2.運命の出会い
大聖堂は王城の敷地内にある。
敷地はとても広くて、ゆっくり歩いて回ろうと思ったら、一日じゃとても回りきれない。
中には建物以外にも、森や湖という自然もあったりする。
とりあえず人があまりいない場所を探して、私は敷地をウロウロと散策した。
王城の近くは当たり前だけど人が多い。
大聖堂の近くも同じで、城門付近は出入りが激しい。
人通りを避けて歩いていくうちに、私は森に入り込んでいた。
自然にある森には危険がいっぱいあるはずだけど、敷地内の森は手入れもされていて安全だった。
空気が美味しくて、吹き抜ける風が気持ち良い。
「ここなら……良いかな」
誰に確認するわけでもなく、ぼそっと呟く。
森の中でも吹き抜けた場所に出て、周りには人影もないことを確認する。
何だか悪いことをしている気分になるけど、私はただ静かに練習がしたいだけ。
緑が生い茂る地面は、太陽の日差しで温かい。
私はそっと膝を下ろし、目を瞑って両手を組む。
聖女の力は大きく分けて二つ。
癒しの力と、穢れを祓い清める力。
強さや範囲などには個人差があり、死に至る大きな怪我や大病でも簡単に治してしまえる人もいれば、私のように軽い傷が精一杯の人もいる。
聖女にとって祈りは象徴だ。
それが人一倍弱い私は、聖女として未熟だということで。
ズサッ――
「あれ? 珍しいな。ここに人がいるなんて」
足音がして、その次に声が聞こえて来た。
男の人の声だ。
私は祈りを止めて、慌てて後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、黒髪で青い瞳、腰に剣をさした同い年位の男の子だった。
「あぁーごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど……いや、急に後ろから声がしたら驚くよね普通」
「あ、あの……貴方は?」
「俺はユーリ。この格好を見ての通り、そこの養成所に通ってる騎士見習いだよ。君は聖女候補だよね?」
「はい。私はレナリタリー・ペルルです」
これが彼との出会い。
運命なのか、それとも偶然なのかはわからない。
もしかしたら、この出会いをきっかけに私の人生は動き出したのかもしれない。
何となくの予感でしかないのだけど。
「え、そこの?」
「うん。ほら、ちょっと奥。葉っぱの隙間から騎士団隊舎が見えるでしょ」
そう言って指をさした方に視線を向ける。
揺れる葉っぱが邪魔で見えにくいけど、一瞬だけ強い風が吹いた時、空の青と隊舎の白い境界線が見えた。
「ほ、本当だ。じゃあここも、騎士団の管理区域なの?」
「そうだよ。だから驚いたんだ。こんな場所に人がいて、しかも聖女候補だなんて」
気付かないうちに、聖堂からすごく離れていたらしい。
騎士団隊舎は、聖堂とは真反対にあるのに。
別にこれといって規制されているわけじゃないけど、騎士団は男ばかりだからという理由で、聖女候補のみんなは進んで近寄らない。
それで彼も驚いたと言っている。
「ご、ごめんなさい。勝手に入り込んでしまって」
「別に謝らなくても。さっきの光は聖女の力?」
「え、はい」
「そうなんだ。初めて見たけど凄いね」
「凄い……ですか?」
「うん。あんなに綺麗な光は生まれて初めて見た。聖女の力って、なんていうか神秘的だ」
凄いとか、綺麗だとか。
彼の口から、私のことを褒めているような言葉が次々聞こえた。
単に感想を言っているだけなのかもしれない。
ただ、私に向ってそんな風に言ってくれた人は、今までいなかった。
「あの、もしかして私のこと……知らないんですか?」
「え? 聖女候補でしょ」
「……」
この人は、私がなんて呼ばれているのか知らないの?
それとも惚けているだけ?
「でも何で、こんな場所で聖女の力を使っていたの?」
「それは、練習を」
「練習? じゃあ俺と一緒だ」
「貴方も?」
「ああ。いつもここで剣の稽古をしてるんだ」
「どうしてこんな場所で? 騎士団養成所なら、専用の訓練場がありますよね?」
私が何気なくした質問に、彼の眉がピクリと動く。
表情が少しだけ、暗くなったように見える。
「あそこは……なんというか、あんまり居心地よくないんだ」
「そう、なの?」
「ああ」
「でも、剣の稽古なら相手がいたほうが」
「それはそうだけど、残念ながら期待するだけ無駄だ。養成所で俺の相手をしてくれる奴なんていないし」
今度はあからさまに表情を暗くして、声のトーンも低くなった。
私は、聞いてはいけないことだったと反省する。
それと同じくらい、自分に近いものを彼に感じていた。
「……私と同じだね」
「同じ?」
不意に出た弱い言葉が彼に届いてしまう。
それから私たちは、無言のまま互いの顔を見つめ合った。
言葉を交わさず、ただ見つめて、確かめていたんだと思う。
「あの――」
「あのさ」
奇しくも、同じタイミングで声をかけた。
それが何だかおかしくて、一緒になって笑い合う。
その後は順番に、自分のことを話した。






