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【コミカライズ】絆の聖女は信じたい ~無個性の聖女は辺境の街から成り上がる~  作者: 日之影ソラ
第一章 聖女と騎士

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11.嬉しい嘘

 昼間だというのに森は薄暗い。

 背の高い木々が多く、日光の大半を遮ってしまうせいだ。

 その影響か、地面には草花はあまり生えていない。

 ほどよくジメジメして、足元を冷ややかな風が吹き抜ける。


「寒くないか? レナ」

「大丈夫だよ。最近はとくに暖かくなってきたし」

「そう言う時こそ風邪をひくんだぞ。って、聖女って風邪とか引かないんだっけ」

「ううん、別に絶対じゃないよ。普通の人よりも病とかに強いだけで、疲れたり聖女の力が弱いと風邪も引くよ」


 レナリタリーは続けて昔の話をした。

 自分は聖女の力が弱かったから熱を出して寝込んだこともあると、恥ずかしそうに笑いながら。

 辛い過去の話も、今は少しだけ軽い気持ちで話すことが出来るようだ。

 そんな二人の間に、ジェクトが強引に割って入る。

 

「ねぇねぇーレナリタリーちゃん! ちょっと聞きたいことあるんだけど良い?」

「は、はい? 何でしょう?」

「いやさ? これからオレたち魔物と戦うかもしれないんだけど、それがもし穢れの影響だったら、オレたちには倒せないの?」

「いいえ。魔物が穢れに犯されている場合なら、魔物を倒せば穢れも散ります。散った穢れを祓うのは私たちの役目ですし、もしも穢れそのものが相手ならユーリしか倒せません」


 説明しながら、レナレタリーはユーリに目配せをする。

 小さく頷いたユーリ。

 その様子が気に入らないジェクトは、図々しくもさらに質問を続ける。


「聖女と、聖女の加護を持つ者しか穢れは見えないし倒せない……か」

「はい」

「だったらさ! その加護をオレにもくれよ!」

「へ?」


 レナリタリーは呆気にとられ、ユーリは表情は変えないままピクリと反応する。

 不躾な要望だと感じるロイドとアリサは、不安げに様子を見守る。


「ほらほら、どうせ穢れと戦うかもしれないんだったらさ? そっちのほうが良くない? 今後にも繋がると思うんだよねぇ」

「そ、それは……すみません。その、私はまだ未熟で、加護は一人にしか授けられないんです」


 申し訳なさそうな顔で断ろうとするレナリタリー。

 事実、彼女は一人しか加護を付与できない。

 ユーリに加護を与えている以上、他の第三者に加護を与える場合は一度解かなくてはならない。


「なら今だけのお試しでさ? オレに加護を移してよ」

「え、え?」

「出来るでしょ? オレのほうがこの森を知ってるし、騎士君も守りに専念できるじゃん? 何なら戦いの腕も上だと思うんだよね」


 あからさまな挑発だった。

 ユーリもそれに気づくが、毅然とした態度を崩さない。

 一方のレナリタリーは、彼の下心なんて知りもせず、善意で言ってくれていると勘違いしていた。

 その所為で断り辛く感じ、どうすればと慌ててしまう。

 見守っていた二人もしびれを切らし、ジェクトを注意しようと動く。


「それは無理ですよ」


 それよりも一歩早く、否定したのはユーリだった。

 全員の視線が彼に向けられる。


「ユーリ?」

「……無理って?」


 ジェクトは威圧的で睨むような視線でユーリを見る。

 対するユーリは毅然と構え、ジェクトに答える。


「聖女には個性があります。彼女の個性は『絆』、加護を与えた者との信頼関係によって力が増幅されるんです。その性質上、一度加護を与えると変えられません」

「……へぇ、そうなんだ」

「ええ。ですよね? 聖女様」

「え、あ、はい! そうなんです」


 それは紛れもない嘘だった。

 ただ、この場で嘘だと気づけたのは、言い放った本人とレナリタリーだけ。

 レナリタリーもユーリの嘘に合わせた。

 困っている自分を助けるためについた嘘だとわかったからだ。

 言われてしまえば仕方がない。

 ジェクトは引き下がり、二人と距離をとるように下がる。


「ありがと、ユーリ」

「どういたしまして」

「で、でも嘘はよくないよ?」

「わかってるよ」


 小声でのやり取りは、二人の間でしか聞こえない。

 それでも、端から見て良い関係性だということが伝わる距離感にある。


「ちっ、何だよ」

「だから言ったでしょ? あんたには無理だって」

「ま、まだわかんないだろ! 穢れだか知らねぇーけど、魔物が出たら見せつけてやるよ。あんなヒョロヒョロよりオレのほうが強いってな」

「まだやる気なのね……」


 呆れるアリサ。

 ロイドはそんなアリサの肩を叩く。


「ロイドからも言ってよ」

「また迷惑かけそうなら止めるよ。でもたぶん、必要ないんじゃないかな?」


 ロイドはそう言って前を歩く騎士と聖女を見る。

 肩と肩が当たりそうなほど近い距離。

 意識しているのか、していないのかはわからないが、二人の後姿に微笑ましさを感じていた。


「あの二人は、見ていて何だか安心するね」

「そうね。ちょっとまだ初々しいし、騎士君のほうはぎこちないけど」

「だからかな。応援したくもなる」

「ええ。それにくらべてこっちは……」


 じろっと視線を向けた先には、一人やる気に燃えるジェクトの姿が。


「見てろよ~ つーかさっさと出て来いよ魔物!」

「駄目ね」

「はははは……」


 呑気に進む面々だったが、まだ気づいていなかった。

 すでに魔物のテリトリーへ足を踏み入れていたことに。


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