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51話

 宿の厨房にて、与一とセシルによる調合が行われようとしていた。

 時刻はアルベルトが買い出しに出かけている頃合い。宿にはルフィナの姿はなく、与一がどこにもいないと知って、ひとりで買い物にでかけたのであろう。ほぼ日課となっている付き添いと、今では常連となっているカフェでの昼食がないことに対して悔やんでいた与一であったのだが、そんなことを考えるよりも先に、厨房の、調理道具の反対側に積み上げられている薬草を見やった。


「さてと、始めますか」

「ん、なにすればいい?」

「分別することからはじめるか。同じもの同士で(まと)まっててくれると、助かるからな」


 手伝いをしてくれるセシルに指示をだす。

 彼女は薬師だ。ぱっと見でどれがどの薬草なのかを判断し、部屋の中央に設けられている長机の上へと並べていく。

 いやし草、解毒草、気付け草の3種類が少しずつ分けられていく。この世界に生えている薬草の類で、身近で手に入るものと言えばこの3種類だろう。他の薬草となれば、地域ごとに生えたり生えなかったりと、環境によって変わってくるものがあるからだ。他にも様々な草花があるのだが、それらすべては特筆するような効果を持っておらず、薬草と呼べるものが思っていた以上に少なかったことに、与一は少しがっかりしていた。


「まぁ、これだけあれば十分だろ」


 長机の上に並んだそれらを見て、与一は上着を脱いで腕まくりをした。

 まず最初にすべてを同時に乾燥させようと試みた。が、対象が複数の場合は近くにあったものしか乾燥させることができず、自身のスキル自体が複数に対しては意味がないことを知った。そして、同時に乾燥させれる大体の数を把握し、それらを試行錯誤しながら検証していく。

 徐々に手際が良くなっていく与一を、机越しにいたセシルが、驚いた表情を見ていた。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。と、数を増やしては同時に乾燥させる。


「こんな感じ……だな」


 そこそこの数があったにも関わらず、短時間ですべてを乾燥させた与一。


「すごいの一言」


 楽しそうに頷きながら、セシルが称賛を送ってくれた。だが、乾燥させただけではなにもできない。

 与一は、軽く握るだけで粉々になってしまう状態のいやし草を手に取り、治癒の効果のみを意識すると、ぽろりぽろり、と。粉塵が机の上へと落ちていく。


「下に何か敷かないと勿体ないな」


 調理道具の中から、フライパンを取り、机の上へと乗せる。そして、再度抽出の行程へと移る。

 黙々と眺めているセシル。これらの過程は調合師である与一にしかできないことであり、彼女自身が手伝えることと言ったら、与一に指示を出されたことくらいしかないのだ。


「よし。セシル、こいつらを瓶の中に詰め込んでもらっていいか?」

「ん、わかった」


 与一の手のひらの一回り、二回りも大きいフライパンであるのだが、粉塵の量が思っていた以上に多く、底から4割ほどが粉塵で埋まっていた。セシルが粉塵を手ですくって瓶へと入れている間に、与一は試行錯誤に(いそ)しむ。

 今まで、乾燥してから抽出していた。が、乾燥の行程を省いた場合はどうなるのだろうか。と、与一は薄々感じていた疑問を実践することにした。

 廃棄待ちの草花から雑草を適当に手に取り、意識を向ける。すると、どうしたものか。手に持っていた雑草からは、液体がぽつりぽつり、と。床へ垂れていくのだ。


「あー、なるほどなるほど。乾燥するから粉塵になって、そのまんまの状態でやれば液体になるわけだ」


 疑問が解けて満足する与一。

 粉塵ではなく、液体としての抽出した場合、粉塵を水に溶かすよりも効率よくポーションを作れるのではないだろうか。そう考え、検証しようとする。が、先ほどすべてのいやし草、解毒草、気付け草を乾燥させてしまったのを思い出し、頭を項垂れる。


「また今度、か。はぁ、こういう時に後先考えずにやると後悔するんだよなぁ」

「ん、終わった。粉塵と液体、同じ効果でも濃度とかあるかも」

「確かに……濃度があるってことは、薄めることによって効果も薄まっていくってことだよな?」

「治癒のポーション量産?」


 粉塵の場合は、少量でも摂取すれば効果が現れる。それも、本来の効果をそのまま、だ。しかし、液体となれば話が別である。例えば、治癒の液体を1対10などで割った場合、効果も10分の1になるということである。


「ある程度の効果にまで薄めて、それらを水の入った瓶に入れれば完成する、と。まるでカ〇ピスだな……」


 原液なるものを作り、水で薄めてある程度のものにする。こんなにも簡単に調合ができてしまうとなると、いっそのこと原液自体を売るだけでも稼げるのではないだろうか。しかし、そうなってくると顧客が生まれて大量生産しなければならなくなってしまうので、どうしても気が進まない与一。


「ん、カ〇ピス?」

「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」


 ここにきて与一は、ふと気になったことがあった。

 調合師は乾燥、抽出から手に入れたものでポーションなるものを作る。だが、薬師の場合はどのようにポーションを作っているのだろうか。と、解決した疑問が、更なる疑問を持ってくる。


「なぁ、セシル? 薬師って、どうやってポーションを作るんだ?」

「煮て混ぜる。それを瓶に移すだけ」


 いやし草から出汁を取る。と、いうことなのだろうか。

 実際、煮詰めることによって原液なるものは手に入るだろう。だが、いやし草本体を煮込むとなると、治癒の効果以外にも、植物本来の成分などが同時に出てくるので、不純物の混合によって効果は低くなってしまうのではないのだろうか。

 煮ることなく、液体を抽出できるということは、薬師からしたら便利の一言であろう。それも、効果のみしか含まれていない濃度100の代物となれば尚更(なおさら)である。


「次回までお預けだけどな。それじゃ、残りも全部粉塵に変えるか」


 セシルの作業が終わったことを確認し、残りの2種も抽出していく。それらの作業が終わってから、与一は考えていたレシピの数々を作るために、フライパンへと水を注ぎ始めた。



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