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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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4.決別と旅立ち

 久しぶりに、私は実家に足を運んだ。

 聖堂に入ってからは、生活のほとんどを王城の敷地内で過ごしていて、外に出る機会は限られていた。

 良くも悪くも守られていて自由はなかった。

 特に私の場合は、家にも居場所がなくて、帰る理由もなかったから。

 だから素直に驚いた。

 急に帰って来いなんて、言われるとは予想していなかった。

 とは言え丁度良いとも思った。

 地方への派遣まで一か月を切った。

 そして私にも、専属の騎士が一人現れたのだから。


「やぁ、レナリタリー」

「アウグスト様?」


 実家の屋敷に入ると、最初に出迎えてくれたのは両親でも妹でもなく、さわやかな笑顔を見せる金髪の美男子だった。

 彼の名前は、アウグスト・シーベル。

 上級貴族の中でも特に権力をもつ、五大貴族の一角シーベル家。

 その次男にして、私の許嫁……今は婚約者。


「久しぶりだね。元気にしていたかい」

「はい。アウグスト様は、どうしてここに? もしかして、アウグスト様も招待されたのですか?」

「いいや、違うよ」


 彼は首を横に振る。


「君を呼んだのは君のご両親じゃない。僕なんだ」

「え?」

「話したいことがあってね。ああ、ご両親なら不在だよ。貴族同士の会合に向われて、明日まで戻ってこないそうだ」


 彼は淡々と話を続ける。

 疑問に疑問が上乗せされて、話についていけない。

 ただふと思い出す。

 そういえば、屋敷の敷地に入ってすぐ停まっているはずの馬車がなかった。

 あれはお父様たちが出かける時に使われるもので、つまりそういうことだった。

 疑問へさらに、違和感も重なる。

 私は不審に思いながら、彼に恐る恐る尋ねる。


「お話というのは……何でしょう?」

「ああ、大切な話だ」

「大切な……」

「そう。僕と君の、将来に関わることなんだ」


 将来。

 その一言だけで十分だった。

 彼が私に何を言いたいのか……それを察するには。


「レナリタリー、君との婚約を解消したいんだ」

「え……」


 驚くような声が出た。

 自分の表情は見えないけど、たぶん悲しんでいる。

 薄々わかっていたことでも、実際に突きつけられたら驚くらしい。

 そんな風に考えられる程度には冷静で、思わず声や表情に漏れてしまうほどには、ショックを受けていた。


「すまない。本当は……こんなことを言いたくなかった。だが仕方がないんだ。だって君は、もうすぐこの地を去るのだろう?」

「それは……」

「聖女の務めを果たすために、君の行く場所はとても遠い。僕はこの国の貴族で、いずれ王政の一端を担う者だ。その僕が、統治もされてない辺境で過ごすことは出来ない」


 尤もらしい理由を口にした。

 申し訳なさそうに眉を下げ、悔いるように唇を紡いている。

 だけどそれは、全て真実ではないと知っている。

 口にしたことだけが理由ではないと。

 とっくの昔に彼の心が、私から離れてしまっていると。

 彼が私のことを、『レナ』と呼んでくれなくなった日に、誰と笑い合っていたのか。

 私は見て、知っている。


 その相手は――


「ごきげんよう、お姉さま」

「ラトラ……」


 私の妹だった。

 彼女はひらりと豪華なドレスに身を包み歩み寄る。

 私の元ではなく、彼の隣に。

 まるで、ここが自分のいるべき場所だと、私に見せびらかす様に。


「ご心配なさらないでくださいお姉さま。家のことも、アウグスト様のことも、私にお任せください」

「……」


 ラトラはニッコリと微笑む。

 無邪気に、天使のように。

 その笑顔に、一体何人の男たちが騙されたのだろう。

 内面は悪魔のように冷たくて、計画的で策略的で、私から色んなものを奪っていった。

 容姿も、表向きな性格も、勉学の才能も、貴族としての気品も。

 全て、何一つをとっても、私より優れてる彼女は、両親はもちろん周囲からも好かれ、期待されていた。

 アウグスト様が彼女と親しくなっていることなんて、すぐにわかった。


「お姉さまは聖女として、立派に役目を果たしてきてくださいね」

「ああ。僕も期待しているよ」


 やめて、そんなこと言わないで。

 期待なんてしていない癖に。

 その笑顔だって、何も詰まっていない空っぽだとわかっているから。

 でも私には、文句を言う資格もない。

 返せる言葉は一つだけ。


「はい」


 ただ、身を引くしかない。


「話は……これだけですか?」

「ああ、そうだ」

「わかりました。それでは……失礼します」


 まるで他人の家から去るように、私は二人に頭を下げる。

 ここは私が生まれた場所で、私の家なのに。

 今は何だか、知らない場所にさえ思えてしまう。

 屋敷を出て、身体から何かがすーっと抜け落ちたような感覚に襲われて、ようやく私は気づいた。

 私のことを縛っていた鎖が、繋いでいた縄が途切れたんだと。

 そして同時に思う。

 直感的に、あるいは確信をもって。


「さようなら」


 私はもう、この屋敷に戻ってくることはないのだろうと。


 それから一か月弱。

 王城の聖堂で過ごす時間はあっという間に過ぎていった。

 私は毎日のようにユーリと話しをして、一緒に練習を重ねて。

 結局、何一つ上達はしなかったけど、少しだけ勇気を貰えた気がする。


「準備は出来てるか?」

「うん」

「忘れ物は?」

「ないと思う」


 馬車に荷物を運び終え、私も一緒に残りこむ。

 後からユーリが乗りこんで、馬に繋がった手綱を手に取る。


「あいさつしておく人は……大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


 そんなに気を遣わなくても良いよと、私は精一杯微笑んで返した。

 

「そっか。じゃあ、行こう」

「よろしくお願いします」


 パチンと、ユーリが馬を手綱で打ち付ける。

 馬は声もあげずに歩き出し、ゆっくりと一歩ずつ、確実に王城から離れていく。

 私もユーリも、それから一度も振り返らなかった。

 目指すは辺境の小さな町アトランタ。

 私はそこで、聖女としての役割を果たしていく。


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