10.諦めなさい
ロイドが話を続ける。
「穢れについてそこまで詳しくありませんが、穢れが魔物に影響を与える……という話を聞いたことがあります」
事実なのかとロイドが尋ねる。
考えながら聞いていたレナリタリーは、下げていた視線を戻し答える。
「そういう場合もあります。穢れは負の感情から生まれた力です。魔物は特に凶暴で、穢れの影響を受けやすいですから、そういう場所が近くにあれば凶暴化も考えられます」
「そう言う場所?」
「穢れの吹き溜まりです」
「吹き溜まり……そんな場所が?」
レナリタリーはこくりと頷く。
穢れの吹き溜まり、別の言い方をすれば源泉。
数日前のクマの穢れのように、突然発生する穢れに対して、穢れを生む源泉のような場所がある。
人口の多い都市の近くや、かつて争いがあった場所など。
負の感情が溜まりやすい環境が影響して、より濃い穢れを発生させる。
「なるほど……源泉か」
「はい。ただ可能性としては低いと思います。この街はそれほど大きくありませんし、近くで争いがあったわけでもありません。吹き溜まりが出来る程の穢れは発生しないと思うのですが……」
途中まで話して言葉を詰まらせる。
彼女の脳裏に浮かんでいたのは、クマの穢れと戦った時のことだった。
この街で穢れが発生したことが異常で、おかしなことだと感じる。
不安というには曖昧で、胸騒ぎに近い何かが彼女の胸をざわつかせる。
「実際に見てみるのが早そうですね。もし穢れなら一目見ればわかります」
「ならこれから森へ行きましょう。俺たちが普段から狩場にしてるので案内できます」
「よろしくお願いします」
レナリタリーは一礼して、後ろを振り向く。
「ユーリも一緒に来てくれる?」
「もちろん行くよ。君を一人で行かせられるわけない」
「ありがとうユーリ。よろしくね」
「ああ」
「……」
二人のやりとりを目にしたジェクトは、面白くなさそうに眉をひそめる。
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三人と二人は教会を出て西の森へ向かった。
広大な自然に囲まれたアトランタは、四方を向くことで別々の雄大な景色を見ることが出来る。
例えば北は大きく広がる海が見え、南は雪積もる山々が並ぶ。
東には草原を抜け、飛竜種が多く生息するという大峡谷があり、そして今向かっている西は一面の木々が生い茂る深い森だった。
「レナリタリーちゃんは、森に入るの初めて?」
「え、あ、はい。こんなにも大きな森は初めてです」
「そっか~ オレたちは仕事で毎日のように来てるからさ。迷ったりする心配もないから安心して」
「はい。ありがとうございます」
ニコリと笑顔を見せるレナリタリーに、ジェクトはご満悦の様子。
「所でその、皆さんは冒険者……なんですよね?」
「そうだぜ?」
「すみません私、冒険者についてはあまり詳しくなくて……」
申し訳なさそうに言うレナリタリー。
彼女は説明を求めるように、隣を歩くユーリに視線を向ける。
ユーリも視線に気づいて口を開こうとしたが……
「冒険者って言うのはな! いわゆる何でも屋だ」
遮るように、ジェクトが説明を始める。
「魔物退治から雑用まで。依頼があれば何でも請け負う! 危険な仕事も多いけど、その分自由にやれて楽しいんだぜ」
「そうなんですね。説明して下さって嬉しいです」
「いやいや、これくらい構わないって」
デレデレするジェクトの脇を、ロイドがツンとつついた。
ジェクトは歩幅を狭め、ロイドとアリサに近づく。
「何だよ」
「それはこっちのセリフだ。会う前と態度が別人じゃないか」
「そうよ。もう気持ち悪い」
「キモっ、失礼な! オレは真摯に対応してるだけだぜ?」
と、ジェクトはわざとらしく振舞うが、どう見てもレナリタリーに気があるのはバレバレだった。
二人は互いに顔を見合わせ、大きくため息をこぼす。
「ジェクト、あんたじゃ無理だから諦めなさい」
「は? 何でだよ」
「あれを見てわからないのか?」
ロイドに視線で誘導され、少し前を歩く二人に目を向ける。
「足元気を付けろよ」
「うん」
「疲れたら早めに言ってくれ。いざとなったら抱えて歩くから」
「だ、大丈夫だよ~」
恥ずかしそうに顔を赤らめるレナリタリー。
仲睦まじく歩く二人を、何とも言えない表情で見つめるジェクト。
そんな彼にアリサがズバリと言う。
「わかった? あんたじゃ無理だって」
「……ふっ、甘いなアリサ。確かにあの二人は仲が良さそうに見える。だがそれは間違いだ!」
「……何言ってるの?」
「普通に仲良く見えるけど?」
「チッチッチッ」
ジェクトは指を振る。
気取った身振りにアリサは苛立つ。
「それは表面上だ。所詮あの二人は聖女と騎士、いわゆる仕事の関係なんだよ。仕方がないから仲良くしてるだけだ」
「そうかなぁ~」
「何を根拠に言ってるわけ?」
アリサが話し疲れながら尋ねると、ジェクトはニヤリと笑う。
「オレの勘だ!」
「……それ当てにならないやつでしょ」
「見てろよ~ オレの格好良い所を見せつけて、一瞬で惚れさせてやるぜ!」
「聞いてないし……」
「あっははは……」






