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19話

 一通り話し終えた彼は、考え込んでいるカミーユを前に黙っていることしかできなかった。彼女がどのように感じ、持っている情報でどこまで現状が見えているかは不明だ。だが、得られる情報は必ずあると踏んで話したのだ。わかりませんと言われても食い下がるつもりで、彼女からの返事を待つ与一。


「ふむ。与一君はこの街についてどこまで知っているのかな?」

「……海産物の料理が美味い街程度しか」


 ヤンサの事なんて与一にわかるはずがない。この街に来てからまだ1週間も経っていないのだから仕方がないのだが、彼自身が外出する事がまず少ない。それに、彼は転生者だ。この街どころか、世界がどうなっているかさえも未だにわかっていない。


「そうか。他の国から来たのだからわからないのも無理はない。か」

「回りくどいな。何が言いたいんだ?」

「おっと、ここから先は料金が発生するよ?」

「なら、俺から俺の情報を提供しよう。俺は無一文でただの居候調合師だ」

「っぷ、あははは! それは情報というよりも、君の価値を下げるだけだよ」

 

 腹を抱えて笑い、深みのある笑みを浮かべて与一の目を真っ直ぐと見るカミーユ。

 彼女は冷静に与一を分析しているようだった。情報の売買を生業とする彼女だからこその職業病とでも言おうか、このような場面であっても情報を売ることを優先し、相手の発するひとつひとつの情報を理解する。

 きっと、世渡りが上手なのだろう。相手との有益な関係を築き上げ、互いに納得のいく商売をする。情報屋という職業は、下手をすれば金で買い叩く商人よりも厄介な存在なのかもしれない。


「正直なところ、俺自身は調合師ってものを理解してないんだ。行き当たりばったりでいろいろとやってきたが、どれもこれも現実離れしていてな」

「ん? 君はおかしなことを言うのだな。その若さで調合師になったのに、相当の憧れと努力がなければ成し得ないことだよ?」

「おっと、ここからは料金制だぜ?」


 カウンターに手を置き、いたずらっ子のような表情を浮かべる与一に、カミーユはきょとんと目を丸くし吹き出した。


「あははは! ほんと、君って人はおもしろいね! じょ、情報屋に、くくく。あははは! 自分の情報を売るなんて!」


 どうやらツボにハマってしまったようだ。

 しばらく笑い続けた彼女は、ふぅっと息を吐き出してから満足したような表情を見せた。


「君のような人は初めてだよ。だけどね、与一君。情報と言うものは求める人がいるからこそ価値がある。現時点で君の事を知っている人は少数だからね。仕入れるには少しリスクが高いんだ」

 

 調合師として、この街で活動していない与一を知る人間は限られている。それ故に、彼の情報を買おうと思っている人間がいないという事だろうか。しかし、そうなると与一が差し出す事のできる価値があるものは限られてくる。

 ここで彼女から情報を得ない限り今後も悩む日々が続く。他人の事と仕事の事で悩むのが嫌になってきた与一は、彼女を厨房へと招き入れる事にした。




 物置部屋から、治癒の粉塵を詰め替えた瓶を拾い上げる。それを、厨房の長机の上に置くと、カミーユは不思議そうに中を喉き込んだ。


「これは……まさか、危ないものの類ではないよね?」


 危ないものとは、アルベルトも言っていた『麻薬』に近いもののことか、それ自体のことだろう。

 不安そうな顔をする彼女を横目に、与一は壁に掛けられている調理用具の中から大き目のフライパンを手に取った。そして、それを長机に置き、治癒の粉塵を少量入れ、料理の際に使用する水を貯め込んだ石造りの水槽から水を少々加える。


「………………?」


 黙々と作業する与一を見ながら、カミーユは首を傾げた。

 目の前で起こっていることは普段見る事のできない調合師の仕事だ。セシルなら、薬師としての経験があるので大体のことは察することが可能だろう。が、彼女は情報屋だ。いきなり説明なしに見せられては、彼のやっていることに疑問を抱くのは当然の反応だと言える。


「瓶がないからポーションは作れない」

「……ううん? なら、君は何を作ろうとしているんだい?」

「できるかどうかはわからないが、やってみる価値はあると思ってな。ちょっと待っててくれ」


 与一は知っている。薬品というものは液体のものだけでなく、粉末、固体のいくつもの種類がある事を。だが、こちらでカプセルなどと言った現代技術がなければできないものは別だが、ある程度の形を知っているものなら大体の感覚で同じ形のものを作ることは可能だ。そして、彼が今作ろうとしているものは──丸薬(の形をしたもの)。


 まず、治癒の粉塵を水に溶かし、粘り気が出るまで粉塵を足していく。出来上がるのは水気を帯びた泥のようなもの。そこから、更に粉塵を足していき、水気を減らしていく。十分に水気がなくなったら、それらを手に取って両手でコロコロと転がして形を作る。綺麗な球体になったところで、調合師のスキル『乾燥』を使って固めていく。

 ──が、


「……割れた」

「だ、大丈夫なんだろうね?」


 ピキっという音と共に、与一の作ろうと思っていた丸薬もどきは割れてまった。

 乾燥させ過ぎていたのか、もしくは急激に水分を失ったからなのか。与一の頭の中にいくつもの思考が飛び交った。

 一度集中したら、とことん追求したくなる。そして、ここまで来てしまったのだから完成させたい。と、彼のなかのごだわりが叫ぶ。


「乾燥させる時間を調整することは可能なのか……?」

「聞いてるのかい? 与一君? おーい?」


 横から手を伸ばして、フライパンの中身を眺める与一の目線を遮るカミーユ。だが、当の本人はそんなこと気にしてないかのように考え込んでおり、無視されている事に気づいた彼女はがくりと肩を落とした。


 再び、同じように手に取って球体を作る。先ほどよりも少し量を増やし、乾燥させる対象に意識を向ける感覚を短くする。すると、球体は割れることなく与一の手のひらの上で転がった。

 小指の第一関節から指先ほどの大きさの──『治癒の丸薬』の完成である。だが、丸薬というには少々大きく、ぱっと見は飴だ。そこから試行錯誤と検証を2度、3度繰り返し、先ほどの完成品よりも一回りも、二回りも小さい、米粒程度の大きさのものを完成させた。


「あとはこいつを、量産してっと」

 

 何度も繰り返して慣れてきたのか。回数をこなしていくにつれて、丸薬を作る速度が加速していく。そして、フライパンの中に残っていたものを使い、あっという間に4つもの治癒の丸薬を完成させた。


「これで、料金はチャラ。いや、今後の分もまかなえるよな?」

「その前に説明を頼んでもいいかな? ちょっと……いや、ちょっとどころじゃないけど。理解が追い付いてないんだ」 


 こめかみを人差し指で押さえ、目をつぶるカミーユ。


「簡単な話さ、ポーションは液体だろ? なら、それらを固体にしてやればかさばることもないし、持ち運びが楽になる。それが、こいつ『治癒の丸薬』さ」

「……つまり、本来は液体にするものを固体にしたってことかい?」

「んー、たぶんそれで合ってる」

「ど、どうやら私は、かなり高価なものを渡されたようだな」


 冷や汗を掻きながら、彼女は両手を机に置いた。

 どうやら思っていたものと違うもの、それも見た事も聞いたこともない代物を渡されて困惑している様子で、何を考えているかまではわからないが、彼女が何度も唾を飲み込んでいる姿を見るにかなり悩んでいるようだった。


「正直なところ、私でもこれの価値はわからない。だが、知識にある調合師のポーションよりも高価であることは間違いないだろう。ははは、まさかこのような形で度肝を抜かれるとは……」


 考えが纏まったのか、カミーユは丸薬をローブの内側から取り出した小さな革袋に詰めると、与一の目の前へと手を伸ばした。

 

「確かに受け取った。かなり先の分まで先払いされてしまったがな。さて、君が欲しがっている情報は今のところ私の耳に届いてはいない。ただ言えることがあるとすれば、ギルドマスター不在(・・・・・・・・・)のこのタイミングで何者かが与一君に対してよからぬことをしようと考えていた。と、いうことだ」


 黙って聞いていた与一は思わず声を上げそうになった。

 ギルドマスターが不在。その情報が手に入っただけでもかなり大きい。そして、内部の人間と何者かが糸を引いている可能性が見えてくる。結果的に、与一の推測していた冒険者ギルドの信用や評判に対する姿勢は間違っていなかったのだ。となると、あとは裏に誰がいるか、だ。


「報酬を受け取ってしまったからね、それなりに働かせてもらうよ。それに、こいつがあれば多少の無理もできる。情報屋に危険は付き物だからね」

「あぁ、なにかわかったらまたここに来てくれ」

「その都度報酬を払われたら何年も働かされそうだ……」


 苦笑いを浮かべなら革袋を仕舞い、フードを被り直したカミーユは厨房を後にした。



 その後、与一は物置部屋から黄色い粉塵の瓶を運んできて、残っていた治癒の丸薬の素へとそれらを加え────。

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