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44話

 夕日が沈み、月明かりが大地を優しく照らす。が、宿の一室ではそんなことお構いなしにだらだらと話続けるルフィナと、めんどくさくなってベッドに横たわる与一の姿があった。


「だから言ったんです。私は、いずれ大きなギルドにしたい、と」


 既に会話の話題は逸れ、いつの間にかルフィナのギルドに関する話になっていた。


「それから、私は決めました。小娘だからと、経験が少ないと言われようが、我が道を行くと……!」


 よだれがどうとか言っていた彼女は、なぜか熱く語り始め、ただただ聞き流していた与一を無視して壊れたラジオのように言葉を並べ続けている。長すぎるその話に、与一はあくびをしながら、時折鼻をほじりながら聞いていた。


「それから──────私たちのギルドで──────(略)───────こうして、ギルド『天秤』が今の形になって──────(略)──────と、言うわけです。素晴らしいと思いませんか? 与一様」

「すごいとおもいました(まる)


 まるで、小学生のような感想だ。適当過ぎる返事なのだが、なぜか嬉しそうに胸を張るルフィナ。ここまでくると、彼女は馬鹿なのではないのかと考えてしまう与一。


「ふふ、私と共に商売をすれば。成功すること間違いなし、ですよ?」

確かに(でも)そうかも(働くのは)しれないな(めんどくさい)

「……今、聞こえてはいけないものが聞こえた気がしたのですが」

「ん? 疲れてるんじゃないのか?」

「そ、そうなのでしょうか……」


 頬に手を当て、考え込むルフィナを横目に、自身はなにをしにきたのだろう。と、与一は首を傾げる。だが、彼女の話が長すぎたからか、思い出すことができずに唸っていた。


「どうかしたのですか?」

「ルフィナになにか言おうとしてたんだがな、いつの間にか忘れてた」

「…………?」


 疑問に思ったのか、彼女は眉を寄せた。すると、身体を起こしてベッドの端に座った与一の傍へと、ルフィナが腰を下ろす。また、詰め寄ってくるのだろう。と、身構えた与一であったが、そんな心配はする必要はなかった。

 先ほどまで、あれやこれやと楽しそうに語っていた彼女。だが、隣に座っているルフィナの表情は堅く、どこか落ち着きがない様子で、両足の親指をもじもじとこすり合わせていた。


「その、ですね……つい熱く語ってしまったのですが、大丈夫でした?」


 どうやら我に返った様子で、ちらりと与一を窺いながら問いかけるルフィナ。


「あぁ、大丈夫だったぞ。半分以上聞いてなかったからな」

「……それ、大丈夫っていうのでしょうか」

「いや、だって話が長かったからさ。これもう、聞いてなくても問題ないんじゃないかって」

「……なんか、ひとり喋ってた自分が馬鹿みたいです」


 むぅ、と。片頬(かたほ)を膨らませる。そんな子供のような仕草に、一瞬ぐっと来てしまった与一であったが、ここで彼女を調子づかせてしまうと、またからかわれたり、詰め寄られたりしてしまいそうなので、目を逸らした。


「馬鹿みたい、じゃなくて馬鹿だろ」

「ひ、ひどいです! 与一様が話を聞いてくれるので、なら私の身の上話でも。と、考えて喋っていましたのに……」


 落ち込んだり、驚いたりと忙しない。横でぎゃーぎゃー言っている彼女と、昼頃に一緒に買い物に出かけた彼女が同一人物だとはまるで思えなかった。だが、これも彼女の一面なのだろう。と、納得する与一。 

 ふと、ルフィナに言おうとしていたことを思い出しそうにはなるのだが、具体的な内容が浮かんでこない。


「それで、俺と取引するといいことでもあるのか?」

「はい。調合師様のポーションは、かなりの高値で取引されます。でも、肝心な物流と言いましょうか……基本的に国が管理しているものなので、易々と手に入るものではないのです」


 話の内容が商売の話になると、すぐに真面目な彼女に戻った。

 切り替えが早いのだろう。と、つい感心してしまいそうになるのだが、油断はできない。先の一件、与一は『男としては』嬉しい場面であったのだが、さも取引して当然のような話し方をする彼女は逆効果だった。


「な の で、与一様との取引は私たちにとってはとても有益なものなのです。この先、与一様が納品してくださるポーションさえあれば──」

「はぁ……断る」

「え……な、なんでですか?」


 冷めた声音で断られたルフィナは、まるで、絶望を覚えたかのように目を白黒させた。


「思ってたんだけど、さ。俺が承諾してない話を進めるのはやめてもらえないか?」

「気に障ったのなら謝ります! 一時的な納品でも構いません! ですから──」

「金のことになると、途端に見境がないんだな」

「──っ!?」


 与一の言葉に、びくり、と。ルフィナが肩を揺らした。

 肩を項垂れ、目を伏せる。意気揚々と喋っていた彼女は、消沈して大人しくなってしまっていた。隣で、借りてきた猫と化したルフィナを横目に見ながら、与一は小さく息を吐き、再度口を開く。


「みんな調合師だなんだって、すぐに特別視するけどさ。そのせいで俺が面倒事に巻き込まれたことは知ってるよな?」

「……はい。カミーユ様が話してたこと、ですよね」


 返ってきたのは、歯切れの悪い細々とした返事だった。


「正直、俺が勝手に友人だと思ってるやつらが巻き込まれるのが嫌なんだよ」


 実際、与一の近くにいたからとセシルが巻き込まれた。それを救うために、アルベルトとカミーユが手を貸してくれたからなんとか解決できたものの、もし彼らがいなかったらどうなっていたかはわからない。これ以上、誰かを巻き込んでまで調合をしなければならないのなら、最初からしないほうがマシだ。と、与一は考えてしまうのだ。


「誰かが困っているのなら、俺は迷わずに助けようと思う。けど、それらを売ろうとは思えないんだよ」

「……売れば、生活に困ることなんてないのですよ?」

「そうかもしれないな。でも、金で買えないものっていうのは、世の中ごまんとあるんだ」


 まるで見てきたかのような言い方をする与一を、ルフィナは横目でちらりと窺った。


「友人っていうのは、さ。作りたくても、なかなかできないものなんだぜ? そいつらを守りたいって思うのは身勝手だと思うか?」

「いえ、立派なことだと思います……」

「だろ? だから、俺は売る気にはなれない」


 そう言い、与一は腰を上げた。


「ですが、それは答えになってないませんよ?」


 部屋を出ていこうと、足を進めた与一を引き留めるルフィナ。すると、与一は振り向き、


「んー? それじゃ、俺が勝手に友人だと思ってるってことだろ」


 申し訳なさそうに笑みを浮かべた。


「もしかして……私のことを言ってるのですか?」

「それ以外に誰がいるんだよって、もうこの話はおしまい! なんか、恥ずかしくなってきた」


 頬を掻き、再度扉へと向かう。が、


「……? ですが、言い方を変えると『友人の為を思って働きたくない』って、捉えれますよね?」

「勘のいい子は嫌いだよッ!!」


 くわ、と。驚いた表情をしながら叫び、与一はそそくさと部屋を出ていった。そして、部屋に残されたルフィナは目をぱちくりとさせ、彼の出ていった扉を眺めていた。


「ふふ、本当に馬鹿なのかもしれませんね。私は」


 自身のことを友人と言ってくれた彼に、いつかお詫びをしなければ。と、ルフィナはベッドに身を投げながら考えた。最初からそう言ってくれれば、自分は彼を無理に誘うことはなかっただろう。それに、あの若さで調合師になっておきながら、遠まわしに働きたくないという彼には驚かされた。


「調合師としてではなく。最初(はじめ)から与一様自身として、接してくれてたのですね……」


 ひとりの友人として、ひとりの商人として、自身はまだまだ未熟だったのだ。と、後悔しながらも、友人という単語に胸を躍らせ、寝転がりながら膝を抱えて、嬉しさに頬を緩ますルフィナであった。

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