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1話

「ちょ、ま! 死ぬ、これ絶対死ぬから!!」


 地面目掛けてかなりの速度で落下していく与一。しかし、地面すれすれで不自然な曲線を描きながら着地。女神様の慈悲なのだろうか、もしくはそういう仕様なのか。無事に地上へと──開けた大地へと降り立つことができたのだった。


 ぽんぽんと、スーツに付いたホコリを払い、上着の胸ポケットから煙草を出して火をつける──この瞬間が一番落ち着くのは喫煙者ならではの感覚だと言えよう。


「──ふぅ……ったく、寿命が20年は縮んだぞ。あのクソ女神……次会ったときは絶対に文句言ってやる」


 何の説明もなく、命綱なしのスカイダイビングをやらされたのだ。仕事を押し付けられるよりもよっぽど質の悪い事をさせられて苛立たない人のほうが珍しい。無論、与一も例外ではなかったようだ。

 ぼりぼりと頭を掻きながらめんどくさそうに溜め息をこぼす。原因は目の前に置かれたいかにもな『ご褒美の宝箱(ボーナスチェスト)』感漂う木箱だ。その横に出現した看板に驚き、またなにかされるのだろうかと警戒心を露わにとてつもなく嫌そうな顔をする与一。すると、


『転生おめでとうございます。なにかと不便なことも多いと思いますが、ここでひとつ。与一さんに見合った職業とスキルを習得できちゃう優れモノ、『秘伝書』を差し上げち──』

「秘伝書と言えば読むだけで才能が開花するあれか……」


 まだ続けて文字が(つづ)られていくが、そんなことお構いなしに木箱の中に入っている手帳程度の大きさの紫色の本を手に取り、読みだした与一。だがしかし、最初の一ページ目から最後まで何も書かれておらず、読ませる気など微塵も感じさせない代物をぶん投げたくなる気持ちを隅にやり、仕方なく看板に目を向ける。


『たぶん、与一さんの性格上最後まで読まずに秘伝書を読んでると思うので、詳細を記載しておきますねっ!』


 最初からお見通しだったようで、複雑な気持ちを抱きつつも今にも悲鳴を上げそうなほど締め上げられている秘伝書から力を抜いた。幸い、くしゃくしゃになる程度で済んだが、これ以上締め上げていたら紙屑同然のもはや原型をとどめていない物と化するところであった。


『えぇっと……まず、あなたの素質をその本はまだ理解していませんっ! これから何をして、与一さんがなにをしたいのかを理解しなきゃ、秘伝書はなにも授けてくれないですっ!」


 与一の脳裏に、舌を口の横からぺろっとだして阿呆な笑顔をしている女神様の姿がよぎった。正直に言ってムカつく。が、こんなにも親切にしてくれているので、ありがたく秘伝書を頂戴することにした。

 秘伝書の説明を終えたからか、先ほどまであった木箱はなくなっており、最後に『楽しんでねっ!』とだけで綴られると、看板はうっすらと消えてなくなっていった。終わったのか、と、与一はタバコの火を消してポケットの中から携帯式の吸い殻入れを取り出した。


「さぁて、まずなにかしらすればいいんだよな……って言われても、なにをすればいいんだか」


 吸い殻入れを仕舞ってから座り込み、近くにあった草をむしりながら考え込む与一。一本一本むしっては投げ、むしっては投げ──気が付けば周りの草はなくなっていた。はぁ、っと大きなため息をこぼしながら立ち上がろうとした与一は、くしゃくしゃになった秘伝書が光っていることに気が付いた。


「……草しか抜いてないんだが、もしかして『秘伝、草むしりの極意』とかいうもんを授けられるんじゃないだろうな」


 もしそんなものが身についた場合、与一の今後の食い扶持(ぶち)は庭の草むしり程度しかなくなってしまう。そうなるのは嫌だが、秘伝書を読まない限りなにも始まらないので仕方なく読むことにした。


「えぇっと、君の素質は──」


 読み始めた刹那、先ほどまでくしゃくしゃだった秘伝書が元の形へと戻り、ぺらぺらと勝手にページが開かれていった。相変わらず何も書かれてないページを見た与一は、再び溜め息をこぼして立ち上がったのだが、少しずつ光を放ち始める秘伝書を前に目を丸くした。そして、最後の一ページに記載されていたのは──


『《調合師》──薬草や、ポーションの製造に精通した専門職(エキスパート)


 いまいち理解が追い付かずに眉を片方だけ吊り上げる与一を無視して、秘伝書からは無数の文字がぶわっと飛び出してきた。驚いて尻餅をつく与一の頭の中に、そのすべてが吸収されていく。


「あ、あぁぁぁぁ。あぱぱぱぱぱぱぱぱッ!?」


 脳に直接書き込まれていく情報量に変な奇声を上げ始める。しばらくして文字は出てこなくなると同時に秘伝書は跡形もなく散っていった。取り残された与一は放心状態の様子。ぼーっとよだれを垂らしながら遠い遥か彼方を眺めているだけであった。


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