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1.無個性の聖女

 天より力を授かった乙女――聖女。

 神の代行者であり、世界に、人々に救いの光を与える存在である。

 聖女の祈りは、時に世界を侵す穢れを祓い、時に辛く苦しむ人々の傷を癒す。

 彼女たちは天に選ばれし者。

 その力は授かり物だが、彼女たちの心と身体に影響される。

 故に聖女の力にも、優劣が存在する。


 そして、聖女がこの世に初めて誕生した日から千年。

 現代において、聖女の存在は当たり前となり、特別ではなくなっていた。


 世界最大の領土をもつ国家、サルバーレ王国。

 王都サバリスに構えるサンマルク大聖堂。

 大聖堂に併設された学び舎では、若き聖女たちが集められ、立派な聖女になるため日々勉学に励んでいた。


「朝の祈りを始めます。順に並んでください」


 彼女たちは一年間、この大聖堂で共に過ごし、聖女の力の使い方や立ち振る舞い方を学んでいる。

 生まれも育ちもバラバラで、共通点は聖女の刻印をその身に刻まれ、力を持っているということだけ。

 貴族の家柄の者もいれば、庶民の生まれの者もいる。

 ただし、聖女である時点で、生まれの身分差はあまり関係ない。

 ここで差が生まれるとすれば、それは聖女としての力の差だけ。

 前の列にいる人から順番に祈りを捧げていく。

 列は成績順。

 最初に祈りを捧げた人が一番優秀な聖女で、二番目、三番目と続いていく。


 そして、私の番が回ってきた。

 両手を組み、目を瞑って、天に祈りを捧げる。

 どうか今日という日が、健やかで幸福な一日であるように。

 祈りを終え、次の人に合図を送る。

 本来はそう。

 だけど、私の後ろには誰もいない。

 私が最後に祈りを捧げる聖女だったから。


 朝の祈りが終わると、ゾロゾロとみんなが聖堂から出ていく。

 自宅や寮に帰る人もいれば、すでに聖女としてのお仕事がある人もいる。

 各地へ派遣される日が近づいたこの時期は、やることがなくて暇を持て余す人も多いと聞く。

 私は、みんなが聖堂からいなくなるのを一人で待っていた。

 すると――


「あら、レナリタリーさん」

「セレイラさん」


 声をかけてきた彼女は、【光】の聖女セレイラ・レルネティアさん。

 さっき一番最初に祈りを捧げていたのは彼女で、つまり今期の聖女の中で一番成績が良い。

 後ろにいる二人は、【水】の聖女ラリーさんと【風】の聖女レルンさん。

 二人とも成績は優秀で、仲が良いのかよくセレイラさんと一緒にいる。


「今日も一人残って特訓ですか?」

「は、はい。そうです」

「そうですか。毎日よく頑張っていますね。願わくば、その努力がちゃんと報われれば良いのですが……」


 と、セレイラさんは含みのある言い方をして止める。

 表情はニコッと笑っている。

 口にしている内容は哀れんでいるように聞こえるのに、表情では笑っていてかみ合っていない。


「そういえば、専属の騎士様は決まりましたか?」

「い、いえ……まだです」

「そうですか。各地へ派遣されるまで残り一月。本来ならもう決まっているべきなのですが……中々簡単ではなさそうですね」


 聖女には、最低一人以上専属の護衛騎士がつく。

 誰につくかは立候補制で、希望者数名の中から聖女が選ぶという決まりなのだが……

 残念ながら今のところ、私の護衛になりたいという騎士は誰もいない。

 

「何かお手伝いできることがあればおっしゃってくださいね? 私たちは、同じ聖女なのですから」

「はい。ありがとうございます」

「それでは失礼します」


 ひらりと後ろを向く。

 振り向きざまに、彼女は嫌味な顔をしていた。

 そう見えたという私の思い違いじゃなくて、間違いなくトゲトゲしたものを感じた。

 もうそれは、悪意と呼んでも良い。

 彼女たちはニコニコしながら、心の中では私のことを見下している。


「セレイラさんもイジワルですね」

「何がですか?」

「だって、心にもないことを口にしていたじゃないですか」

「ふふっ、そうだったかしら?」


 クスクスと笑い声が聞こえる。

 それと一緒に、彼女たちが何を話しているかも聞こえていた。

 たぶんわざと聞こえるように言っている。

 最初の頃は遠巻きでニヤニヤしながら見られていて、次第に距離が近くなってきた。

 どうせ一月後にはバラバラの場所に行くから、今から何をしても関係ないと思っているのだろうか。

 確かに関係ないけど、気分は良くない。


 私は、自分が優れているなんて思ったことはない。

 聖女の力があるとわかった時は、少しだけ勘違いした。

 私が長女だったこともあり、両親も盛大に期待していたと思う。

 自分は選ばれた人間で、天から与えられた役割がある。

 それに、私にはもったいないくらい素敵な許嫁もいて……

 聖女とは美しく、人々から崇められる存在だから、女性なら一度は憧れる。

 そんな憧れに、自分はなれるのだと全身が熱を持った。


 だけど、私は特別じゃなかった。

 選ばれたのかもしれない。

 それでも、ただ聖女であると言うだけで、それ以上は何もない。

 期待外れの落ちこぼれ。

 無個性の聖女。

 私に向けられていた期待は一変して、失望の色に染まった。


「……ここで練習するのは止めようかな」


 最近特に、ジロジロと見られている気がする。

 視線の大半は馬鹿にされているようで気分が悪くなる。

 理由はセレイラさんたちと同じだろう。

 お陰で、いつも一人残って静かに練習していた場所も、今は居心地が良くない。

 私は徐に席を立ち、大聖堂を後にする。


新作投稿してます!


『何となく惚れ薬を錬金したら成功したわけですが、うっかり飲んだ女嫌いの王子様に溺愛されるようになりました』


ページ下部にリンクがありますので、ぜひとも読んでください!

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