004 警備隊と模擬戦
昨日の騒動から一夜明け、朝になり街に人の姿が見られるようになったため、
俺たちは捕まえた暴行犯二人を連行するため警備隊に連れて行くことにした。
事情を説明するため必要だと思ったので、暴行を受けていた少女「リリア」さんにも同伴を頼んだ
俺とマキナとリリアの三人で石造りの堅牢そうな建物の前に着く
「こちらが首都ローラン警備隊の本部です……」
「よし、じゃあ……行こうか」
≪マスター? リリアさんの隣を歩いている時心拍数が上がってますよ≫
仕方ないじゃん!? 俺だって健全な男子高校生だし!
こんな可愛い子と一緒に歩いてたらそりゃあドキドキするって!
≪やはり、おっぱいですか……≫
コラコラコラ? 人をおっぱい星人みたいに言わないの
≪だって! リリアさんより私のほうが美人ですし! 後考えられる要素はおっぱいしか!≫
ち、違うよ。マキナ。俺はおっぱいでなんて人を好きになったりしないよ……
≪そうですか? マスターの元いた世界のお部屋のベッドの下に
「月刊えちちおちち~春のパイ祭り」という巨乳の女の子の裸の画像が沢山載っている本が隠されてるという記憶がありましたが?≫
俺の愛読書の事まで知ってるの!?
≪マスター? 私、動力源の電気は自分で電気は作れますので、自家発電はしなくて大丈夫ですよ≫
最近の家電製品は下ネタまで言うのかよ
≪家電じゃないですっ……≫
「……? と、東条さん…………? どうかしました? 先ほどから顔色が……」
「い、いや……。ちょっと自分を見つめなおしてて。ハハハ…………」
門の前に着くと門前にいる警備兵にジロジロと睨むように見られる。
ああ、この世界の服じゃないもんなぁ。門番さんから見ればさぞ不審に見えるだろうなぁ
しかもワイヤーで縛られた男二人が空中に浮かされてるとなれば怪しさは凄いだろうな
屈強な体つきに無数の傷痕がある門番さんに話しかけられる
傷だらけのその風体から数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の兵士だという事がわかる
「その二人は……? 何か問題でも?」
「この二人は昨日の夜遅く裏路地でこの女の子に暴行を加えていました。取り押さえましたので然るべき措置をお願いします」
「……っ!? ち! 違う! こいつらだ! こいつらこそが女の子を殺そうとしてやがったんだ!」
「そ! そうだ!? 俺たちがこいつらを捕まえようとしたんだが、逆に捕まってこの有様なんだ! 助けてくれ!」
暴漢たち二人のその言葉を聞いた門番たちに訝し気な目を向けられる
へぇ……、悪くない言い訳だ
確かに監視カメラ等のハッキリした証拠がない世界でこう証言されれば、こいつらが暴行を加えていたという証人を探さなければならない。
裁判制度なんてものがあるのか知らないが、文明の進歩の程度はあれど、こういう警察のような機関があるという事は双方の言い分は聞いて,
真実かどうかの確認が取れてから措置は行われるはずだ。
でなければ、気に入らない奴を密告して冤罪で死刑にする事も可能だ、この世界の人たちがしっかりした文明を発展させてくれてて助かったぜ。
ただこれ自体を信じてくれるかどうかは賭けなんだよなぁ
なんせこの世界にはカメラなんてないわけだし……これ自体に疑いをもたれてしまう可能性も大いにある
「あの、どういう事でしょうか?」
「ああ、助かりたい一心から出た嘘なんで聞く必要ないですよ。
こいつらがやったという証拠を持ってきています。確認してください。───マキナ?」
≪はい。マスター。……こちらをご覧ください≫
少女の姿のマキナがタブレット型モニターを出し、昨日の一部始終を録画した映像を門番たちへ見せる
────
「……これは。…………わかりました、中で詳しいお話をお聞かせ願えますか」
やったぜ! 信じてもらえた!
「はい」
「おい。この者達を牢に入れておいてくれ」
「ハッ……! 了解しました。直ちに連行します!」
……え? あれ? 門番さんが命令してる…………? 門番って新人とかがやるもんじゃ……
門番さんと建物に入ると応接室に通され、立派な飾りつけのされた部屋に通される
部屋の入口で立っていると声をかけられる
兵士さんが兜を脱ぎ、兜かけにかける
銀髪の髪をオールバックにして後ろで束ね顔の所々に傷痕が残る風体は歴戦の戦士を思わせる顔つきだった
「さ、お掛けください。今お茶を持ってこさせますゆえ」
おじさんがベルを鳴らすと雑用係と思わしき使用人さんがノックの後部屋に入ってくる
コンコン……
「入りなさい」
「失礼します。隊長。いらっしゃいませ。お客人」
「この方達にお茶を入れてくれ」
「かしこまりました」
返事をした使用人さんが出ていく
え、た、隊長!? この警備隊の隊長って事!?
なんで隊長自ら門番なんてしてんの!?
「ハハハ……。隊長自ら門番に立っていた事に驚かれていますな?」
「えっ、あ、は、はい……」
「なに、簡単な事ですよ。この部屋で書類仕事をしているだけでは、街の様子は見えませんからな」
「な、なるほど……」
話の分かりそうな隊長でよかった
「それで、先ほどの連中の件をお聞きする前に……、
あなたの事を教えていただけますかな? 見たところ変わった服装をしておられる」
ああ、俺、学ランだもんな……、この世界の人たちの服のデザインと全然違うし、そりゃ不思議に思うわな
マキナに至ってはゴスロリ服だし……
「……私は東条 司って言います。
昨日の夜、大聖堂のシスターのレティシアさんに救世主として召喚されました」
「な!? なんと救世主様!? 二人目の救世主様ですとっ!?」
その言葉に隊長がガタっと身を乗り出す
……二人目? おいおいおいおい! そりゃどういう事だ!? 救世主って、俺とレティシアしかいないの!?
もっと何人もいるんじゃないの!? 昨日シスターが「今まで召喚した救世主は全て女だった」とか言ってただろ!?
まさか……!?
≪昨日この街の人間を全てスキャンして調べたのですが、
この街にレティシアさんとマスター以外に救世主と呼ばれる人間はいません≫
……他の街や国ならいるかもしれないって事か
今までにこの街で召喚された救世主は俺とレティシアを除いて全て死んだって事か……
≪その可能性が極めて高いかと≫
「ええ、本当です。それで、この女の子が私の神器・デウス・エクス・マキナです」
「え……、神器、が…………人……それも年端もいかぬ子供です……と……? ……あの?
……神器と言うのは何かこう…………武器のような物だと伺っておりますが……」
隊長がマキナの方へ驚きと疑惑の目を向ける
≪……こんにちは。デウス・エクス・マキナです≫
「……申し訳ないが、にわかには信じられませんな…………」
まあ、そうだよな……、昨日見せてもらったレティシアの神器はでかい錫杖だったし
魔物と戦うための武器を神器というものだと認識しててもおかしくはないわな
信じられないというのも頷ける、が……、俺たちの身分を信じてもらわないと、あの暴漢たちの処遇にもかかわってくるだろう
何としても信じてもらわないといけない
「じゃあ、私と……、いえ、私達二人とこの警備隊の兵士さんで模擬戦を行うと言うのはどうでしょう?」
「模擬戦……ですか」
「つっ! 東条さん!?」
「まあ、任せて? リリア。俺が救世主だって信用してもらうには力を示すのが一番早い」
神器で力を示す以外となるとまさしく悪魔の証明になって、
わかってもらうまでに多大な時間と労力がかかりそうだ
「……私たちが言っている事がもし嘘なら、私達は「一般人」という事になりますよね?」
「ええ……失礼ながら、そうなりますな」
「ではその「一般人」が、厳しい訓練を潜り抜け、幾度も戦場を駆けた「兵士」に勝てると思いますか?」
「……それは、不可能というものでしょうな…………」
「模擬戦と言うと少し大げさだと思いますが、それが一番早く納得していただけるかと思います」
「……よろしい。ではこちらへ…………」
「司さん……」
「マキナ、行くぞ」
≪はい、マスター≫
警備隊の訓練場に通されると多くの兵士たちが訓練に勤しんでいた
訓練場の通路の壁には訓練用の剣や盾がかけられていた
……剣だ…………、
生まれて初めて実物の剣を目にして内心ビビる
剣……、人を殺す道具…………
訓練場の広場に近づき、ほのかに血の匂いをかぎ取る
……俺は、本当に異世界にいるんだな…………
剣や盾の木と鉄の匂いに交じった血の匂いに気分が悪くなる
血の匂いが漂う通路を抜けると中央の訓練場へと続く入り口が見えてくる
俺たちが通路で兵士とすれ違う際話しかけられる
「……っ! 隊長! どうかなさいましたかっ? 今日は門の警備にあたっておられたはずでは!」
その声で訓練に勤しんでいた兵士たちの動きが止まり、兵士たちがヒソヒソと話し出す
「た、隊長が……訓練所に…………! 今日は見張りの予定じゃ!?」
「な、なんで!? 今日隊長は門の警備の日だよな!? 隊長の訓練の日じゃないよな!?」
「も、もしかして……気が変わった…………とか……?」
「おい! 笑えない冗談やめろよ!? 昨日も隊長の訓練だったんだぞ!」
「……ん? ガキが二人? なんだ? あいつらは…………」
「訓練を止めてしまってすみません……」
「構いませんよ。どうせ私が見ていない時はろくに訓練に身が入っておらんのばかりです」
「……訓練中すまんが、今からこの方達と模擬戦を行う。すまんが皆通路にでておいてくれるか。訓練場の全面を使いたいのだ」
「ハッ! おい! 今すぐ通路に出ろ! 隊長が今から使われるぞ!」
「「「「「「「は、はい!」」」」」」
大勢いた兵士たちが蜘蛛の子を散らすように訓練場の脇の通路へ走りだす
「…………ギリッ! !」」
歯ぎしりをして自分の中にある感情を押し込める
「……準備が整いました。さ、行きましょう」
「な!? 隊長と……あのガキどもが模擬戦だって!?」
「ハッ……、馬鹿な奴らだ…………。誰に戦いを挑んだのかわかっていないらしい」
「剣聖と謳われる「テラー・イグニス」様だと知らんらしいな。
……よし、俺が物を知らん田舎者を教育してやろう」
隊長の下へ一人の金髪のイケメン兵士が近寄ってくる
「隊長。このような下賤な者達の為に隊長のお手を煩わせるわけにいきません。
ぜひ、私めにそのお役目をお任せください」
「……勝手な事をするな。シオン…………。……この者がご無礼をいたしました」
隊長に頭を下げられる
「な!? 隊長!? 隊長がこのような者達に頭を下げるなど……!」
「黙れシオン……。この方達は救世主様なのかもしれぬのだぞ…………」
≪マスター? このゴミ殺していいですか≫
ダメ!
≪ダメですか……≫
心底がっかりしないの!
「何ですって‥‥…!? 救世主…………!? こんな小便臭いガキが……!?」
≪こいつ……! 殺す殺す殺す殺す殺すコロス…………!!≫
ま、まぁまぁ! マキナ落ち着け、な?
≪~~~~~~~~っ!!!≫
「じゃあ、二人まとめて相手になりますよ。こちらも二人ですし」
マキナ……、殺すのはダメだぞ? これからここの人たちとは友好な関係を築いていった方が何かと都合がいいはずだ
≪……わかりました≫
うんうん、いい子だ……、マキナ
「……では、この者も含めた二対二の模擬戦、という事にしましょうか」
「ええ」
「……ハッ…………物を知らん田舎者が……」
完全に見下した目で俺らを見てくる金髪イケメン兵士
……この訓練場は天井がない吹き抜けか…………
マキナ? 昨日大聖堂で召喚したときのサイズ……あれっていつでもなれるのか
≪もちろん。常時可能ですマスター」
そうか……。なら、ちょっとだけ驚かせちゃうか?
≪やったー! やりましょうやりましょう≫
「では、はじめてもいいですかな? 救世主様」
言いながら隊長が剣に手をかける
「じゃあ……、こちらも戦闘準備しますね。────マキナ?」
≪はい。マスター≫
カッ……!
バチッ……バチチッ…………!
俺の体を巨大な白雷が纏う、
「っ……!!!? これは一体…………!」
「な……!!! !」
白雷による光が収まりマキナが昨日召喚された時のサイズで顕現する
豆粒ほどの大きさの隊長たちと巨大化した俺たちが向かい立つ
「さあ! 正々堂々、勝負しましょうか!」
真っ青な顔で二人が口を大きくあけたまま茫然と立ち尽くし、俺たちを見上げていた
訓練場の通路にいる大勢の兵士たちからどよめきが起こる
「なっ……」
「おいおいおい……なんだよ、ありゃあ…………!?」
「……死ぬ! 死んじまうって! あんなの!」
「全身真っ黒で……おとぎ話の…………破滅の王みたいだ……」
「やべぇ……震えが止まんねえ…………!」
「は……はは…………俺……、俺は夢でも見てるの……か……?」
「だ、だが! 隊長なら! 隊長ならきっと!」
「馬鹿!? あんなのに人間が勝てるか! !」
足元にいる豆程の大きさになった隊長と金髪イケメン兵士に話しかける
俺たちを茫然と見上げる金髪イケメン兵士の股から黄色い液体が流れていた
「……あの? もう始まってますよね?」
「……。…………え? あ……あ……あ……はい……」
うん、始まっているみたいだ。マキナ、金髪の兵士をそっと蹴るぞ?
いいか? そっとだぞ? そーっと……殺さないように優しくだ
≪わかりました……。そっと…………ですね……≫
俺たちが金髪兵士をそっと足を出すと……
≪……えい≫
俺とマキナが金髪兵士を蹴ると、凄まじい速度で吹き飛ばされ訓練場の壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちた
≪「あっ……」≫
トラックに人がはねられた時とそっくりだ……
吹き飛ばされ壁に激突した金髪兵士の有様を見て、ざわついていた訓練場が水を打ったように静まり返る
隊長を含むその場の兵士全員が真っ青な顔で言葉を無くしてしまっていた
……マキナ? そっとやった?
≪や、やりましたよっ! 見てたでしょ? というか体の操作したのはマスターじゃないですか……≫
う、うん……、そうだけど…………。見てたけど……。俺、そっとやったつもりなんだけど……な……。
ホントに撫でるくらいの気持ちでやったつもりなのに……
俺としては、コツンと当ててその場に尻もちつかせて終わりみたいな……そういうのをイメージしてたんだけど…………
「……参った。私の負けです。救世主様…………」
よかった! 隊長がリタイアしてくれた! 救世主だという事を認めてくれたみたいだ。
話の分かりそうな人に怪我させずに済んでよかった
「よし、解除頼むマキナ
≪はい、マスター≫
巨大化したマキナが瞬時に少女の姿に戻り、マキナが重力を操って二人でゆっくりと地面に降りる
「っと……。えっと…………、お疲れさまでした。隊長」
「……長年生きてきた中で一番驚きましたぞ…………。救世主様……」
「信じてもらえたみたいで何よりです」
「あの、あの人大丈夫ですかね……?」
俺は金髪兵士の方を見ながら言う
「恐らくは、仮に死んだとしたらあの者の運が悪かったというだけです。
我々兵士は常に命を賭けて職務に就いています。覚悟もなく戦いの場に出てくる者はいませんよ」
「……救世主様、デウス・エクス・マキナ殿…………先ほどまでの非礼深く謝罪いたします……」
「いえ、そんな……。わかってもらえたならそれで…………」
「……救世主様、召喚されてすぐに暴漢を捕らえるとは流石ですな…………!」
言いながら隊長が俺の手を握ってくる
ゴツゴツしていていかにも武人というような手だ
「……あ、いえ…………そんな」
と言われても俺が凄いんじゃないんだけどな……
≪マスター? 私はマスターの神器ですから、マスターのお力と考えてもよろしいかと≫
……それでも、だよ
俺が何か努力をして得た力で成し遂げたのなら、この賞賛を受け入れられるだろうけど、これは一〇0%マキナが凄いって話だからな。
昨日の件にしたって俺は何もしていない。暴漢達を対処したのは全部マキナだし、あの子に治療を施してくれたのもマキナだ
今金髪兵士をぶっ倒したのだってマキナがいたから出来た事だ。それで「俺の力だ」なんて言えないよ、俺はそこまで厚顔無恥でありたくない。
≪ふっ、ふふふ! そっ、そうですか! ‥‥…ふふふ! マスターが…………、私を凄いと……ふふふっ!≫
ああ、凄いさ。マキナは最高だよ
≪マスター! これからもどんどんご命令くださいねっ! 私もっともっとマスターのお役に立って見せますからっ!」
お? おお……よろしくな? マキナ
≪はいっ! ふっ……ふふふ! よーし、やるぞぉー! えいえいおー! えいえいおー!≫
静まり変える訓練場にマキナの元気な掛け声だけが響いていた────