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23話

 カミーユの言葉に、アルベルトはぴたりと動きを止めた。


「……どういうことだ。与一」

「あぁ、いや。説明すると長くなるんだが……あれだ。あれ」


 ちらりと与一を見据えるアルベルトの目はいつもの穏やかな感じのものではなく、威嚇にも似た何かを含んだものだった。そんな眼で見られた彼は、何時に無く落ち着きのない様子。歯切れの悪い口調で誤魔化そうとするのだが、眼前にいる男を騙そうものなら命がいくつあっても足りない。と、本能が叫び、冷や汗がだらだらと出てくる。


「カミーユ、説明してもらおうか」


 むくりと立ち上がり、息を整えた彼女の前に立ちはだかるアルベルト。

 見上げるかのような体勢のまま、戦慄を覚えたカミーユは目を白黒させた。視界の端っこに捉えた与一にアイコンタクトを試みるが、彼は首を勢いよく縦に振るだけであった。


「と、とりあえず。落ち着こうよアルベルト……説明はちゃんとするから、さ」

「ったく、おめぇはいつも問題を持ち込んでくるじゃねぇか」

「あはは、否定できない……だけど、今回ばかりは私が情報の受け渡しをして起こった事じゃないんだ」


 呑気に笑っていた彼女の雰囲気が突如として変わる。


「さて、まず確認をしたいんだ。与一君、冒険者のプレートはあるかい?」

「プレート? あぁ、そういえばこの間渡すって言ってたな。でも、受け取ってないぞ? 昨日ギルドに顔出したら開口早々『指名依頼』だーとか言ってたから」

「……そうか。今の君の回答で、今回私の集めた情報から推測していた事態が現実味を帯びてしまった──ッ!」


 悔しそうな表情を浮かべ、俯くカミーユ。


「与一君……今すぐに、この街を離れるんだ」

「おいおいおい、そいつは与一のことを思ってか? それとも、おめぇ自身の利益の為か?」

「圧倒的前者だよ。相手が悪すぎるんだ。まぁ、いきなり出ていけと言われて納得できないだろうから、順を追って説明するよ」


 カミーユは厨房を出て、カウンターの前に並べられていた椅子を引きずりながら戻ってくる。そして、アルベルトの座っていた椅子の隣に、ダンっと音を立てさせながら置くと、しばらくの間唇を強く噛んでいた。


「事の始まりはおよそ二ヶ月前の冒険者ギルドで起きた事件だ」

「二か月前っていやぁ、あれか? ギルドにいた受付の子が失踪して行方知らずになったっていう」

「そう。あの時から内部に不審な動きが見られ始めたんだ。受付嬢の入れ替わり、生産職の登録者への指名依頼、ギルドマスターの度重なる出張。最初は忙しいのかと思ってたんだけどね、隣町に情報を仕入れに聞き込みをしたら驚きだよ。失踪事件のこと自体が知られていなかったんだ」


 机に肘をつき、指を絡めたその間から与一を眺めるカミーユ。


「隣町なんだから、関係ないんじゃないのか?」

「冒険者ギルドは情報のやり取りを常にしているんだ。魔物の出現状況や、緊急の場合に救援を送るためにも、ね」

「つまり、こちらとあちらとの情報のやり取りで不備があったわけではない。ってことだよな」

「あぁ、何者かが意図的に情報を隠蔽(いんぺい)したとしか言えないんだ。それと、さっき言っていた生産職の人への指名依頼なんだけど、調べてみたらギルドマスターが不在の時にのみ受理されてるみたいなんだ」


 与一の頭の中に、得た情報と自分なりに考えていた考察がひとつひとつ紐づけされていく。半日も経たずにこれほどの情報を仕入れる彼女には驚かされたが、現状、自身の置かれている状況は控えめに言っても最悪だ。


「俺が冒険者のプレートを受け取っていないのにもなにかしら理由があるのか?」

「あぁ、考えられるのはふたつ。ひとつ、与一君を長い間働かせるために使えるかどうかの判断を下そうとしている。もし使い物になるようだったら、これからも指名依頼という形で利用して懐を肥やすだろう。そして、ふたつめは……君が登録したこと自体を隠蔽する……」

「お、おい! そりゃぁおめぇ──」

「あらぁ、もうそこまで嗅ぎつけたのぉ?」


 ぞくりと、話し込んでいた三人の背筋が凍りつく。

 厨房の扉が開いた音なんて聞こえなかった、ましてや人が入ってきた気配すら感じ取れなかった。恐る恐る声の主を見やる与一は驚愕し、目を丸くすると同時に固唾を飲んだ。


 そこにいたのは、冒険者ギルドの受付嬢だった。


「うふふ、なかなかギルドに顔を出さないからぁ。来ちゃったぁ──ッ!」


 突如、ひゅんっと風の切れる音と共に彼女は剣を振るう。振り下ろされる先にいたのは──カミーユだ。

 だがしかし、剣先が触れたのはただのローブだった。


「せめて斬るときにはひとこと言って欲しいねッ!」

「っちぃ!!」


 舌打ちをひとつし、ローブを脱ぎ捨てたカミーユからの蹴りを咄嗟に(かわ)す。

 続け様に身を(ひるがえ)し、力を込めた右の回し蹴りが半円を(えが)く。だが、無駄のない洗練された足技を前にしても、彼女は深みのある笑みを浮かべながら流してみせた。


「うぉおおおおおおおおおお──ッ!」

 

 カミーユに続くかのように、雄叫びを上げるアルベルトが椅子を片手に振りかかる。が、丈夫そうな木製の椅子は目の前にいる彼女の一振りによって粉砕した。


「うふふ、レディーに対して失礼じゃなぁい?」


 にへらを笑い、腰を落とした彼女はそのまま剣を持つ腕を引き、身構えるアルベルトの胸部目掛けて突きを放つ。

 時間という概念がねじ曲がったかのように、徐々に視界に映る光景が遅くなっていく。正面にいるアルベルトに視野の端のほうから伸びてくる剣先が彼の身体へと刺さっていく様を、与一はただただ見ていることしかできなかった──そして、一瞬頭の中が真っ白になり、遅れた思考が即座に状況を把握する。


「────ッ!? アルベルトさぁあああああん────ッ!!!!!」



 

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