えた女性はため息をこぼし、先頭を歩きせっせと先に進んだ。
そして長い道を歩ききった三人は、古びた教会にたどり着く。
「へぇ~ 思ったよか綺麗じゃん」
「いや、前に見た時はもっとこう、埃まみれで廃墟みたいだった」
「ほえぇ~」
「手入れしたのよ。せっかく聖女様が来てくれたんだから、汚い教会なんて格好悪いでしょ?」
そう言った彼女に、槍使いは不服そうな顔を見せる。
「聖女様ねぇ~ そんなに偉いのか?」
「偉いというか偉大だよ。聖女様じゃなければ穢れは祓えないんだから」
「そうよ? この間だって、穢れから街を守ってくれたみたいだし」
「はっ! どうだか? 周りがうるさいから仕方なく戦っただけなんじゃねーの?」
「何だよさっきから。そんなに嫌なのか?」
「嫌っていうか、聖女って大体貴族なんだろ? 貴族なんて偉そうにしてるだけで、いざって時何もしないボンクラばっかりじゃん」
槍使いの悪態を聞きながら、剣士はやれやれと首を振る。
彼は貴族に対してあまり良い印象を持っていなかった。
同時に、貴族が多いとされる聖女に対しても、同様の偏見があった。
事実、この街を治めている領主は気分屋で傲慢。
街のことをほったらかしにする癖に、税だけは多く要求するロクデナシだった。
「調子に乗ってるのがわかったら俺は帰る」
「勝手言わないでよ。何のためにここまで来たのかわかってる?」
「わかってません」
「ちょっと!」
「まぁまぁ、とりあえず中へ入ろう」
喧嘩が始まりそうな雰囲気を感じて、剣士がその場を宥める。
三人は改めて教会のほうを向き、その扉をノックする。
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは若い男性の声だった。
首を傾げる槍使いに剣士がぼそっと教える。
「たぶん護衛の騎士だよ」
「ああ、そういう」
護衛なんているとは大層な身分だな。
とでも言いたげな顔を見せ、槍使いは鼻で笑う。
そんな彼を見て、頼むから騒ぎだけは起こさないでくれよ……と、剣士は心の中でぼやく。
「失礼します」
中に聞こえるように声をかけ、扉を両手で引っ張る。
左右の扉が開き、広がる教会の景色。
古びていようと神々しさを放つ室内に、思わず魅入る。
神聖な場所とは確かにその通りだと、一人を除いてシミジミ思う。
そして一人は、別の者に目を奪われていた。
「こんにちは」
ニコリと笑う彼女。
窓から差し込む光が金色の髪を輝かせる。
太陽のように暖かな笑顔を見て、魅せられた彼は思わず――
「か、かか……可愛いじゃねぇか」
「へ?」
本音を漏らした。
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その後、場所を教会の奥にある談話室に移す。
三人が並んで座り、テーブルを挟んで聖女であるレナリタリーが座っている。
そして彼女の後ろには護衛騎士であるユーリが立っていた。
「えっと、改めて自己紹介をします。俺はロイドと言います。見ての通り剣士で、このパーティーのリーダーです。隣が魔術師のアリサ」
「よろしくお願いします。聖女様」
「その隣が――」
「はいはーい! オレは槍使いのジェクト! この辺じゃ一番の戦士なんだぜ!」
一人だけ立ち上がり、胸をドンと豪快に叩いての自己紹介。
自信満々の笑みを見せる彼に、仲間の二人は呆れ顔。
レナリタリーは少し驚きながら、というか若干引きながらも表情は崩さず、ニッコリ笑顔のまま挨拶をする。
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私はレナリタリーです。後ろの彼は、護衛騎士のユーリです」
「ユーリです。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をするユーリに、ジェクトを除く二人がお辞儀を返す。
全員の挨拶が終わり、レナリタリーが尋ねる。
「それで、本日はどのようなご用件でしょう?」
「はい。実は魔物のことで、聖女様にご相談がありまして」
「魔物ですか?」
「はい。聖女様は、魔物はご存じですよね?」
「はい。実際に見たことはありませんが、文献で目は通しています」
魔物を一言で説明するなら、人間でも動物でもない生き物、である。
厳密な区分はない。
ただ、時に理性や知性すら持ち、恐ろしく狡猾で凶悪な存在とされている。
穢れとは異なる存在だが、その恐ろしさから姿を模しやすい対象でもあった。
「この街の周辺でも魔物はいるんです。俺たちの仕事の一つが、その魔物退治なんですが……」
「何かあったんですか?」
「はい。最近になって急に魔物が凶暴化してるんです。もしかしたら、穢れが関係してるんじゃないかと思って、その相談がしたくて」
「そうですか。魔物……」
レナリタリーは真剣な表情で彼らの話に耳を傾ける。






