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桜色ノスタルジー  作者: フォレスト
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05.後処理


神社から帰ってきて僕はソファになだれ込むように座った。

ふぅ~。

どっと疲れた気がした。メンタル的に…。

体はさっき百合音ゆりとさんが改善してくれたから問題ない。

でも、やっぱりあの赤い着物を着た少女の事がずっしりと心に重くのしかかってくる。


「土方君…大丈夫か?」


百合音ゆりとさんが僕の横に腰かけて心配そうにこちらを覗き込んできた。

もう少女の姿ではなくなっている。

いつもの銀色の髪の毛をした彼女に戻っていた。


「あ…ちょっとびっくりしてしまって…」


「嫌な思いをさせてしまってすまない。私の落ち度だ…」


「いえ!百合音ゆりとさんのせいではないです」


妖怪あやかしに触れないようにもっと注意すべきだった…次から気を付けるよ」


百合音ゆりとさん‥‥」


凄く思いつめた表情で唇を噛みしめる百合音ゆりとさん。

どうしよう…。何を言っていいのか分からない。

僕はオロオロしてしまい、どんな言葉をかけたらいいのか考えた。


「土方君…」


「はい」


真剣な表情で百合音ゆりとさんがこちらを見つめてくる。

ドキリとした。

真っ直ぐなあの綺麗な蒼い瞳で見つめらると何も考えられない。

手に汗が滲んでくるのが分かった。


「お腹が空いた…何か甘いものを作ってくれないか…」


「へっ?」


「さっきのパンケーキでもいいし…何かこうがっつり食べたいな!」


「あんなに食べたのに…まだ食べるんですか?」


「勿論だ!仕事の後の甘い物は最高だからな♪」


ニコッと満面の笑みで言われてしまった。

凄いな…。さっきのパンケーキも結構なボリュームだったけど…。

百合音ゆりとさんはよく食べる人なんだな…。

よし!ここは気を取り直して、喜んで貰るものを作ろう!


「分かりました!ちょっと待っていてください」


「ありがとう!土方君」


僕は台所に立ち何を作ろうか思案した。

甘いもので…がっつり食べれる物‥‥。

僕はスマートフォン片手に検索した。

沢山の検索結果が出てきた中でドーナツを作ることにした。


これならさっきの材料も使えそうだしがっつり食べれそうだ。

僕は今朝と同じようにレシピを見ながらドーナツを作り始めた。

ドーナツを食べるならコーヒーの方が合いそうだけど…。

百合音ゆりとさんはのめるんだろうか?

僕は文机の前に座って新聞紙を呼んでいる百合音ゆりとさんに声を掛けた。


百合音ゆりとさん!」


「何だい?土方君」


「コーヒーは飲めますか?」


「苦くなければ飲めるよ♪」


「分かりました」


じゃあ…カフェオレとかにしようか…。

コーヒー豆とコーヒーマシーンがあれば…。

僕はまた頭の中でイメージをした。


すると…。


カタン


コーヒー豆とコーヒーマシンも一緒に出てきた。

調理器具もイメージすれば出てくるのか!凄いな。

ちょっとテンションが上がってしまった。

僕は早速、コーヒー豆を挽いてドーナツの生地を作りにかかった。


意外と料理は楽しかった。

家では全く自炊しないのだが、ここで作るときはワクワクした。

百合音ゆりとさんに作るという目的があるからだろうか?

食べてくれる人の顔を浮かべながら料理をすると全く苦にならない。


ドーナツに必要な材料を混ぜ合わせながら、生地をこねていく。

まな板に打ち粉をして生地をかたどって丸くしお皿に並べていく。

そうしている間にコーヒー豆をひいたいい匂いがしてきた。

後で…僕も貰おう。

そう思いながらドーナツを作っていった。


百合音ゆりとさん。ドーナツを作ってみました」


「おお!!ドーナツ♡」


「おれもたべる!!」


嬉しそうに頬を緩ませながらドーナツを見る百合音ゆりとさん。

本当に甘いものが好きなんだな…。

かい君もはしゃぎながら駆け寄ってきた。彼はこういう時は可愛いんだけどな…。

僕は温かいカフェオレもドーナツと一緒に出した。

牛乳と蜂蜜を入れてあるから苦くないはずだ。


「いただまーす!!」


パクリと大きな口で頬張る。

ドーナツの横には朝作って余っていた生クリームも一緒に添えている。

がっつりと生クリームを付けながらドーナツを食べる百合音ゆりとさん。

かい君も無言でどんどんドーナツを平らげていく。

良かった…。二人とも気に入って貰えたみたいだ。


僕も自分用に避けておいたドーナツを食べた。

うん!ふわふわもちもちしていて美味しい。初めてにしては上出来だ!

はぁ…。うまく作れてよかった…。

それにしても久しぶりに食べたな…。ドーナツ。

僕は手元にあるドーナツを見つめてそう思った。

流石に生クリームは甘すぎるので僕はつけなかった。

でも三人で食べるドーナツは今まで食べた料理の中で一番味が美味しい気がした。


「は~!幸せだ…。こんなに美味しいドーナツを沢山食べれるなんて…」


「下僕にしてはやるな!」


「ありがとう…ございます」


「それに…この甘いカフェオレも最高だ!この‥‥蜂蜜がたまらない♡」


「良かったです」


「やっぱり土方君は天才だな!」


沢山作ったドーナツをほとんどかい君と二人で食べきって満足そうだ。

幸せそうにカフェオレを飲む百合音ゆりとさんを見て僕は何とも言えない幸福感を感じた。

ドーナツを作っただけでこれだけ喜んでくれるなら毎日作ってもいい。

本気でそう思った。


「これは…三時のおやつも楽しみだ♡」


「ま…まだ食べるんですか?」


「当たり前だ!おやつは別腹さ♪」


「そうですか…」


考えただけで胸焼けしてきた。

あれだけお皿に山盛りにしたドーナツを平らげてまだ食べようと思うのか…。

百合音ゆりとさんの胃袋は底なしかもしれない。

その割には全く太っていない。彼女が白銀の一族だからだろうか?


食べ終わって後片付けをした後、少し休憩をして報告書を作成した。

報告書の内容は実際にあったこと、見たこと、僕が体験したことをそのまま書くだけでいいそうだ。

本当に…こんな簡単でいいのか?

ちょっと不安にもなったが、百合音ゆりとさんがいいと言っているのだ。

問題ないだろう。


ノートパソコンを使いながら僕は報告書を作成していく。

百合音ゆりとさんはさっきのカフェオレがよっぽど気に入ったのか

お代わりをしてまた飲んでいた。

かい君はお腹いっぱいになって眠くなったようでソファで横になって眠っていた。


穏やかな午後だった。

朝までは緊張と不安でいっぱいだったけど今は落ち着いている。

あとは物凄く充実感を感じていることだ。

仕事でこんな気持ちになったのは初めてだった。

今まで淡々とこなしてきていたせいもあってか苦痛も達成感も感じなかった。

でも今は感情の起伏を自分の中で感じる。

今までにない経験だった。


まだ…二日しかたっていないのに…。

もう、何か月分もの感情を味わった気がした。

それだけ僕が今までいかに、無感情で生きてきたかがよく分かった。

何だか体も軽いし…。生きていると感じる。

何か目的があると人はここまで変わるものなんだな…。

40歳になって初めて分かったことだった。


報告書は15分で終わってしまった。

まとめた内容をメールで送信して報告は終わった。


時間もあるし、次におやつは何を作るか考えよう。

道具も材料も気にしなくていいし…。

僕は百合音ゆりとさんが好きそうな甘いデザートを検索した。


「土方君。私はこれからさっき預かった鏡を修理に出してくるよ」


「分かりました。僕が行きましょうか?」


「いや。特殊な場所だから私が一人で行ってくる」


「分かりました」


「じゃ!おやつ楽しみにしてるよ~♪」


ヒラヒラと手を振りながら百合音ゆりとさんが出て行った。

部屋の中にはかい君と僕だけになった。

かい君はまだ寝ている。

御影みかげさんはまだ戻って来ていない。

どこまで行ったんだろう…。

鏡を壊すような奴の所に行くのだ。怪我とかしてないといいけどな…。

そんな事を考えていたら、御影みかげさんが戻ってきた。

音もなくどこからともなく部屋に現れた。


御影みかげさん!…犯人は見つかったんですか?」


僕は彼女に駆け寄って尋ねた。

すると人の姿になり、僕の前に立った。


「いえ…。匂いを辿って行った先で逃げられました…」


「そうだったんですか…」


百合音ゆりと様はどちらに?」


「あ…。鏡を修理に出しに行くと言って出て行きました」


「そうですか…。土方様は何をされてたんですか?」


じっと俺の顔を見つめながら御影みかげさんが尋ねてきた。

彼女は百合音ゆりとさんとは正反対で感情の波がない。

いつも無表情で淡々と話している。

だけど冷たいとは感じない。彼女の話し方なのか、声質なのかは分からないが

話していても全く不快とは思わなかった。


「おやつに何を作るか考えていました」


「そうですか…。百合音ゆりと様は甘い物がお好きですからね」


「そうですね。いつもあんなに食べるんですか?」


「ええ。百合音ゆりと様は何人もの妖怪あやかしと契約しています。その為膨大な量の生気を奪われるんです」


「…だから沢山食べる必要があるんですか?」


「はい。まぁ…半分は趣味みたいなものですけど…」


だからか…。と僕は思った。

あれだけの量を食べていて太っていないのは

それだけ維持するために必要なエネルギーを必要としているのだろう。

半分は趣味って言ってるけど…。


御影みかげさんはずっと、百合音ゆりとさんと一緒なんですか?」


「ええ。もうかれこれ50年くらいになると思います…」


「そんなに!?すごな…」


「人にとっては長いでしょうね…」


「はい。僕の年齢よりも長いですからね…」


「土方様…」


「はい」


じっと金色の瞳で御影みかげさんに見つめられる。

なんだろう?彼女みたいな綺麗な人に見つめられると落ち着かない。

おしりがざわざわする感じがした。



「あまり…深入りなさらないでくださいね…」


「えっ…?それはどういう…」


「ただいま~♪」


理由を尋ねようとしたところで百合音ゆりとさんが返ってきた。

もう一度、御影みかげさんに聞こうとしたけど

彼女は百合音ゆりとさんの所に駆け寄り何か話しているようだった。


「そうか…わかった」


百合音ゆりとさんがそれだけ言うと、御影みかげさんはまた狼の姿に戻り

百合音ゆりとさんの足元で丸くなって眠ってしまった。

一体…どういう意味だったんだろうか?

言葉だけ聞くと冷たい感じがするが、御影みかげさんの言い方は

どこか寂しそうな感じがした。


「土方君!おやつは何かな~?」


「あっ!すみません…まだ決まってなくて…」


「そうか…。なるべく早く頼むよ…もうペコペコだ!」


物凄くがっかりした様子で椅子に腰かけた百合音ゆりとさん。

申し訳ない事をした。まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかった…。


「できるだけ早く用意しますね」


「ああ!よろしく頼むよ」


僕はまたスマートフォンで検索をはじめた。

でも、御影みかげさんに言われたことが頭から離れなかった。


百合音ゆりとさんに作ったおやつはクレープ。

同じような材料でできていいと思ったからだった。

中身はバナナに苺、生クリームにチョコレートにカスタードなど

デザートになりそうなものを手当たり次第に並べた。


軽い口当たりだったのか無限に食べるのでは?と思うほど百合音ゆりとさんとかい君は食べ続けてた。

見ていてとても清々しい。

作っては食べて作っては食べ手を繰り返す様はまるでわんこそばだと感じた。

最終的には作る方が間に合わず、生地だけ焼いて中身のトッピングは自分でしてもらった。

二人ともキャッキャッとしながら楽しそうにしながらたべていた。


本当に…食材が自動で出てくるシステムで良かった…。

これが買い出しに行かないといけないと考えただけでぞっとした。

朝、昼、おやつと食べることが続くのならメニューのストックが必要だ。

僕は今回の事を教訓にしなるべく腹持ちが良く、甘いお菓子のレシピを探すことにした。


最後までお読みいただきありがとうございます( *´艸`)


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