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78話

 進む度に、与一とアルベルトに気が付いた輩は襲い掛かってきた。だが、アルベルトが何食わん顔をしながら彼らを撃退していく様は、まさに『暴れん坊』。片手だけで相手をねじ伏せたり、剣を弾いたり、受け流したり、闘拳士というものは、肉弾戦にどこまで特化しているのかが一目で理解できるものだった。

 まるで金魚の糞のように後をついて進む与一は、目の前で暴れている大男が心から頼りになる前衛として機能していることに感嘆を漏らしていた。


「さ、流石に間近でみるとすごいな……」

「この! ふんッ! ん? そりゃぁ、冒険者ギルドで鍛えてきたからな」


 先ほどから、なぎ倒されていった男たちの無残な姿を横目に、与一は彼らに息があるのかを確かめた。


「息はしてるみたいだな。気絶してるのか?」


 亡骸ではなく、気を失っている者ばかり。アルベルトは、相手を殺めずに無力化していたのだ。

 気絶に至るほどの腕力。それは、使い方次第では殺めてしまう可能性があるということでもある。


「後々、話を聞かなきゃだろ?」

「ま、まぁそうだけどさ。って、うわぁッ!?」

「ゆ、ゆるさない。なかま、いじめる!」


 フードではなく、布袋を被ったアルベルトと同じガタイの男がふたりの間に割って入る。

 不気味な感じだ。被り物は古臭く、血痕のようなものが付着しており、その手に握るは与一と同じ背丈ほどの『(いかり)』。かくかく、と。首を動かしながら、布袋に開けられたふたつの穴から与一を見ていた。


「き、気色わる!」

「ぼかぁ、きもちわるくないッ!」


 与一が本音をこぼしてしまった瞬間、男は錨を大きく振りかざした。


「──ッ!? 与一!」


 振り下ろされる寸前で、アルベルトの体当たりが炸裂。

 男は体勢を崩して錨を与一の真横に落とした。アルベルトが動かなければ、与一はぺしゃんこにされていたかもしれない。咄嗟のことに身体が動かなかった与一は、自身の真横にずぅん、と。音を立てて地面にめり込んでいるそれを見た。


「ま、まじ?」

「いじめるのはだれだぁあああッ!!!」


 耳をつんざく程の大声。

 与一は耳を押さえ、周りでこちらを窺っていた者たちも同様に耳を押さえていた。無論、アルベルトも例外ではなかった。


「うわぁあああああ!!」


 再度錨を手に取り、振り向き様にそれを振るう。

 

「──うがぁッ!?」


 耳を押さえていたこともあり、アルベルトは回避どころか防御すらできなかった。金属製である錨は、相当の重さである。故に、それを防御することなく生身で受けてしまったアルベルトの身体は吹き飛ばされ、道の脇に面していた店へと木箱などが壊れる音と共に消えていった。


「あ、アルベルトさん! 畜生、よくもあのオヤジを!」


 目を疑うような光景に、一瞬流されそうになった与一。だが、ここは自身の命を狙ってくるような者が溢れかえっている場所。一瞬でも動揺すれば殺される。と、生存本能が叫んでいるが、それよりも先に怒りが湧き上がってきていた。


「ぼかぁ、いじめるやつにはようしゃしない」

「あぁ、そうかい。やってやらぁ、かかてこいやぁあああッ!!!」

 

 上着の内ポケットから黄色い丸薬を取り出した与一が、それを口に含むと同時に啖呵を切った。

 前衛がいるから、守ってくれる人がいるから。そんなのは甘えだ。自分が動かなければ、この状況を打破することは困難。頭の中では理解していても、武者震いではない震えが与一の全身へと駆け抜ける。


「おいおい、ブギー相手にずいぶんな物言いだな。こいつはよぉ──」


 剣を持った男が、にやにやと笑いながら与一の元へと近づいてきた。が、彼が話し終えるよりも先に、頭上から振り下ろされた錨が彼を亡骸にする。ぴしゃぁ、と。与一の顔にまで飛び散った鮮血。眼前にいた人なるものは肉片とか化し、明るい色の煉瓦で整備された道は赤く染め上げられた。


「……仲間だろ、今の」

「かんけいない! じゃまするやつ、みんなてきッ!」


 錨を武器にするなんて聞いたことがない。

 目前で起こった悲劇から察するに、人を殺めるという行為に対してなんの罪悪感も感じていないのだろう。狂っている。その一言しか、与一の口からは出てこなかった。


「ぶほ、ぶほほ。きみはかてない。ぼかぁ、つよい!」

「はは、やってみなきゃわからないだろ」

「でかいやついなきゃ、きみはなにもできない」

「黒いにぃちゃん、背後ががら空きだぜッ!」


 刹那、与一の背後から剣を突き出した男が駆けてくる。が、声に反応した与一は軽く地を蹴った(・・・・・・・)


「んなッ! と、飛びやがった!」


 小さな動作ひとつで、3階ほどの高さまで跳躍した与一。その姿を唖然と見上げる大男と取り巻く男たち。

 少し離れたところへと着地した与一を出迎える、無駄に頭数を揃えた集団。それぞれが武器を手に取り、与一へと一斉に襲い掛かる。


「そちらからお出ましとは、よほど死にたいらしいなァ!」

「ここでひとつ、我が家に伝わる秘技を──うべらッ!?」


 大きく踏み込んだ一歩から、驚異の加速をして見せた与一。肉薄した状態からぎこちなく振るった拳が、男の腹部へと直撃した。

 

「あ、やべ。加減できなかった……」


 『今日から君もバーサーカー☆』。それは筋力の制限を解除し、痛覚神経を麻痺させて治癒能力を飛躍的に引き上げるもの。ぽき、と。何かが折れたような音が聞こえ、与一に腹部を殴られた男は血を盛大に吐き出しながら沈んだ。与一の拳の指一本一本が変な角度にねじ曲がり、見ていた者は何が起こったのかと目を丸くした。すると、治癒能力による恩恵からか、ぐにゃり、と。原型からかけ離れた形へと変形してしまった指は、瞬く間に元の形へと戻り始めた。その時間──わずか『1秒』。

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