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機械の神と救世主  作者: ローランシア
第一章 異世界と救世主
9/38

009  疑念と救出

 俺はシスター達から聞いた情報を元に、シスターたちがとらわれているという洞窟へ向かおうとしていた

 街から出る直前、マキナに確認を取る


 マキナ?マキナは街に残って街を守ってくれ。もし街に何かあったらすぐ教えてくれ

≪……やっぱり、街を離れるのは不安ですよね≫

 ……街から30キロも離れてるんだろ……?

≪魔物襲撃時からくーちゃん一万羽に常時見てもらってますから、

 くーちゃん一羽で大型ドラゴン百頭くらいの強さあるので余程の事がない限りは殲滅できます≫

 すごいな!?くーちゃんってそんなに強いの!?

≪はい。マスターの好きな小説で言うとくーちゃんは私の「眷属」ですから≫

 なるほど。マキナの眷属かぁ。ありがとうマキナ……頼りになるよ

≪ふふふっ≫

 じゃあ、マキナも一緒に行くか。

≪はいっ≫

 何か高速で移動できる方法ってある?

≪本気出していいなら1秒でこの世界のどこへでも飛んで行けますよ≫

 マジで!?え、なんで前使った時は本気出してなかったの


 マキナが真顔になり口を開く


≪……本気を出した場合、目的地に到着時マスターの毛髪はないものと思ってください≫

 何その脅し文句!?絶対ダメ!

≪ふふふっ。では、次元の扉で行きましょう≫

 えっ。次元の扉……?修行の時出してくれる奴?

≪はい。次元の扉は次元の狭間への入り口です。

 次元の狭間は全ての空間と繋がってますので、この世界のどこへでもゲートをくくるだけで行く事ができます≫

 そ、そうか!そういやあそうだ!肝心な事忘れてた!よし、それでいこう!

≪はいっ≫


 次元の扉を出現させる

≪どうぞ、マスター≫

 ありがとう、マキナ


 ゲートをくぐると洞窟の前に出る


≪この洞窟のようです。マスター≫

 洞窟の中にいる魔物の正確な数はわかるか?

≪わかりません……。洞窟全体に妨害効果が働いています≫

 ……こりゃ気を引き締めて行かないとな……


 んじゃ、行くか!打ち合わせ通りな?

≪はいっ!≫


 魔法で短剣を創り出し戦闘準備を整え、俺たちは歩き出す


 洞窟に入ると、マキナが掌から輝く玉を出し灯りをつけてくれた


「……くさっ!?」


 なんだこの匂い!?

 体臭と汗、腐臭と血が混じった悪臭が漂ってくる


 ……こりゃあ。この先にある光景は覚悟して目にしたほうがよさそうだ


「ギャ……!?」


 洞窟の曲がり角でゴブリンと鉢合わせる


 ……


 瞬時にゴブリンの首を飛ばし息の根を止める


≪お見事ですっ!マスター!≫


 きゃっきゃっと魔物を仕留めた俺を称賛するマキナ

 最高にかわいい笑顔で喜ぶ


 うーん!俺の神器は可愛いな!


 などと、ちょっとピクニック気分を味わいながら、出くわす魔物たちをマキナと共に倒しながら進むと……


 洞窟の先に灯りがともっていることに気が付く


「……あれは」

≪この先に開けた広場があるようです……多数の魔物と人間の反応があります≫


 近くまでくると反応があるかくらいはわかるのか

≪はい。近くにいても、あの人は情報を調べることはできませんでしたが……≫


 捕まってるのは、シスターたちだけじゃなかったのか……

 よし、予定を追加だ。殲滅して他に捕まっている人も


 その灯りへ進んでいくと声が聞こえてくる


「いやあああ!?」

「やめて……やめっ………」

「やっ!?やめて!?殺さないで!?殺さないで!?何でも言う事聞くからっ、殺さないでっ!?」

「いや……いやっ……っ、うっ……」


 その声が耳に入り早足で進む

 そこで俺たちが見たものは……地獄だった


 そこら中で、裸にされた女たちが魔物達に穢され、弄ばれている


 泣いて赦しを乞いながら、魔物の汚物を口に含む幼い女の子

 死んだような目をしながら、ただ人形のように魔物を受け入れる少女

 心を完全に壊されたのか、狂ったように笑いながら魔物との行為を愉しむ少女さえいた


 男女問わず遺体がバラバラにされ、腕や脚、頭部などがそこら中に散乱していた


 魔物たちが人間たちをまるで玩具を扱うように弄んでいた……


 体臭、汗、汚物、血、魔物の精液……

 酷い悪臭が立ち込める中、狂乱の宴が催されていた


「いやっ?やめってええええ!?デードリッヒ!?デードリッヒ!!!」


 部屋の隅で女が魔物に凌辱されながら、恋人らしき男をサイクロプスが押さえつけ、オークが殴る蹴るの暴行を加えていた


 余りに不快な光景に気分が悪くなる


≪……醜いですね≫

 ……マキナ

≪はい≫

 そろそろ掃除始ようか?

≪はいっ!≫


 俺たちは広場へ突入する


「いやああああ!?デードリッヒ!!!」


 オーガが巨大な斧を男に振り下ろそうとした瞬間、斧が粉々に破壊される


「ナ……!?」


 斧を壊され一瞬呆けるオーガ


≪マスターを不快にさせるゴミが……!≫


 マキナが嫌悪感を露わにしながらその言葉を言った次の瞬間……

 オーガを含むオークたちが肉片も残さず消し飛ぶ


 やるう!さっすが最強の機神様!

 俺も負けていられねえな……!


 女を押さえつけながら凌辱していたオークやゴブリン達を瞬時に粉微塵に変える


「……えっ……?」


 押さえつけられながら泣き叫び凌辱されていた女の子が呆けた顔になる


 呆けている女の子に近寄り声をかける


 魔物たちへの感情を押さえ口を開く


「……部屋の隅で待ってろ。すぐに終わらせる」

「……あっ!?はっ……はいっ!?」


 女の子が少し平静を取り戻したのか、腕で胸を隠しながら答える

 女の子が広場の隅へ向かうのを確認し、次のターゲットに向かう


 ずる賢くも人質を盾に取ろうとするが、俺たちには関係ない

 相手が人質に危害を加えるより速く殺せばいいだけだ


 立ち込める血煙と魔物たちの声にならぬ断末魔の叫びが広場を埋め尽くす


 マキナと二人で広場の魔物達を殲滅する


 広場にいた魔物たちの掃除が終わり、周辺に魔物の気配がない事を確認する

 掃除が終わった後、捕まっていた人達を広場中央に集める


「あっ!あの!本当にありがとうございました!」

「うっ……うう……」

「……あ………‥‥あ…………」


 感謝の言葉を述べる者、未だ泣き続ける者、心が完全に壊れているのかまともな会話が成り立たない者……

 様々な人がいた……


 相当……酷い目に遭ったみたいだな……


「今から皆さんの怪我の治療をしますので、順番にお待ちください」

 マキナ?まず精神に異常をきたしているような人は最優先で眠らせてくれ。暴れたり自殺したり行動に予測がつかないから

≪はいっ≫

 それが終わったら重症の人から治療してあげてくれ≫

≪はいっ≫

 しかし、凄い匂いだな。何日も風呂にも入れてもらってなかったんだろうな……

≪こんな事もあろうかと、部屋の傍仕えさんに用意してもらったタオルとバスタオルを100枚ずつと、清潔な水を次元の狭間に用意してあります≫

 マジで!?えらい!さすがマキナちゃん気が利くね!

 ぐりぐりとマキナの頭を撫でる

≪えへへ……もっとほめてください……≫

 よし。じゃあ、俺は疲弊しきってる人から体拭いていくから、マキナは治療頼む

≪はいっ≫


 ブオン……!

 マキナが次元の狭間からタオルとバスタオル、それと清潔な水の入ったビンを大量に出してくれる


 体を拭き終わり少し気持ちが安定した女の子たちが、手伝ってくれたので思っていたよりも早く終わらせることができた


 こうして、一通り全員の体を拭き終わると、少し落ち着きを取り戻したのか、表情が柔らかくなる

 男は腰にタオル、女の子達はバスタオルで体を隠してもらう


 よし、これでいい。これで少しは落ち着いただろう

 後は街へ送り返さなきゃいけないんだけど……この奥にもまだ通路が見えてるな……


 マキナ?

≪はいっ≫

 この人達を何か安全な方法で安全な場所に移動させる方法はあるか

≪では街に戻るまでは次元の狭間に入れておくというのはどうでしょう?≫

 ……次元の狭間に人が入れるって事は他人に知られたくないな。他の手はないか?

≪なるほど……では、移動用マウントを出しましょう≫


 マキナが次元の扉を出現させ、コミカルなマキナの顔がプリントされた気球を出現させる


 ……あの?マキナさん?気球……だよね?これ

≪はい。そうですが、それが何か?≫

 それが何か?って……いやいや、ここ洞窟だよ?気球って……

≪ご心配なく。空間湾曲転送装置を使えば短距離であれば、物体を瞬間移動させられますので≫

 物体を瞬間移動とかできるの!?凄いな君!

≪はい。ですが出来ると言っても100M程度の短い距離ですが≫

 すっげえ!?すげえなマキナ!

≪ふふふっ。そ……、そうですか?≫

 ああ!凄いよ君!


 ドヤ顔でフンスっと胸を張るマキナ


 うん、これは誇れる能力だよ!めっちゃドヤれるよ……!すげえよ、マキナさん……!マジ有能


 あ……、ドラゴンとか空飛ぶ魔物に襲われないか?

≪大丈夫です。私と同じ装甲なのでミサイル程度なら無効化します。

 この世界の魔物なら気球の基本搭載している武装で殲滅可能です。ご安心を≫

 ミサイル程度って……、それ一体何をしたら傷がつくんだよ

≪えっ?マスターの「斬葬」なら切断可能ですよ?あの技はなんでも切れますから≫

 あの技ってそんなに強かったの!?

≪はい。私の装甲を傷つける事ができる数少ない攻撃方法の一つですね。現在この世界であの技を使えるのはマスターだけです≫

 マジで!?

≪はい。中世ヨーロッパのサイザールと言う暗殺者が編み出した短剣術なのですが、その暗殺者は誰にもその技を継がせず死亡したので……≫

 過去の達人のデータってすげー!そんな門外不出のデータも入ってるのか!


 ……とりあえず、皆さんに乗ってもらおうか。

 マキナ?気球に乗せるの手伝ってくれ

≪はいっ≫

 マキナと二人で人質だった人達を気球に乗せる

≪じゃあ、街へ送りますね≫

 ああ、頼む


 ピシュンッ……!

 一瞬で気球が消えた、転送されたようだ


 よし。これで人質の人達は安心だ。……シスターたちはどこにいるんだ……?

 広間で保護した人達の中にはシスター達の姿はなかった、この先か


 広間を抜け再び通路に入ると、オークやゴブリン達が通路の奥からやって来る


「ギャギャ!?見た事のないニンゲンがイルゾ!?」

「オンナダ!オンナがイル!」


 一歩後ろにいたマキナを見つけゴブリンが歓喜の声を上げる


「……貧相な乳ダナ!穴ダケツカウゾ!」

「残念ナ乳のガキダナ……!」


 あっ……

 君達、それ禁句……


 ……


 俺は危険を察知しススススス……と横に平行移動し、壁に張り付く


 カッ……!!!


 次の瞬間、マキナが掌から巨大な閃光を放ち、洞窟に風穴を空ける

 俺の真横を通り抜け閃光の直撃を受け魔物たちは消滅する


 あぶねっ!?


 マキナちゃん!?俺近くにいるんだからね!?

 今マジでヒヤっとしたからね!?


≪……魔物にまで胸を馬鹿にされた……!しかもっ!ゴブリンに!

 残念って!貧相って!く~~~~~~っ!!このこのこのこのっ……!!≫


 マキナが悔しそうに地団駄を踏みながら苛立ちを露わにする


 マキナが地団駄を踏むたび地面がえぐれていく


 あの……、地団駄踏むのはいいけど洞窟が崩れない程度にね……?地面えぐれていってるよ?

≪……マスター?それは私の体重が重いと……?≫

 そんな事言ってないって!?完全な被害妄想だよ!マキナは綺麗だよ!

≪それなら……いいんですけど……≫


 あのゴブリンが余計な事言うから!俺にまで火種が飛んできてるじゃねえか!!


 てか……、あ~あ……。洞窟に大穴あいちゃったよ……

 この直線上にシスターたちがいなかったのを祈ろう……


 俺たちは再び洞窟を歩き始めた


≪……マスター?ちょっと聞いてもいいですか?

 ん?

≪あの人の……不審な点ってなんですか≫

 ああ、それか

≪はい≫


 最初に違和感を持ったのはあの言葉を聞いた時だけど。

 完全に不審に感じたのは今まで召喚されたはずの救世主たちがいないってわかった時かな


≪いなかったら、おかしいんですか?≫

≪おかしいさ。これまでに召喚された救世主の中には、戦いに特化した神器を宿す人だっていたはずだ。

 戦いの才能があって、戦う事が好きな人もいたと思うんだ……。けど、その人たちは軒並み死んでる……


 覚えてるか?あのシスターたちの言葉……


「だ、ダメだこりゃ……」

「次行ってみよー!」


 次、なんて言葉を気軽に言えるって事は、異世界から召喚を行う事自体は頻繁に行われているって事だ

 次々召喚を行えるから、召喚された「救世主」に対してあんな失礼な態度をとれていたんだよ

「ダメだったら次の救世主をまた呼べばいい」ってな。

 もし、次の召喚までに時間がかかるなら……、それこそ一年に一度しか召喚できないとかだったら、もっと大事に扱うだろ?普通……。

 なんたって相手はわざわざ異世界から呼び寄せた「救世主」様だぜ?

 自分たちの世界を救ってくれるかもしれない相手だったら、俺なら敬い崇め奉るね。

 あのシスターたちは恐らく以前にも救世主との間にトラブルを何度か起こしてるはずだ。これもあの時思った


≪救世主が死んでいるのは、魔物に殺されたという可能性もあるのでは?≫

 それもあるだろうな。でも、俺はあの人が今までの救世主を殺してると思う……

≪あの人が……どうして……≫

 ……考えたくはないけど……人間、だからじゃねえかな

≪っ!……なるほど。人間なら……、やりそうですね≫

 だろ?

 そこでさらにもう一つの不審な点に気が付いた

≪もう一つ……?≫

 異世界に召喚されてすぐの俺にあの人は宿を用意してくれようとしただろ?

≪はい≫

 異世界に召喚された直後なら、宿賃なんて当然なくて当たり前だ。

 だから、あの時はそこまで不審に思わなかった。けどこれらの不審な点を繋げていくとさ……

≪……っ。あ……、なるほど、確かにそれなら辻褄が合いますね≫

 な?そう考えると他に救世主がいないってのも説明つくだろ

 これに気が付けたのもあの襲撃でマキナの情報収集を、

 妨害できるほどの力をもった何者かがいるってわかったからだけどな

≪あっ。それもやっぱり関係あるんですか≫

 もちろんあるさ。マキナは昨日俺が修行中の間は街の様子を監視しながら修行してくれてたんだろう?

≪はい≫

 街の人たちはもちろん監視していたマキナにも気が付かれずに、シスターたちを不審がらせず街の外に連れ出すことができた。

 街から離れた場所に魔物を忍ばせておいて、魔物に攫わせたはずだ。街の中に魔物が侵入したら大事になるからな

 その人は隊長の不在を知っていたはずだ、でなきゃ隊長の不在時にちょうど魔物が攻めてくるなんてあまりにも出来過ぎてる


 おまけの不審な点を挙げるとすれば

 北と南の同時侵攻なんて本能で生きてる魔物が考えたとはとても思えない……

 誰かが考えて魔物にそう行動するように仕向けたとしか思えないんだよ


 シスターを攫った人物はさ

 街の人にもある程度顔が知られてて……シスターたちと街の外へ出ても門番に不審がられずいられて……

 さらに隊長と休日の予定をどうするかとかの世間話ができるくらいには親しいはずだ


 これらの不審な点を線で繋げていくと……一本の筋ができてしまう


 その線が指し示す人は一人しかいない


 言いながら歩いていると洞窟内に明らかに人の手で作られたと思われる扉が見える


 ガンッ……!ガンッ……!


 中から何か音が聞こえる


「……俺の妄想であってほしかったよ。レティシア──────」


 扉を開け俺たちが目にしたのは

 女の頭を手で掴み壁に叩きつけていたレティシアの姿だった


「あら……?司様……どうしてこちらに」


 レティシアが服を血まみれに汚しながらゆっくりとこちらをむく


「……なんでシスターたちを攫った?なんで、救世主を殺した?」

「ふふふ……。あなたにはわからないでしょうね?そんなに強い神器を持っているんですもの、わかるわけないわ……。

 救世主として召喚されて、治癒の力しかもっていなかった私の気持ちなんて……」


≪マスター。この人、何者かに洗脳されてます。正常な人間の目ではありません≫

 ……やっぱり、か……

 マキナ?……洗脳された人を元に治すって事はできるか

≪今は、できません……≫

 だよなぁ、……ないわなぁ……って、今はって言った?今?

≪意識のある状態では……無理です≫

 ……それはつまり、気絶させるとか眠らせるとかして無力化することができれば可能って事か

≪はい。意識がある状態ではできません……≫

 それは妨害は関係ないのか?

≪はい。情報を読み取る事と情報を送り込む事は別なので可能です≫


 ニッ……

 マキナのその言葉に思わず口元が緩む


 さっすが、最強の機神様……!頼りになるぜ!


 暴漢を捕まえた時のワイヤーで捕らえた場合、レティシアが無理に動けばバラバラになる可能性がある……

 となると、スタミナキルしかねえな……


≪マスター……?もう殺してしまった方が早いのでは……≫

 ダーメ。救えるのなら救いたい

≪ダメですか……。こんな人私がミサイル打ち込んだらすぐ終わるのに……≫

 がっかりしないの!レティシアに限らずどんな人も死ぬからね!?ソレ!


≪では、マスター。これをお持ちください≫

 マキナが湿ったタオルを渡してくる


 ……これは?


≪私の兵器の一つの睡眠のガスを染み込ませてあります。

 この場で使うとマスターを巻き込んでしまうので兵器として使う事はできませんが……≫

 なるほど、これならレティシアだけを眠らせる事が出来るか!

≪はい。しかし、疲弊した状態でなければ効果が薄いと思われます。

 ガスは空気に触れると変質するので……≫

 つまり疲れさせてからじゃないとダメって事か。わかった!


「救世主として召喚されて……、あのシスターたち……、街のみんなが歓迎してくれたわ……。でもね?

 私が治癒の力しかもっていないとわかると途端に手のひらを返して……冷たく当たるようになっていったの……」


 最低最悪な妄想が当たってしまう……

 できれば、外れていてほしかったぜ……


 ギュっと拳を握り込む


「地獄だったわ……。毎日……イジメられて、子供たちに「魔女だ」って石を投げられて……

 通りすがりの男達に裏路地に連れ込まれて弄ばれて、まるで公衆便所で用を足すように……それが当然の事ように強姦するのよ?

 何もかも嫌になっていったわ……死んでしまおうかとすら思うようになっていったわ。

 どん底にいた私にあの方が私に希望をくれたの…………!」


「あの方……?誰だそいつ……!?」

「素晴らしい方よ……?私の事を認めて、必要としてくださったの……うふふ……」


 うっとりと恋する乙女のような目で天井を見上げるレティシア


「私を、必要だって、愛してるって……そう言ってくれたの……うふふふふ……」


 あの方……レティシアがそう呼ぶ相手が……マキナの監視を妨害できるほどの存在ってやつか……!?

 レティシア一人ででこの一連の事件を引き起こしたとは思えない。

 ……その「あの方」って奴がレティシアを洗脳してシスター達を襲わせ魔物に街を襲わせた黒幕か


「なんで、救世主たちを殺してた?」


「あの方の為よ?あの方を殺そうとする救世主は殺さないと……、でも、私は戦闘に向いていない……それなら。ね?

 召喚されて間もない日に!夜ベッドで眠ってい居る間ならそれなら非力な私でも簡単に殺せるじゃない?うふふふふふ!!!!」


「……でも、あなたは予定外だったわ……。あの子たちが馬鹿みたいに煽ってあなたに神器を見せなさいなんて言わなければ……。

 あの日私が用意した宿のベッドの上で「誰か」に殺されるはずだったのに!アハハハハハ!!!!!」


 あの、レティシアが……髪を振り乱し、目を充血させ見開いている。

 その様はまるで鬼のような形相で……あの優しく微笑みながら話かけてくれたレティシアはもういなかった


「ほんっと……あの子達ったら……、いえ……!あの街にいる人間なんてみんな死ねばいいのよ……!!!」


「街には関係ない人だっているだろ……」


「それがどうしたの?あんな街……めちゃくちゃになればいいんだわ!!アハハハハハハハ!」

「……もういい。喋るな……。レティシア」


「ねえ?貴方も私と一緒にあの街を……、この世界を滅ぼさない?」


 何十年前のゲームの魔王のセリフだよ……


「悪いな。俺は割とここが気に入っちまったらしい」


 言いながら魔法で短剣を出現させ構える


 この世界に着たから、俺を「マスター」と呼び慕ってくれるマキナに出会えた。

 この世界に来て初めて……俺の話をちゃんと聞いてくれる人に出会えた。

 この世界で初めて心の底から惚れた人に出会えた。


 この世界に来なかったら────俺は自分の在り方なんて決められなかった……!


 世界が、世間が、俺を「救世主」だって言う……。なら、この子を救えないような奴は「救世主」じゃねえ……!


 ……レティシア、君は召喚されたばかりの俺に神器の出し方を教えてくれたな。

 嘘を教える事だってできたはずだ……だけど君は本当のやり方を教えてくれた……

 君が神器の出し方を教えてくれたから、俺はマキナと出会えた


 だから────────



 今度は俺が「救世主」って奴を教えてやる……!



「構えろ。お手本を見せてやる」



 ────────レティシア



 俺がその呪われた連鎖を断ち切ってやる────────




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