悪役令嬢の処刑の、その先は。
「レニア・アルビアーノ。貴様は大罪を犯した。よって、死刑に処すことをここに決定する」
――そんな言葉から始まった、舞踏会での断罪。
私の罪状? をつらつらと述べていく婚約者……ライオネル様の姿に驚きよりも呆れが先走る。
コーデリア嬢への執拗ないじめ? 彼女を階段から突き落とした? 自分に毒を盛った? 国を乗っ取ろうとした?
笑えてくる。何を証拠にそんなことを言っているんだか。
残念ながら、そのようなことをした覚えはないわ。そんなに簡単に暴かれるほどの容易な行動、私だったら絶対にしないもの。
貴方がこんなお馬鹿なことをし出したのは、聡明で賢いと評判の私を妬んでいるからでしょう? 本当に滑稽ね。未来の国王たるお方がそんなことをしていいのかしら?
コーデリアさんもコーデリアさんよ。あのいじめは自作自演だし、階段だって自分から落ちていた。彼女、ライオネル様より頭沸いているから、私てっきり何もないところで躓いたのかと思ったわ。
とまぁ、心の中でこんなことを思っていた私だけれど、何故かその数か月後には処刑された。……みんなしてお馬鹿なのね。あんな不揃いの証拠を信じ込んでしまうだなんて。よく私を可愛がってくれていた国王陛下には少し期待していたのだけれど、遺伝子は仕事していたのね。親子して馬鹿だったわ。
私は今、過去に自分が処刑された場所にいた。王都の、民衆達が好んで利用している公共施設の前に。
幽霊とかではないの。なんというか……意識だけが残っている感じ? ……分からないわ。こればかりは未知の領域だもの。
死んだことに後悔はしていない。むしろこんなつまらない世の中から抜け出せてせいせいしてるわ。まぁ、今はふわふわと空中を漂っているだけだけどね。正直少しだけ暇。
でも、今日だけはわくわくしているわ。
だって、コーデリアさんとライオネル様の処刑の日なのよ? この日ほど待ち焦がれていた時はないわ! ああ、楽しみ!!
こうなることは分かっていたの。国税を無駄遣いして遊び惚け、国務らしい国務もせず、王宮を離れてバカンスばかりの新両陛下に果たしてどの貴族が、どの国民がついていくのかしら? あちらこちらで反旗を翻す者達が大勢出てきて革命が起こるところまで、二人は想像できなかったのかしら?
さらに追い込めるように、私が死んだあと、全てあの二人に罪が被るように仕掛けておいたわ。人材費に多額のお金を割いてしまったから、唯一最後まで私の処刑に反抗してくれたお母様とお父様には申し訳ないと思っているけれど。
あの二人は一体どんな死に方をするのかしら? 斬首刑? 串刺し? 杭打ち? それとも腰斬刑? 残念ながら、私は拷問部屋に入った時から記憶がないのだけれど……本当に楽しみだわ。
あっ、来たわ! コーデリアさんとライオネル様、お久しぶりですわ! 随分やつれているようですが、大丈夫ですか? ……って、二人には聞こえないわよね。
「……おっ、王族を処刑するだなんて前例にないだろうがッ! 今すぐこの枷を外せ!!」
「そうよそうよッ!! ネル様とあたしを解放しなさい!! そうしないとここにいる人間全員処刑するわよッッ!!!」
あら、どうやら二人とも体はやつれていてもお口だけは達者なようだわ。元気で何よりね。
「何馬鹿なことを言っているんだ!! レニア様に罪を擦り付けて殺したくせにッ!!」
「今すぐこいつらを処刑しろ!!」
野次馬の声に同調して騎士様が二人を板に張りつけて……あ、もしかしてこれは凌遅刑かしら!? やだ、凄く興奮してきたわ!
体の一部一部を焦らすように切断して、臓腑を抉り出して、首を刎ねて絶命させるまで長時間苦痛を強いられる処刑方法よ! うふふ、二人の臓腑は、一体どんな色をしているのかしら?
「ッ!? ……や、やめてッ! 放してぇええ!!」
斧と縄が持ってこられた辺りで、コーデリアさんが遂に焦りだした。ライオネル様は顔面蒼白ね。なんだか少し可愛いわ。
あら、あの騎士様、少し戸惑ってるわね。大丈夫かしら? ……あ、その調子よ! そうそう、そうやって手足を切断するのッ!
「ぅ、ぐ……ッ!?」
「ィ、やぁあああああ!! ごめんなさいごめんなさいごべんなさいごべんなざいッ!! ゆるじてぐだざ―――ッ!?!?」
ふふ、まずは手足をそれぞれ二本、それから内臓ね! 次は膵臓かしら?
……あら、ライオネル様が失神しちゃったわ。あの方にはもう少し苦しんで欲しかったのに。まぁ、コーデリアさんがいるからいいか。
ふふふ、コーデリアさん、私を殺したことはこれでちゃらにしてあげるから、今日は私を精一杯楽しませてね!
「ぅあ、いだ……あ、あああ…………あああああああああああああああああああああああ!!!」
―――――あはっ、あはは、ははははははははははははははははっ!!!
◇
それから1000年後のこと。
革命が起こった後の王都ではとある有名作家が執筆したレニア・アルビアーノの一生を描いた物語が発売され、今でも大ベストセラーを誇っていた。
そしてとある国の王子である、十歳の少年もそれを愛読書としていた。
そんな彼がその本を片手に王宮を歩いていると、貴賓としてここに訪れていた青年が彼を――というよりかはその本を見て、思い切り顔を引き攣らせた。
「どうかされたのですか?」
「……いや、その本には嫌というほど見覚えがありまして………実は、彼女は、私の先祖なんです」
「!! 本当ですか!?」
生粋のファンである王子は瞳をキラキラと輝かせた。しかし、貴賓の青年は気まずそうに目を逸らす。
「……殿下、それを読むのは、おやめになってはいかがでしょうか? 他にも童話や詩など、面白いものはたくさんありますし……」
「どうして、ですか?」
青年は声を震わせながら言った。
「…………殿下は、彼女が被った罪というのが全て彼女の仕業であったのをご存知ですか?」
「……えっ?」
王子が思わず腑抜けた声を出す。青年は顔を青ざめさせ、震える手を押さえながら続けた。
「コーデリア・サンサネリ様へのいじめは無実だったそうですが……その、ライオネル殿下に毒を盛ったことや国を乗っ取ろうとしていたということは、本当だった、と我が家では言われています。……いいえ、彼女の罪状は、正確に言えば…………それ以外にもあるんです。多数の人間を貶めたり自らの手で……惨殺、した、と。それで、快楽を得ていたと……。
それと、彼女の母親と父親は……彼女を処刑しようとするライオネル殿下に対して何度も必死にこう言ったそうです。『殿下、我が娘を処刑してしまえば、貴方は必ず娘に殺されます』…………と」
覚えがないだけで、彼女は実際やっています。……無意識なんです。
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