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7話

 納品と依頼の報告等し終えたふたりと合流して、ギルドの外へと足を向ける与一。

 外に出た時にはすでに日が沈んでおり、満天の星空が与一たちを出迎えてくれた。時折見かける流星に、目を疑うほどきれいな月が煌々としている。だが、日本のそれとは大きく異なった色をしており、薄黄色っぽい感じや白ぼったい灰色ではなく水色の月だった。


「すげぇ、こっちの月は水色なのか……」

「ん、いつもの月」

「いつ月の色が変わったのよ、昔からこの色よ?」


 見上げていた与一に、ちらりとこちらを窺っていたふたりから指摘が飛んでくる。


「あ、あぁ。そうだった、な」


 歯切れが悪い返事をすると、アニエスは首を傾げた。


「そういえば、与一はオルサルド小大陸に来る前は別の大陸にいたのよね? 向こうで見る夜空ってこっちとは違う感じなの?」

 

 先を行くアニエスは首だけを回して、横目で与一を窺いながら質問を投げかけてきた。


「おるさるど? あぁ、なるほど」


 自分のいる大陸のことを指しているのだろう。と、納得した与一。


「街の明かりがすごかったからなぁ、こんな綺麗な星空はあんま見たことないな。実家にいたときはこれよりもちょっと星が少なかったな」

「そう。どこから来たのかとか聞かないけど、これからは同じギルドのメンバーなんだから、あまり遠慮しなくていいのよ?」


 少し落ち着いた感じのトーンで喋るアニエス。

 出会ってから落ち着いて話をしたのは初めてで、実際はこんな風に喋る子なんだ。と、与一の彼女を見る目が変わった。セシルと薬草の話をしていた時は不機嫌になって先に行ってしまうし、自身の無知さを知ると若干罵りながらも1から教えてくれるし、刺々しいと思っていたら最後は素直に案内してくれるしと思い返せば態度は悪いが何気に親切な彼女にどうやって恩を返せばいいのかと悩むほどだった。しかし、この世界でどうやって恩を返すか──そんなことよりもまずは一文無しの状態から脱出が最優先事項だ。そのあとで、セシルとアニエスに恩返しをしても遅くはない。

 

「そういえば、冒険者に登録したときの羊皮紙(スクロール)ってその人に応じた職業を見出してくれるのよ」

「へぇ、そうなのか? てっきり、冒険者になる前に何かしらの職業を身に着けるのかと思ってたんだが。ちなみにアニエスの職はなんなんだ?」


 アニエスは立ち止まって腰に携えていた剣を外して持ち上げ、与一に見せつけるように前へと突き出す。その剣は柄から鞘の先まで目立った傷もなく、月明かりを反射する光沢が日々の手間を体現しているかのようだった。


「私は剣士よ。まぁ、ほとんど剣なんて使う機会ないんだけど……」


 がくり、と。項垂れるアニエス──訂正、手間を掛ける以前に使う機会がないが故、新品に近い状態の模様。


「いつも採取依頼ばっかりだから。私は、薬師。採集が得意」

「ほんっと……誰かさんのせいで討伐依頼なんてまず受けれないわ……」


 剣を再び腰にへと装備したアニエスが頭が痛くなる日々を愚痴った。


「昼からギルドが動けば問題ない」

「いい加減その屁理屈やめなさいよねッ! そうやっていつも謝らないで終わらせるじゃないの!」


 えっへん、と。ない胸を張るセシルに食って掛かるアニエス。

 そんなふたりのやり取りを見ていた与一は、仲睦まじいが温度差のある会話に吹き出してしまった。


「ぷ、あはははっ。お前ら仲がいいんだなっ」

「た、ただの腐れ縁よ! 今日だって本当だったら朝から簡単な討伐依頼くらい受けれたはずなのに……ッ!?」


 普段の会話を聞かれたのが恥ずかしかったのか、与一に笑われて恥ずかしかったのか、アニエスは頬を少し赤らめながら、ぐぬぬと悔やんだ口調で嘆いていた。

 セシルの場合はなんとなく予想がついていた──そう、なんとなくでわかる与一の勘。秘伝書を読んでから、知らない知識が時折頭の中を駆けていく。それは、『いやし草』であったり、ポーションを見たときなどの限られた場合にのみなのだが。しかし、それらの情報は一度見ればなんとなくでわかるようになり、この世界の植物や自身の職に応じた仕事をする場合に大いに役立つものだとも言える。


「それはいいとして! あ、あなたはどうなのよ。登録するときにわかったんでしょ?」


 そっぽを見ながら、気恥ずかしそう背を向けて話題を切り替えるアニエス。


「俺は調合師だそうだ。正直、知識はあっても実物を目の当たりにしない限り知識が湧いてこないんだがな」


「「ちょ、調合師ッ!?」」


「っちょ、近い近いッ!!!」

「だ、だって──」

「調合師は、稀にしか会えない。億人にひとりいるかいないかの素質……与一、実はすごい人」


 珍しくセシルが長々と話をしている。その瞳は憧れている人を見るそれであり、目線の先、与一の目を真っ直ぐ見ていた。

 なるほど、とふたりから距離を置いて納得する与一。だが、先ほどの大声で近くを歩いていた人々の目線を一斉に浴びていることに気が付き、ぺこぺこと頭を下げる。


「とりあえず、場所を移そうぜ。話はそのあとだ──って、俺金ないんだった」

「ん、わかった。先生(・・)

「せ、先生? 普通に与一って呼んでくれセシル……」

先生(よいち)?」

「うん? まだ、なんか違う気がするぞ?」

「はぁ、正直あなたみたいな人が調合師っていうのは納得がいかないけど、場所なら提供するわ。もちろん、泊まる場所込みで。あ、出世払いでいいわよ?」


 どうやら出世払いでどうにかしてくれる場所に案内してくれるようだ。いくら請求されるのかはわからないが、このまま野宿するよりはマシだろうと割り切った与一は、再び歩き出したアニエスとセシルの後をついていくのだった。

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