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65話

 セシルが取り出したものは、羊皮紙全体に描かれた地図のようなものだった。だが、与一には文字が読めず、所々に記されている街の名であろうものは読めなかった。オルサルド小大陸と言うだけあって、見た感じは大きな島国だと言える。


「ここがヤンサ」


 地図の一番下、尖った地形の端っこを指すセシル。

 横から覗き込むかのように見ている与一でも、自身がいるのが小大陸の最南端であることがわかった。全体的に見て、小大陸自体の形は上下に長く、左右の幅はそこまでないようだ。中央付近は山のような地形が描かれており、ヤンサから上に行ったところにはいくつもの街であろう名が連なっていた。


「王都はここ、地図の中央から右に逸れたところ」


 中心部分から右下に下った辺りにある文字をとんとん、と。セシルは、指で軽く叩いた。


「ヤンサからどれくらいの距離なんだ?」

「ん、馬で5日程度。馬車だと7日くらい?」

「そんなに遠くない感じだな」


 馬での移動方法があるのなら、そこまで遠くはない。しかし、与一は乗馬どころか、自分の目で馬というものを見たことがない。


「馬か……」


 移動手段の限られているこの世界で、手に入れておいて損はないであろう。が、そこまでの予算も手持ちもない状態なので、今後の目標程度にしかならなかった。


「借りることもできる」

「それは助かるな。最北端まではどれくらいかかるんだ?」

「確か、20日前後」

「な、なるほど。王都はこっちに近いから、か」


 帽子を被りなおす与一は、どこか興味深そうな表情を浮かべて目を上に向けた。


「旅でもするの?」

「世界を見てみたい、ってのはあるな。だけど、それよりも先にお金を調達しなきゃだからなぁ……」


 まさか持ち込んだ万能薬が宣伝がてらの報酬にされるなど、与一は考えてもいなかったのだ。

 いい加減、お金に困らない生活をしたいと常々思っていた与一にとっては、ギルドの対応は衝撃的であり、それと同時に何かしらの意図があったのであろう。と、納得がいくものであった。エレナとは出会えず、受付嬢には指示を出していたようで、買い取り自体は円滑に行われたのだ。


「……文句を言う相手が多すぎる」

 

 ぺち、と。おでこに手を当てる。


「万能薬の話?」

「あぁ、持ち込んだ分の買取額は後に渡すって言われてさ」

「ん、たぶん大丈夫」

「そうなのか? 即日で収入になると思ってたからなぁ。割と期待を裏切られた感がすごい……」


 忘れていた空腹感が込み上げてきて、与一はお腹を摩ることしかできなかった。

 少しでもお金をもらえたのなら、買い食いができたのかもしれない。と、持ち込んだその日にお金になるとばかり考えていた与一にとって、依然として解決されていない死活問題には溜め息しか出てこなかった。


「先生、お腹すごい鳴ってる」

「ははは。なんか恥ずかしいな、今朝方から胃になにも入れてないんだ。正直、腹が減って今にも倒れそうだよ」

「そうなの? なにか食べてく?」


 先ほど、セシルの父親がやってきた方向──店の奥を指さすセシル。

 ここは彼女の家であり、同時に父親と共に暮らしている場所なのだ。食べ物のひとつやふたつ、置いてあってもおかしくはない。だが、自分より年下の相手に食事を提供してもらうことに対して、与一は遠慮しなければならい。と、考えたのだ。

 お金がないから、少女に養ってもらう。流石にそれは男としてどうなのだろうか。と、アルベルトに食事と住む場所を提供してもらっていたことを棚に上げ、目の前にいるセシルを見やる与一。


「なんか、すごく申し訳ない気持ちなんだが」

「気にしなくていい。いつもお世話になってるから、そのお返し」

「そういうものなのか? 俺、なにかしらしてあげてないと思うんだが……」

「調合見せてくれた。それだけでもすごいこと」


 力強く頷くセシルを横目に、与一は納得せずにはいられなかった。

 何度も断ろうと言葉を並べる与一であったのだが、それに対してセシルが何度も説明していた。結局、先に折れたのは与一であり、セシルの言葉に甘えることとなった。




 日が沈み、宴会のような雰囲気に包まれている冒険者ギルドにて。

 どんちゃん騒ぎをしている彼らを横目に、受付嬢と話し込んでいるエレナの姿があった。一向に情報のででこないギルドマスター失踪の一件で、どうしても気になることがあったのだ。


「前に、彼が出張と言って出かけていた村などから得た情報によりますと、そもそも村に来ていないという報告がいくつもありました……」


 受付嬢が、羊皮紙に目を通しながら話した。


「さぼっていた……わけではなさそうなのよね?」

「はい。街を出たのを見た者もいないそうです」

「……なんか引っ掛かるのよね」

「なんか、と。言いますと?」


 受付のカウンターに上半身だけ乗り上げ、両手で頬杖を突きながら唸るエレナ。


「サボるにしても、その間に何をしていたのか。それが引っ掛かって仕方がないのよ」

「そうですね。ギルドマスターの性格上、娯楽に手を出すとも限りませんし。そんな話は一度も聞いたことありませんでしたから……」

「はぁ……とりあえず、今後は街中での聞き込みね。街から出てないのだから、それなりに目撃情報とかあるかもだし」


 こくり、と。頷く受付嬢を見て、小さく微笑むエレナ。

 捜索依頼をお願いした騎士団からの連絡は未だにない。だが、依頼した以上なにもしないというのも落ち着かない。時折、暇している冒険者に報酬込みでお願いをして、やっとの思いで手に入れた情報なのだ。街中でギルドマスターらしき姿を見た。との情報さえ手に入れば、彼がいなくなった足取りや手掛かりがわかるかもしれない。と、いつもこなしている事務処理が倍以上になった環境から、早く脱したいと強く願うエレナであった。

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