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機械の神と救世主  作者: ローランシア
第三章 亡国の姫と王国の剣
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037 救世主と死者の宴

黒マント仮面に警告を行った翌日、ある冒険者が目撃情報を持って来たという知らせが入り会いに行くことになった


冒険者ギルドに入り受付に話しかける


「あの、こちらに指名手配の黒マント仮面について情報を持っている方がいると聞いてきたのですが」

「はいっ。東条様ですね。お話は伺っております。二階の特別室へどうぞ。もうお部屋でお待ちになられてますよ」

「ありがとうございます」


 二階に上がり部屋の前に立ちノックをする


 コンコン……! 

  

「はい、どうぞ」


「……失礼します」


 ガチャ

ドアを開け中へ入ると大柄な男が俺を迎え入れる

  

「……貴方が救世主様、ですか?」

「はい。救世主の東条 司 と言います。この子は俺の神器のマキナです。よろしくお願いします」

≪よろしくお願いします≫

 「こちらこそ、私は冒険者で生計を立てております。シグルドと申します。さ、おかけください」


マキナ?この人の情報に偽りがないか調べながら聞いてくれ  

≪はい。マスター≫


「それでは早速教えていただけますか?」

「はい。……あの?それほど有力な情報ではないかもしれませんがいいですか?

 ただ見かけただけなので……」

「ええ、もちろん。どんな情報でも構いません」

「わかりました。お話します。一か月ほど前の事です。私が冒険者の仕事でアルザード山脈の赤い龍について偵察の仕事を請け負った時なのですが……」

「ああ、赤い龍と言うのはアルザード山脈に昔から住む巨大な赤い龍の事です」


「はい」

「それで、その赤い龍の動向を監視し、報告する任務がギルドにはあるのですが、一か月ほど前その任務で山に入った時の事です。赤い龍の前で黒マントの女が何かを話しているのを見まして……」

「……っ!?黒マントを見たんですか!?」


 ガタッっと椅子から立ち上がり声を上げてしまう

「は、はい。遠目すぎて何を話していたかまでは聞こえなかったんですが……」

「いえ!それはすごい情報ですよ!」

マキナ!この人の話してる情報の確認取れるか!

≪はい。記憶情報に遠目で赤い龍と黒マントが話している記憶があります。これは禍の者ですね≫ 


 よしっ!よしよしよし!やっとあの方って奴の有力な情報が出てきたか!  


「私がスキル、「地獄耳」も修得していれば話の内容までわかったかもしれないんですが、すみません。私が持つ諜報系統のスキルは「千里眼」だけでして……」

「いえ!有力な情報です!ありがとうございます」

  

「ああ、一つ気になる事があります」

「気になる事?」

「アルザード山脈を根城とする赤い龍は、人々はもちろん魔物からも恐れられる存在で、この世界に存在する四天龍にも数えられるほどの存在です。その四天龍はそれぞれの自分の縄張りを守るために自分のナワバリには魔物はおろか人など寄せ付けないのです」

「……なのに、なぜかその黒マントは赤い龍の近くにいて、話までしていた、と」

「そうです……。赤い龍と人間が話をするなど聞いた事がありません」

「……黒マントは魔物を操る力を持っている可能性があるので、もしかしたらそれでかもしれませんね……」

「なんですって……!?魔物を操る!?そんな無茶苦茶な……!」


今度は男がガタっと机に手をつきながら前のめりになり答える


「そうですよね。その反応は無理もないと思います。しかし、先日ローランに魔物襲撃して来た時も魔物を操って街を襲わせたようなのです」

「そんな……、人と魔物が手を組むなんて……」


シグルドさんが茫然とした顔で力なく椅子に腰を降ろしながら言う

 

「信じたくはないでしょうが、事実です」


 ガターンッ……!


 下の階で大きな物音がする


「いっ!?いやあああああああああっ!?誰かっ!誰か来てええええっ!」


突然下の階から受け付け嬢さんの悲鳴が聞こえてくる

 

「っ!?行くぞ!マキナっ」

≪はいっ!≫

「わっ、私も行きます!」

  

 俺達は部屋から飛び出し、歓談を駆け下り下の冒険者ギルドの酒場のある1階に向かった 


 冒険者ギルドの入り口のところで横たわる男のミイラだった


 ミイラの口がゆっくりと開き話し出し


「────私が受けた傷の恨み思い知れ……!」


バァンッ…………!

    

 その言葉を言い終わった瞬間、ミイラがバラバラに爆発し血と肉片が店中にまき散らされ、周りにいた客たち全員がその血を浴びる

 

「――――ひっ!?」

四散した血肉がかかった人たちが青ざめながら騒然とする


≪……っ!まずいですっ!マスター!あの血や肉に触れた者は死者の呪いにかかります!≫  

死者の呪い!?

≪呪いにかけられた死者に殺されるか、傷を負わされるか、あるいは死者の血や体液を体が付着するとその者もまた死者の呪いにかかるという連鎖式の呪いですね。死者の呪いにかかった者は一定時間後にあの男のように生気を失いミイラとなり、絶命寸前にあのように爆散して呪いを振りまきます≫

   

「なっ!?ミイラ化するのを防ぐ方法はっ!?」

≪残念ながらありません……、呪いは専門外です……、ですが、液体をかからないようにする事は出来ます。とっさにマスターにはバリアを張りました≫


早急に街全体にその防護幕張り巡らせられるか!ソフィアやさやか達にもできるだけ早く頼む!

≪はいっ!最優先でかけておきます。しかし、町全体となると人口が多いために時間がかかります!≫

わかった!すぐやってくれ!

≪はいっ!くーちゃんにすでに行ってもらってます!≫

 

「今の血や肉にかかった人はこの場から出ないでください!二次災害、三次災害に繋がります!」


っ!マキナ!この建物から誰一人出られないようにしてくれ!

≪はいっ!……障壁で囲って隔離しました!≫ 


「いっ!?いやだ……いやだああ!!!俺はこんなところで死にたくないっ!死にたくない……!」

「い、いや……!?呪いで死ぬなんて絶対嫌!」


 未だ混乱が収まらず騒ぎ続ける冒険者たちが冒険者ギルドから出ようとする

  

ガタっと血のかかった男が冒険者ギルドから出ようとするが見えない壁に阻まれる 


「ぶっ!?なっ!?なんだよ!?これ!?見えねえ壁がある!どけよ!俺はここから逃げるんだ!?」


 障壁をバンバンと叩きながら冒険者の男が怒鳴る


≪っ!マスター……最悪です。この人だけじゃないみたいです……!昨日街に入った人達が時間差で次々とミイラになって行ってます!


 やってくれんじゃねえか!あの死神野郎……!


さらに、マキナが青い顔で絶望的な言葉を告げる

 

≪……最悪です。マスター……。この呪い、改良が加えられていて、呪いにかかった人達から空気感染で伝染するようです≫


なっ……!?マジで最悪だな!?さやかたちにバリア急いでくれ!

≪はいっ……!≫ 


ピシッ……!


 その次の瞬間、冒険者ギルド内の人達全ての動きが停まる


「これはっ!」

≪時間停止っ!レナさんが街全体の時間を停めてくれたようですっ!≫


やったぜ!ナイスレナさん!

  

「チャンスだ!レナさんが時間を停めてくれている間に、マキナはこれ以上被害が広がらないように街の人達にバリアを急いでくれ!時を停めてる中でもしアイツが動けたらヤバい!あの死神野郎を見つけ出さないと!」


 ≪はいっ!バリアは今くーちゃんに頑張ってもらってます!私一足先にレナさん達の護衛につきますねっ!分身でソフィアさん達の護衛に当たらせます!≫ 

「頼む!俺は死神野郎を探し出して倒す!」

 

俺達は冒険者ギルドから飛び出し二手に分かれ街の路地を走り出す


クッソッ!

 なんで昨日900キロも遠くにいた奴がこの街に攻撃仕掛けて来れるんだ!?

 馬車とか使っても最低でも10日はかかるはずだろ!?


そんな事をかんがえていると、屋根の上から街並みを見下ろす黒い人影が見える


「っ!?アレか!?」


その場で跳躍し屋根に上り黒い人影に走り寄ると、その姿がはっきりとわかる


 昨日、ガーランド国の近くにいた黒マント仮面野郎……! 


「おや……?この魔法力は昨日の……。もう私を見つけ出したか、さすが救世主と言ったところか」

「……お前、なんで時間停止してる中で動ける……!?」


短剣を出現させ構えながら話す

 

「――これは異な事を言う。我々死者に時間の概念などあるはずがなかろう?無限の時を生きる我ら死者が時間に縛られると思うてか」


「ホント無茶苦茶だな……!」

「無茶苦茶?ククク……貴様が昨日投げた短剣程無茶苦茶ではないよ。余程理にかなっていると思うがな?」

  

「……どうやってこの街に来た?昨日お前は900キロも遠くの村にいたはずだろ」

「私は死神の生まれ変わりでね、自分の体を持たぬのだよ。ゆえに死体であれば乗り移る事が出来るのだ」


 おいおい、元救世主ってだけでも驚きの事実だったのに、不死とか言い出すのまで出てきちゃったよ。どうなってんだよ、人材豊富すぎだろ。

 人材派遣業でも開業しろよお前ら……!

  

「死神の生まれ変わり……?また中二病くせぇのが出てきたな。おい……」

「私は死を司る神、ハーデス……!この街に死を届けに来たぞ……!救世主!来い!魂斬り!」


 ハーデスが神器を出現させ鎌を構える 


あっ?神器出した!ラッキー!

 

 「この鎌で切られた者はな!?未来永劫転生も出来ず、冥府を彷徨い続けるのだ!死ねぇ!?」

ハーデスがそう叫びながら走ってくる


 まるで素人のような動きだ。マキナと比べると欠伸が出るほど遅い!


「あー、そうかい。そりゃすげぇな!」

 

一瞬でハーデスの懐に飛び込み、ハーデスの神器を斬葬で切り裂く

「なっ!?」

  

ザンッ……!


 俺の短剣の攻撃でハーデスの神器の鎌が一瞬で粉々にされ消滅する。

 次の瞬間ハーデスの体が崩壊し始め、崩壊した欠片が宙に舞いながら消えていく


「な、何!?なぜ、なぜだ!?私が、消える!?」


「サイザール短剣術、奥義「斬葬」はな……?何でも斬れるんだ。そう「何でも」だ」

 

 俺の守ろうとするものを傷つける奴は神だって切り裂いてやるぜ……!

 

「……お前、自分で言っただろ。自分は魂だけの存在だって。だったら魂と直結した神器を滅すれば必然的に魂も消えるだろ?」


 これはこいつに限った話じゃない。俺を含めた神器所有者全員に共通する事だ

 神器は魂の半身、つまり魂をむき出しにして戦っているようなものだ、壊されれば自らも多大なダメージを受けるか、当然死ぬ事もあるはずだ

 

 「そんな馬鹿な!?私は選ばれた存在だぞ!?神に選ばれ神器を与えられた者だぞ……!」

「神器を……与えられた!?なんだそりゃ!?おい!お前今の話詳しく聞かせろ!」

「おっ!?おのれぇぇぇぇぇぇ!?救世主ぅぅぅっ!」


断末魔の絶叫を上げながらハーデスが消滅する


 神器を「与えられた」……?「与えられた」ってなんだよ。神器ってのはこの異世界に来たときに使えるようになるものだろ……!?

    

……マキナ?

≪はいっ。もうじき町全体にバリア張り終わりますっ≫

今倒したハーデスって黒マントが気になる事を言っていた……

このハーデスって奴、調べられるか?


≪……?おかしいですね。この男は元救世主ではありません……。この世界のただの平民です……≫

……なるほどな、どおりで戦闘を繰り返してきた奴の動きじゃないとおもったぜ……

 

けど、どういうことだ?異世界に召喚された時に神器を授かって「救世主」になるんじゃないのか?以前大聖堂のシスター達がそう言ってたよな……?

≪そういう事になってますね。しかし、この男はこの異世界で生まれ育った人物です≫

 

 まさか……!自分の意志で神器を与える事が出来る奴がいるって事か……!?そんな、滅茶苦茶すぎるだろ……!


 状況を整理すればするほど、背筋がゾッとする

大量殺戮兵器ともいえる神器を他者に与えられる奴がいるなんて考えたくもない……!

もし、本当に神器を与えられる奴がいるなら一刻も早く倒さないととんでもない事態になりかねない……!   


他にミイラになる可能性のある人はわかるか!?

≪はいっ!割り出しは終わってます!≫


 緊急事態だ……!仕方ない!ミイラ化する人を全員次元の狭間に隔離してくれ!

 俺はソフィア達に異変を知らせに行く!これじゃ暴動が起きかねない!

≪わかりました!すぐ対処します!≫ 


俺はエルトの城へ走り出した 

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