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機械の神と救世主  作者: ローランシア
第二章 始まりとやり直し
32/38

032 さやかと遥

 大歓声を背にレティシアと救世主がいる部屋に戻る


 コンコン……


 寝ているかもしれない事を考え控え目にノックする


「はい……、どうぞ」

「……ただいま。具合はどうだ? レティシア」

 静かに入室し声を抑えて話す


「あっ、司様っ……。今やっと眠った所です。大分心労が重なっていたようですね……」

「……そりゃそうだろうな、可哀想に……。この子連れて帰ってエルトで保護する事になったから」

「ホントですかっ……!?」

「……シーーーっ……。起きちゃうって……」


 俺は口元に人差し指を立て、レティシアに静かにする事を促しながら寝ている少女を確認する


「あっ……? ごめんなさい……」

 レティシアが両手で口を押えて女の子をチラ見する


 マキナ? 次元の扉開いてくれ。大きめの奴な

≪はいっ≫


 ブォン……!

 マキナが次元の扉を開いてくれる


 俺は女の子をお姫様抱っこで抱え上げ、


「レティシア? 先入っていいよ」

「はいっ」


 レティシアが先に入り次元の扉をくぐり俺の部屋に足を踏み入れる


 トッ……!


 柔らかいカーペットの上に足が下りる


 ブォン……!


 マキナが次元の扉を閉じる


「っと、ただいまー」

≪おかえりなさいっ。マスター≫

「お疲れだ、東条……。……世話になった」

「……少しは気が晴れたか」

「──ああ、少し、な。ありがとう、東条」

 アルテミスが目を伏せながら礼を言う


「そうか……。よかったな」

 俺も目を伏せながらその礼に応える


「……ああ」


 そう答えるアルテミスの口元が少し上がっている気がした


「とりあえず、この子をベッドに寝かせよう」


「はいっ

「ありがとう」


 レティシアが掛け布団をまくり寝かせる用意をしてくれた

 ベッドに女の子を寝かせた後、掛け布団を女の子にかける


「ふぅ……、よし。レティシア? 引き続き看病頼めるかな。この子の服、魔物の返り血で汚れちまってるからさ

 傍仕えさんに言ってこの子の替えの服用意してもらって、起きたら着替えさせてやってくれるか」

「はいっ」


「さて、じゃあ、俺も風呂入って着替えるか。マキナ? なんかあったら頼むな」

≪はいっ。マスター≫


 サイクロプスの返り血で汚れた体を洗い、血で汚れた服を着替える


「俺は事情をソフィアと陛下に話してくる。マキナ? ここ頼むな」

≪はいっ≫


 バタン……


 はぁ……と言っても、どう説明するかなぁ。

 さやかもそうだったけど、ここがどういう所なのかすらわかってないだろうしなぁ


 内心ため息をついた後廊下を歩き始める


「……あら? 司様」

「ああ。ソフィア。ちょうどよかった。陛下って今忙しいの?」

「いえ、先ほど昼の職務を終えて、今は夕食までお部屋でゆっくりされてるはずですが……」

「そうか、じゃあ陛下の部屋行ってみるよ」

「……じゃ、お父様のお部屋に行きましょう? 司様」

「ああ」


 ソフィアがそっと俺の腕を取り歩き出す


 ソフィアと一緒に陛下の部屋に行きノックをする


 コンコン


 ……ガチャ


「……はい? ……救世主様と、ソフィア様……」


 陛下の傍仕えさんが出迎えてくれる


「陛下にお話しがあって伺いました」

「おぉ、東条様。どうかなさいましたか。どうぞ、お入りください」

「どうも、お邪魔します。陛下」

「失礼します。お父様」


「それで、救世主様? お話とは」

「実は……」


 ────


 俺はセレスティアでの事情を映像を交えながら説明する


「なんと……恐ろしい事を考えるものだ……。

 戦闘訓練もしていない者と大型の魔物を戦わせ、凌辱させて殺す様を見世物にする等、民を導く王族としてあるまじき行為だ……」


「ええ、正直目と耳を疑いましたよ。ですので、救世主権限で彼らの言を証明させる為、サイクロプスと闘わせました」

「……ハハハ! なるほど。確かにこの言い分だと訓練などせずともサイクロプスと闘って勝てると言ってますな」

「後は国に残った貴族や国民がいい方向に国を作って行ってくれるでしょう」


≪そういう意味も込めて公開の場で処刑したんですか≫

 うん、そうだよ? いわゆる見せしめって奴だ。

 なんせ一国の王を公開の場で処刑できる奴が現れたんだ。一国の王の権力にも武力にも屈せず断罪する存在なんて今までいなかったんだろ

 だからこそああいう横暴な行為が出来たんだろうが、アレを見過ごすのは「救世主」じゃねーよ

 これで馬鹿な事を考える奴は少なくなるだろ

≪そうですね。むしろ今まで咎められなかった事の方が不思議ですよ≫

 ……多分、他の救世主たちは見て見ぬふりしてきたんだろうな、今まで

 アルテミスみたいに謁見する時に跪いてただろうし、

 一国の王だって言われたら救世主も元々一般人だろうし「自分より上の立場」だって意識したんだろうな

≪加えてこれまで召喚された救世主は大分問題があったようですしねー……。

想ってはいたとしても強く咎める事が出来なかったんでしょう。 ……セレスティアはこれからどうなるでしょうね≫

 あの様子だと今夜にでもアイツらと一緒になって悪ふざけしてた貴族の家に押しかけてお家ごと潰すんじゃねーか?

≪王政から民主主義へ移行も可能性のある空前のクーデターになるでしょうねー……≫

 だなぁ。なんたってあの祭りには王国騎士達も参加してたんだからな。大きな祭りになりそうだ


「で……セレスティア王と側近はどうなったんです?」

「セレスティア王と側近の者はサイクロプス討伐の実演中に、予期せぬ事故が起こりまして死亡しました」


「……それはいたましい事故が起こってしまいましたなぁ」

 陛下が手で大仰なポーズで落胆を表しながら芝居かかった言い方をする


「……でしょう? 私も心を痛めております……」

 それに合わせ俺も芝居かかった言い方し、胸に手を当てる


「まあ、司様。お可哀想に……」

 ソフィアもまるで歌うように言い芝居を打つ


≪ソフィアさんもわかってますねー。さすが王族です。まるでミュージカルのようです≫

 ま、世の中綺麗事だけじゃやっていけねーってのはどこの業界も同じって事だな


「ふっ……ハハハハハ! やはり東条様はわかってらっしゃる! 見事合わせてきましたな! ハハハハハ!」

「ハハハ……まあ、ノリは察しましたよ……」

「ふふふっ! 私、司様は王族に向いてると思いますわ」

「ハハ……。そうかな……?」

「はいっ!」

「ええっ。東条様ならソフィアと一緒にこの国を盛り立ててくださると確信しましたぞ! ハハハハハ!」

「ハハハ……陛下に太鼓判をいただけるとは自信がつきますよ」

「ほっほっほ!」

「うふふっ。素敵ですわ、司様……」


「ああ……。それと、この一件はあくまで私個人が「救世主」として下した判断です。

 ですから「エルト国」は無関係ですのでご心配なく」


「……ご配慮痛み入ります。東条様」

「当然の事ですよ。この国に衣食住のお世話になってる上に迷惑までかけられません。お気になさらず、陛下」

「……ああ、それと陛下? 今回の事について他国がエルトに対し、誤解をする可能性あります。

 私名義で他国へ書状を作って他国へ説明したほうがいいと思いまして、どなたかに代筆をお願いしたいのですが……」


「承知しました。すぐに書状を書かせましょう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「……おい? 聞いておったな? セレスティアの一件について書状を作って各国に送ってくれ」

「ハッ……! かしこまりました。すぐに手配いたします」

「よろしくお願いします」

「ハッ! お任せください」


「……それで、ですね。保護した救世主を今私の部屋でレティシアに看病をしてもらってるんですが……」

「なるほど。四人目の救世主様のご協力をいただけるわけですな! 歓迎いたしますぞ!」

「いえ、それが……セレスティアのやり方が性急過ぎたせいで、何もわからない内に魔物と戦わせられた状態でしてね?

 この世界がどういう状況かすらもわかってない状態なんです。なので戦う気があるのかすらまだ確認できてないんですが……」

「ええ、ええ! 構いませんとも。意志の確認は大切な事です。

 命を賭けて戦うかどうか等一朝一夕で決められるものではありますまい。まして、ご自分の世界でもないのですから尚更悩まれると思います。

 救世主様が落ち着いて考えられるまで何日でもお部屋をご用意しますよ。……おい? 新しい救世主様のお部屋をご用意しろ」

「はい。かしこまりました」

「ご協力感謝します。陛下」


 斜め四五度で礼を言う


「ハハハ! 司様は相変わらず謙虚でいらっしゃる!」

「……ああ。それと陛下? その今回の一件で、セレスティア王から有力な情報が得られました。

 近々皆さんに正式に発表させていただきますね」

「おぉ! 何か進展がありましたか!」

「ええ。まだ情報を得たばかりですので、詳しく調べてからになりますが……大分大きな情報です」

「なるほど。ええ、調査のほうはお任せいたします」

「ありがとうございます。助かります」


 その後部屋に戻ると、少女が目を覚ました為詳しい状況を説明する事になった


 俺の部屋の来客スペースの椅子に俺が座り、その対面に少女が座る

 レティシアは看病で疲れたらしく部屋に戻った


「……もう体調は大丈夫なのか」

「はい……あっ……あの……! お化けから守ってくださってありがとうございました!」

「ああ。……自己紹介しとくよ。俺は東条 司」

「……知ってます。私は光ヶ丘高校一年 宮川 遥 です……」

「えっ、俺の事知ってるの? 君……」

「……まさか異世界で先輩に会えるとは思いませんでした」

「んでさ、この世界が異世界って事は……理解出来てるんだな?」

「は、はい。小説みたいな状況ですよね」

「そうだな……まるでファンタジー小説みたいだろ。

 ああ、ちなみにここは君が召喚された「セレスティア」って国じゃなく「エルト」って国だよ」

「エルト……」

「そう、さっき闘技場にいたろ? あそこがセレスティアだ」

「は、はい。私はなぜ別の国にいるんでしょう」

「セレスティアは危険な国だからさ、俺が君を保護してここに連れてきた」


 まぁ、危険さで言えば、王城以外はエルトも大差はないだろうけどな……


「危険、ですか」

「ああ。でさ、さっき……昼間に魔物に襲われる前に「神器」ってのを出しただろう?」

「はい……。私の神器は「天羽々斬」だったみたいです」

「そうだな。その神器って奴を呼び出せるのが俺たち「救世主」なんだ」

「救世主……それって先輩の事ですよね?」

「俺も確かに「救世主」だけど、君もこの世界に呼ばれた「救世主」なんだよ」

「え……私も……?」

「……君の看病をしてくれていたレティシアも「救世主」だ」

「救世主は何人もいるんですか?」

「ああ、いるな。俺やレティシアの他に俺の妹のさやかってのが……」

「っ……! さやかちゃんもこの世界に来てるんですかっ!?」

「……え? 君さやかの事知ってるの……?」

「あの……覚えてませんか? 私、遥です……」

「えっ……」


 さやかとの会話を思い出す


「小学校の時にね? 遥ちゃんっていたでしょ? 私の友達の……」

「……ああ。あの茶髪ロングの可愛い感じの子な? うん、覚えてる覚えてる」


「……あの茶髪ロングの子!?さやかの友達の……あの遥ちゃん!?」

「は、はい! その遥です」

「そっかぁ……あの子かぁ。すごい雰囲気変わってたから驚いた……」

「そ、そうですか……?」

「うん。全然わからなかった……そっかぁ、あの子かぁ」

「お久しぶりです。東条先輩……」

 可愛らしい笑顔で遥ちゃんがいう


 てか、こんな偶然あるんだなぁ。うちの町内はどうなってんだ……

 俺、アルテミス、さやか……そして遥ちゃん……

≪元の世界で神隠しだと、ニュースになってますね……≫

 だろうなぁ。しかも俺の学校近辺で起こる事ばかりだものな。そりゃ話題にもなるわな

≪マスターのお家の場合は少し違いますが≫

 ……どうなってるの? 今のうちの家

≪誘拐犯に攫われたという事になってますね。マスターとさやかさん……。お父さんが毎日泣くお母さんを慰めてますよ……≫

 マジで……? 俺とさやか誘拐された事になってんのか……。

 父さんが警察の人間だからなぁ、それで誘拐の線疑ったかな……


 コンコン!


「おにーちゃーん? いるー?」

「いるぞー。さやかー? 入って来いよ」

「おじゃましまーす……って、その子……誰?」

「お前の友達だ」

「えっ……!?」


 タタタ……


 さやかが部屋の中を小走りで近づいてくる


「……誰?」

「……さやかちゃん。久しぶり……」

「遥ちゃんだって。ほら? さやかが小学校の時の……」

「っ……!?」


 俺の言葉を聞いたさやかが、俺の腕をガッと掴み遥ちゃんをジロっと睨む


「……なんで、アンタがここにいるの……!?」

「お、おい……? さやか? 久しぶりに会ったのにそれはないだろう?」

「……おにーちゃんは黙ってて。これは私とこの子の問題。で? なんでここにいるの?」

「あの、私も救世主として召喚されてこの世界に来たの……」

「……! また……またおにーちゃんの周りに……! いい加減にして! なんでおにーちゃんに付きまとうの!?」

「……ごめんな? 遥ちゃん。さやか、いい加減にしろ……!」

「おにーちゃん! おにーちゃんは黙ってて!おにーちゃんはこいつの事知らないからそんな事が言えるんだよ!」

「お、おい……。ホンットごめんな……?遥ちゃん……」

「あ……いいんです。さやかちゃんきっと何か誤解してるんです……」

「おにーちゃん!この女に近寄っちゃダメ!」


さやかが遥ちゃんを睨みながらグイと俺の腕を引っ張り遥ちゃんから遠ざけようとする


「うぅ……、先輩……さやかちゃんが怖いです……」


 遥ちゃんが俺の横に近づいてきて腕を取り体を寄せてもたれかかって来ようとしたので、

 俺が体をスッと引き避けると遥ちゃんがガクっとコケかける


「えっ……? せ、先輩……?」

「……悪い、遥ちゃん。俺さ、婚約者いるんだ。そういうの勘弁」

「……!?先輩……婚約って……! 彼女できたんです……か……!?いつのまに……」

「ああ、この世界でね。出来たんだ」

「……なんて人ですか?」

「ソフィアとレティシアとさやかだけど」

「三人も!?えっ! それってどういう事ですか……」

「この国は一夫多妻制でね、一人の男が複数の嫁さんもらってもいいんだ」

「一夫多妻制っ……? しっ、しかも今……最後にさやかちゃんって言いましたよね? 先輩さやかちゃんと付き合ってるんですか!?」

「うん。まあ、義理の妹だからね、さやかは。俺らって結婚しても問題はないんだ」

「そんな……!?」


 まぁ、驚くのは仕方ないかもな。一夫多妻制なんて日本じゃあり得ない事だし


「その三人の中で……先輩が一番好きなのは誰なんですか」

「ソフィアだよ」

「……ソフィアさん……。私……その人に会ってみたいで……す……」

「……こいつも王様やソフィアさんに紹介しにいくんでしょ? おにーちゃん」

「ああ。そのつもりだ」

「ちょうどいいかもね。言っておくけど、いつもみたいに変な事しないほうがいいよ? 今みたいに恥かくだけだから。

 アンタじゃソフィアさんとおにーちゃんの間に入るなんて絶対無理だから。もちろん私も、レティシアさんも絶対に譲らない」

「……っ。どういう事……? それ……」


 遥ちゃんが顔を伏せたまま声を低く言う


 おぉ。怖っ

 遥ちゃんの声色が急に低くなったぞ!?

≪本性がチラっと見えましたねー……本チラですねー≫

 何その少しも見たいと思わないチラリズム!?


「そのままの意味だよ。男の間をフラフラしてるような女が入っていける関係じゃないって事だよ。

 おにーちゃんの周りは私も含めてガチ恋ばっかりなんだから。アンタが今まで悪ふざけで壊してきた絆とはわけが違うんだよ」


「おにーちゃんに黙っててあげようとしたけどさ。そうやってまたおにーちゃんに近寄るなら容赦しないからね?」

「誰のせいで……誰のせいでこうなったと思ってんの!?そうやってあなたがお兄さんと私の邪魔するからでしょ!?」

「知らないよ! そんな事! 自分がやらかした事を人のせいにすんな! そういう所昔っから全然変わってないね!?」

「おにーちゃん!?騙されちゃダメだからね! この女はさっきみたいに男に近づくのが手なの!

 今まで何組のカップルが破滅に追いやられてきたか!」


 ん……? カップルを……破滅に追いやってきた……? ……マキナ? さやかの言ってる事は本当か?

≪どうやら本当のようですねー。人の彼氏を奪って自分がその彼女より魅力があるという事を証明して自尊心を保つタイプですね。

 別れさせて付き合い出してから、だんだん我儘になって行って高いアクセサリーや服をねだっていたようです。

 最近では、おじさんを相手に援助交際まがいの付き合いをしていたようですね。

 いざ肉体関係を迫られると、家族にバラして家庭をめちゃくちゃにして、職場にも通報して退職に追い込んだ挙句

 未成年と言う事で世間に名前が出ない事を利用して警察沙汰にしてでも捨てていたようです。

 ……おっと、どうやら彼女に捨てられて人生をボロボロにされた人の中に自殺者もいます。

 上手く立ち回って肉体関係は誰とも結んでいません。

 一番悲惨なのは消費者金融で三百万程借り入れしてデート代やプレゼント費用などを工面していた人ですかね。

 親兄弟友人知人にまで借金して友人を全て無くし両親からも見放された挙句、彼女に捨てられて絶望して樹海で自殺した人でしょうか≫

 あららー……。清楚な見た目なのに随分とエグイ事やってんなぁ。

 ……いい年したオッサンが女子高生相手に何やってんだか。自制心はないのかよ

≪あれっ? そっち責めます? 彼女を責めるべきでは≫

 もちろん、遥ちゃんのその行動に問題がないとは言わないよ。その問題の半分は間違いなく彼女の責任だと思うぜ?

 でも、これって要は、いい年したオッサンが嫁さんや家族裏切って、15だか16だかの女の子に手玉に取られて人生棒に振ったってことだろ?

 その破滅したオッサン達も十分悪いだろ

≪確かにそう言われるとそうですね≫


 ちょこん

 言いながらマキナが俺の膝の上に乗ってくる


「……そうだったよ。ごめん……。おにーちゃん。マキナさん」

「……あなたって昔からそう……! おにーちゃんおにーちゃんって、気持ち悪い……! なんで? 兄弟なんでしょ!?

 あなただって告白されてるんだから他の男と付き合えばいいじゃない!?」

「私はおにーちゃんが初恋の人なの! おにーちゃん以外はどうでもいいの!」

「私だってそうよ! 初めて好きになったの司先輩だもん! 私がこうなったの誰のせいだと思ってるの……!」

「……それっておかしくない? 私に手紙渡してってつっかえされてさ? それだけで諦めて無茶苦茶な事やり出したとしたらさ?

 それはやっぱりアンタの意志でそうしてたって事でしょうが! 人のせいにすんな!」

「なんですって!?っ!?」


 遥ちゃんが手を振り上げる。

 振り上げられた腕にさやかが反応しビクっと体を揺らし、目を閉じ縮こまる


 パシッ……


 平手打ちをさやかにしようとした瞬間、俺の手が無意識に遥ちゃんの振り上げた腕の手首を掴む


「……暴力はダメだぞ。遥ちゃん……」

「っ……! 先輩……。……っ。は……い……ごめん……なさい」

 遥ちゃんがシュンとなり顔を伏せ腕から力を抜きながら謝る


「……ん。よし。いい子だ」

「……ほら? 昔とおんなじじゃん、口で勝てなくなったら手を上げてくる。昔もおにーちゃんにそうやって怒られたでしょ」

「っ……!」

 遥ちゃんがさやかを恨めしそうに睨む


「……さやかも、それくらいにしとけ。あんまり煽るな」

「……はぁい。……ごめん」

「ん。よし」


 さやかと遥ちゃんが目があいそっぽを向きながら悪態をつく


「「……っ!?フンッ……!」」


「……あぁ、もう……。……マキナ? 頼みがある」

≪なんでしょう? マスター≫

「ちょっと傍仕えさんに言ってお茶入れてもらってくれないか。二人ともヒートアップし過ぎだ。お茶飲ませて落ち着かせたい」

≪わかりました。行ってきます≫

「ありがとう。マキナ」

≪どういたしまして。マスター≫


 マキナがぴょこんと俺の膝から降り部屋から出ていく


「なんにしても、今日はもう遅いからソフィアに紹介するのは明日にしよう。

 もうじき遥ちゃんの部屋の準備が済んで呼びに来てくれるはずだからさ。今日はゆっくり休んだほうがいい」

「は、はい。……あの、先輩? ひとつ聞いてもいいですか?」

「ん。何?」

「……私が襲われたお化け……あれはいったいなんですか?」

「魔物だよ。この世界はさ、ゲームの世界みたいに魔物が徘徊する世界なんだ」

「……!?ま、魔物……? ……冗談じゃ、ないんですね?」

「冗談だって、夢だって思いたい気持ちスゲーわかるよ。でも実際にいるんだこれが」

「……あの、もう一つ質問いいですか?」

「うん。何でも聞いていいよ。わからない事だらけだろ? 今」

「はい……、その、東条先輩は魔物と戦って……殺しましたよね?」

「うん」

「……私も救世主って言ってましたよね……私も魔物と戦わなきゃいけないんですか?」

「……それは、君の自由だ。君が戦いたくなければ戦わなくていいよ。

 ……命賭けで魔物と戦うなんて今まで考えたこともないだろ」


「えっと、東条先輩は……戦えるんですよね?」

「うん」

「……さやかちゃんは?」

「……私は神器がないから戦っちゃダメだって、おにーちゃんに言われてる」

「ふっ……そっかぁ……、なら、私が戦えるようになったら、あなたより上って事になるわね?」


 遥ちゃんがドス黒い笑顔で、さやかを見据える


「なっ……!?バ、バカじゃないのあんたって!?上とか下とかっ……!」

「ねえ? 東条先輩? そういう事になりません?」

「ならないよ?」

「えっ……!?」

「そんな事を言い出したら、治癒専門の救世主……君を看病してくれた子な? レティシアの立場がないさ」


 コンコン


≪失礼します。お待たせしました。お茶をお持ちしましたっ≫


 メイド服姿のマキナがカートを押して入ってくる


 ……マキナのコスプレの多様さが増してる……


「おぉ、今日はメイドさんか。可愛いじゃん、マキナ」

≪えっ!?そっ、そうですかっ? マスターが! 私を可愛いと……! そうですか、可愛いですか。このメイド服!≫

「うん。可愛いよ、それ」


「ふっ、ふふふっ! あっ!?ど、どうぞっ! お茶とお菓子お配りしますねっ? ふふふふふふっ!≫


 マキナがニコニコしながらみんなにお茶を配ってくれる


「ありがとう、マキナ」

「ありがとうございます。マキナさん」

「……ありがとうございます」

「いえっ! どうぞ!」


 マキナがニッコニコしながら俺の膝の上に座り、足をプラプラさせる

 最近気が付いた事だが、マキナは機嫌がいいときは足をプラプラさせる癖がある


 一息いれて仕切りなおした後口を開く


「で……、さっきの話に戻るけどさ? 神器があるからとか、

 戦えるから上とか……そんな浮ついた気持ちで戦ってたら……死ぬよ?」


 遥ちゃんの意識を締めさせるために少し声を低くして言う


「っ……! 死……ぬ?」

「……これはゲームじゃない、現実の魔物達との殺し合いなんだ。

 相手も自分が殺されまいと必死で向かってくる。それこそ死にもの狂いにね……。

 当然、現実だからゲームみたいに死んでも生き返るわけじゃない……。まずはこれは現実だという事を理解したほうがいいな……」

「……っ」


 遥ちゃんが俺の言葉に絶句する。

「死」なんて日頃から悪ふざけレベルで「死ねばいい」とか「死ぬ」とか「死ね」とか気軽に使う人はいるけど、

 今日の遥ちゃんのように魔物に殺されかける経験でもしない限りは……リアルに想像出来る人は少ないだろうな


「は……あっ……」


 遥ちゃんが自分の肩を抱き震え出す。

 おそらく今日の事を思い出し恐怖しているのだろう

 ……やっと自分の言った事の意味が理解できたかな?


「……おにーちゃん? こいつの事、魔物から助けたの?」

「ああ。今日な? 救世主の仕事でセレスティアを監視してたらな? セレスティアで新しく救世主が召喚されたってマキナが報告してきてさ」

「うん」

「その新しく召喚された救世主が遥ちゃんだったんだ。ほら? さやかも「召喚の議」やっただろ?」

「うん。あの何も出ないやつね」

「そう。実はセレスティアってのはさ、伝説があるらしくて、その伝説の救世主がもっていた神器以外はハズレだってみなすんだ」

「ハズレ……?」

「そう、ハズレ。で、ハズレ救世主を使って政敵を始末する口実にしたり、

 今日、遥ちゃんが襲われたように大型の魔物に凌辱させてから殺させる見世物にしてたんだ」

「えっ……!?何それ!?じゃ……じゃあ、私があの日神器をもし出せてたら……!?」

「それはないさ、俺がいたからな。まさか親族の前でそんな事しないだろ」

「そ、そっか! 私はおにーちゃんが迎えに来てくれたから……」

≪今日のあのゴミ共の悪辣さを見るに、マスターがいなければ神器を出せなくてもさやかさんを魔物に襲わせて凌辱して殺していたと思います≫

「……その可能性は大いにあるな。あの様子だと救世主をおもちゃか何かだと思っていたように見えたし……」

「……おにーちゃん、迎えに来てくれてありがとう……」

「お前が無事でよかったよ、あの時はホント焦ったからな……」

「えっ、そ、そうなのっ!?」

「そりゃ焦るだろ。危ない国にさやかがいるってわかったら……」

≪私がマスターにセレスティアにさやかさんがいるって言った時の動揺は凄かったですよ?≫

「ねえ! マキナさんっ! おにーちゃんどんなだったの!?」


 さやかがなにやら凄く嬉しそうにマキナに身を乗り出して聞く


≪どんなって……「マキナ! さやかに何かあったらセレスティアに戦争しかけるぞ!」って言って凄い焦ってなだめるの大変でした≫

「ふっ……ふふふふっ。も、もうおにーちゃん! そんなに心配だったの? 私の事っ! ふふふふふっ」

「当たり前だ、心配したに決まってんだろ。血の気引いたぞ」

≪もう必死でセレスティアの街を大聖堂まで走っていきましたよ≫

「ふふふふっ。そっかー! いやー、まいったな~! そっかぁ~~~……! ふふふふっ」


 さやかが顔を真っ赤にし頬に手を当てながら顔を振る

 遥ちゃんは戦いについて考えていたようだった


 ……そりゃ理解が追いつかねえよなぁ。

 まるでゲームの中みたいな事をリアルでやるかどうか決めろって言われったって困るよな


「戦う……死ぬ……」

「ふぅ……あのさ? 実際の話さ? 私神器ないことが凄い悔しいんだ。だって、神器があれば戦う事が出来るじゃん。

 戦う事が出来ればおにーちゃんが危ない時助けられるじゃん。それが凄い悔しかったんだ……」


 さやかがため息をついた後、呆れたような表情で遥ちゃんに目を向け口を開く


「……だろうね」

「でもさ、おにーちゃんの戦う所……あんたも見たんでしょ?」

「……うん」

「あれ、私も一度見た事あるんだ。……その時のおにーちゃんは遊びみたいな感覚でやってたみたいだけど、

 それ見た時さ、「あー、これは私には無理だな」って思ったんだ……」

「……。うん、わかる」

「おにーちゃんって、私達が知ってる元の世界の……普通の高校生だったじゃん? 別にスポーツマンってわけでもないしさ」

「……うん」

「そのおにーちゃんがさ、あの動きを出来るまでにどれだけ苦労したのか、どれだけ痛い思いしたのか、想像すらできないんだ、私」

「……私も、想像できない。今日見た東条先輩が魔物倒す動き……自分に同じ事ができるとは思えない……」

「だろうね……。おにーちゃん? ちょっとごめん、腕貸して」

「ん? 腕……?」


 さやかが俺の腕を掴み袖をまくり上げると、アルテミスとの戦闘や魔物との戦闘で負った傷痕が露わになる


「……っ!?……これ……」

「……私と同じリアクションだね。これ何かわかる?」

「……これ、もしかして戦った時にできた傷痕……?」

「そう、ここまで傷だらけになりながら、必死に修行して……強くなってみんなの為に戦ってるの……おにーちゃんは……。

 これだけじゃないよ? 全身にこれと似たような傷が無数にあるよ。逆の腕にも、両のふとももにもお腹にもあるよ……」


 さやかがブルブルと震えだんだんと涙声でになっていく


「私ね? おにーちゃんがお風呂上りにうっかり入室して居合わせた事があるんだ。

 おにーちゃんの体見た時、息が止まりそうだったよ。全身傷だらけなんだもん……。

 それで……、泣いちゃった。何もできない自分が情けなくて、悔しくて……、

 しんどい事全部おにーちゃんに任せるしかない……そんな自分がすっごい嫌で……、泣いちゃった」


「……ねえ? これ見ても「私が戦えるようになったら、あなたより上になるわね」とかあんたは言えんの……?」

 一拍開けてさやかが涙を浮かべながら震える声で最後の言葉を紡ぐ


「……ごめんなさい。私の考えが甘かったわ……」

 遥ちゃんが顔を伏せながらさやかに謝罪をする


「……さやか。俺がやりたくてやってる「救世主」だからさ……」

「おにーちゃんは、もっと自分を大事にして。この間だって新しい傷痕増やして修行から帰って来たでしょ」

「う……。バレてたか」

「言っておくけどみんな言わないだけで、気が付いてるからね? 特にソフィアさんなんて私より目ざといんだから」

「……あー……そうなのか……」

「私も、ソフィアさんも、もちろんレティシアさんもだけど、おにーちゃんの新しい傷痕見つけるたびに泣きそうになるんだからね」

「ん……わかった。できるだけ怪我しないように気を付ける……」

「……あんたがさ、私に対抗意識燃やすのわかるよ? 私だってあんたに負けたくないって気持ち、あるもん。

 でもさ? 救世主として戦えるようになったらとかで、どっちが上か競うのってなんか違くない?

 競うんだったらさ、救世主としてじゃなくて「女」として「どっちが魅力的な女」かで競おうよ」


「わかったわ。……どっちが先輩の彼女に相応しいか勝負ね?」


 さやかがニッと口角を上げ


「私絶対アンタには負けない自信ある!」

「それはこっちだって同じことよ」


 うーん。うちの妹は順調に「いい女」に育ってるな

≪さすがマスターの妹さん兼彼女さんですね。私さやかさんなら認めますよ≫

 ……レティシアの件まだ根に持ってるの?

≪やられた本人が根に持ってないと言う事に私は驚きですよ?≫

 いやー、だって、ねえ? 洗脳されてたわけだしさ……、レティシア自身に悪気はなかったんだし……、許してやってよ? ねっ?

≪む~~……、わかりました。マスターがそういうならレティシアさんの過去の業については私も忘れますよ≫

 おっ、さすがマキナちゃん! 心が広い! 優しいマキナちゃん最高ー!

≪まあ、でもやっとアルテミスさんと同じラインになっただけですけどね?≫

 そういえばマキナってアルテミスとは仲いいよな? アルテミスのが傷自体は深いぞ? 数も多いし。

 正気でやってたわけだし、業としてはアルテミスの方が業が深いような気がするけど?

≪アルテミスさんはいいんですよ。マスターにそういう気持ちが一切ないんで≫

 ……それって関係あるの!?

≪ありますよ、当然。マスターに怪我させた癖に気持ちがある場合はマイナス百点スタートです≫

 辛っ!?辛口すぎない? その採点評価!?

≪普通です≫


「……それで、先輩……?」

「うん? 何」

「その、ここは私が召喚された国じゃないんですよね? エルトって国なんですよね」

「そうだよ。俺が君を保護して連れてきたんだ」

「その……今聞いた限りだと、救世主ってこの世界で重要な役割……なんですよね?」

「まぁ、そうだな。うん」

「……私をここに連れて来て大丈夫なんですか? その、セレスティアから追手が来たりとか」

「まぁ、無いとは言い切れないけど、大丈夫だと思うよ?」

「……なぜ、そう言えるんですか? 漫画とかだと絶対私を殺しにくる暗殺者が国から派遣されたりしますよ?」

「俺が王を処刑したからな。そんなやべー奴が護ってるこの国に刺客送り込む奴はいないだろ」

「えっ!?」

「えっ!?おにーちゃん!?あの王様殺したの!?」

「直接は手を下したわけじゃないけどな。処刑したも同然だ」

「直接手を下してはいないって……どういう事?」

「さっき言っただろ? 召喚されて間もない救世主を魔物と戦わせて凌辱して殺してたって」

「う、うん」

「それでな? それを問い詰めると「訓練してなくてもサイクロプスくらい勝てる。今までの救世主が死んだのは戦うのが下手だったからだ」って言うんだ」

「……サイクロプスって、何……?」

「……ああ、さやかは見た事ないか。今日遥ちゃんが襲われた魔物な? 「サイクロプス」って言って8Mくらいある巨人の化け物なんだ」

「8M……?」

「ちなみにビルの一階分が大体3Mと言われてるぞ。だからビルの3階より少し低いくらいだ」


 さやかが視線を上に数回上げた後ピタっと止め天井を眺めイメージに悩んでいた為

 さやかにおおよその目安を提示してやると妙な汗をかき始める


「ビルの……三階……? ……いやいやいや……!?……なにそれ!?

 人間がそんなのと戦えるわけないじゃん!?死んじゃうって絶対!おにーちゃんじゃあるまいし無理だって!」


さやかが「無理!」と言う事を顔を青くしながら両手を振る


「そう思うだろ? 誰が聞いたって無理ってわかるよな、こんなの」

「うん。小学生でもわかるよ、こんなの」

「でな? そいつらの言う事が本当か証明させるために、訓練してなくても勝てる所を見せてもらおうとした」

「えっ……? まさか……」

「……?」

「うん。そうだよ? あの王様と側近をサイクロプスのところまで引きずって連れてって戦わせた」

「王様を……引きずって……え……?」

「あはははははっ! やっぱりそうだった……! おにーちゃんらしーっ……。

 私が小学校2年の頃、運動会の前に「足が遅い」って私をイジメてた男子に

「お前はさやかに言うくらい足早いんだろ? 100M10秒切るくらい速く走って見せろよ」って、

 無理やり日が暮れるまで走り続けさせた事あったっけ」

「ああ、アレな? 結局途中で親が迎えに来て途中で終わったけどな」

「そうそう。迎えに来た親に泣きついて、親がキレて来たよね」

「あぁ。さやかが言われた事を親に言ったら、親にブン殴られてたな、アイツ」

≪マスター……100M走10秒切れってオリンピックの選手じゃないんだから……≫

 いやー。無知って怖いよなぁ。後から10秒切るのがどれだけ大変な事かを知って反省したよ。ハハハ……」

≪怖すぎですよ。まぁ、その子の自業自得ですが≫


「まあ、そういう事だからセレスティアはしばらく追っ手どころじゃないだろうし、もし来たとしても俺が守るから心配ないよ」

「……守る……。……ふっ、ふふ……ふ……。東条先輩は、そういうところ昔と変わってませんね……」


≪……出た、出ましたよ。さやかさん……≫

「おにーちゃんはまーたそうやって女子が勘違いするセリフを……」

 マキナとさやかがジト目で俺を見ながらブツブツ言う


「ああ、それから、ここのお城の部屋を借りてるんだ。

 遥ちゃんにも部屋がもらえるように話着けてあるから心配しなくていいよ」

「部屋……」

「あと、伝えるべき事は……あぁ……そうだ。

 この世界は街も物騒だから、街に出る時は俺かマキナと一緒に行動するようにね。ボディガードとして同行するから」

「はい。わかりました」


 コンコン……!


「はい。どうぞ」


「失礼します」


 傍仕えさんとメイドさん達が扉を開け部屋の外から一礼し、顔を上げる


「東条様? 新しい救世主様のお部屋の準備が整いました……」

「ああ、ありがとうございます。遥ちゃん? 部屋に案内してもらって?」

「は、はい。あ、あの、東条先輩っ、今日はありがとうございましたっ」


 遥ちゃんが頭を下げながらお礼を言う


「ん。気にしなくていいよ。ゆっくり休みな」

「……どうぞ。こちらです、救世主様……。失礼いたします。東条様」

「ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いします」


 遥ちゃんが部屋のドアの前で俺に軽く会釈し退室する


「ふう……、んで? さやかはなんで俺の部屋に? 何か用があったのか」

「え? おやすみのキスしに来ただけだけど? ……しょっと……」

「おやすっ……!?えっ……」


 さやかがそう言いながら、ソファに座っている俺の上に跨り俺の首に両腕を絡ませ上目遣いで見つめて来た後、口づけしてくる



「んっ……。おにーちゃん……」

「んっ……!?……っ。お、おい。さやか……」

「ふふっ、やっとおにーちゃんにファーストキス捧げられたぁ。

 もう、学校で壁ドンされてキス迫られたりした時ちょー困ったんだから……」

「え……、マジで? 学校でそんな事する奴いんっ……」


 さやかが体を擦り付けながらちゅっちゅっと何回も唇を重ねてくる

 さやかの体温が伝わってくる


「いるよぉ。ちょっと委員会とかで話す事多かっただけで勘違いしてホント迷惑……」

「……そりゃ災難だったな」

「ね……? 今日また危ない事したんだよね……? あんまり危ない事しちゃダメだよ……?」


 さやかが俺に頬ずりしながら話始める


「わかってるって……」

「おにーちゃんはわかってるって言いながら無茶するんだもん……」


 コンコン……


「司様? ソフィアです……」


 ソフィア!?このタイミングで来る!?


「……まぁ、隠すのは不公平だし、いいや。ソフィアさんどうぞー?」

「さやかっ!?この状況でお前何言ってんだ!?」


 ガチャッ


「……な、何をしてるんですかっ!?さやかさんっ! 司様の膝の上にまたがるなんて!?」


 俺の膝の上に跨り頬ずりするさやかにソフィアが青ざめながら驚く


「……何をって、ただの「おやすみのキス」の最中ですが……」

「た、ただの!?ただの「おやすみのキス」!?」

「そうです。ただの挨拶です、これは。これが私達の元の世界の挨拶の方法なんです。

 私達の世界の恋人同士は一緒にお風呂入って夜寝る前に、「おやすみのキス」しながらその日一日あった事を話したり明日の予定を話したりしてから、

 一緒に寝て、朝起きたら「おはようのキス」してから一緒に朝ご飯食べるのが普通ですけど?ねー?おにーちゃん……ちゅっ」


 スリスリスリスリ……

 さやかが当然の事のように言いながら頬にキスしてくる


「あああ!?キスまで!?」

「おやすみのキスの時間は別名「ちゅっちゅの時間」ともいいます。恋人達の一日の日課とも言える儀式です」


 さやか!?俺そんな「普通」は初めて聞いたけど!?


「何ですかその夢のような儀式!?今日から私もしますからねっ! 司様っ!」

「さ、さやか……? 俺そんな事初めて聞いたんだけど?」

「……おにーちゃんは遅れてるねー。これくらいは普通だよ」

「ふ、普通……? これが、普通なのか……? 俺が遅れてるのか……?」


 マッ、マキナっ? そ、そうなのかっ!?

≪はい。むしろ甘さ控えめと言っていいでしょう≫

 控え目!?これで控え目なの!?すでに砂を吐く勢いの甘さだと思うよ!


「ふ、普通……。これが司様達の世界の、普通なんですか……」

「そうですよ?こうしてイチャイチャちゅっちゅした後に一緒のベッドで寝るんです。

あっ、この世界にはない風習でしょうから真似しなくていいですよ」

「わっ……!私もします!」

そう言ってソフィアが俺の横に陣取りべったりと体を寄せてくる


むにっむにっ


むにむにとボリュームのある胸が押し付けられてとても気持ちいい


ソフィア!?対抗心燃やしてるの!?


「今日から私も司様と一緒に寝ますからね!」

 ソフィア!?何を決意した顔してんの!?君はお姫様なんだよ!?わかってんの!


 ソフィアがキスしてきた後、俺の腕を抱きながらスリスリと顔を胸にこすらせ甘えてくる

 しばらく二人に甘えられるまま過ごした後……ガッとソフィアに腕を掴まれる


「……さ、司様? ベッドへ行きましょう……? さやかさん? そっちをおねがいします」

「はいっ。ソフィアさんっ!」

「えっ……? あああ!?ソフィアっ! さやかっ!?そんなに引っ張らなくても行くからっ?」


 ソフィアとさやかに両側の腕を逆に捕まれたまま立たされ、後ろ歩きでベッドに連行されそのままベッドの中央に仰向けに倒される

 倒された後すぐにソフィアとさやかがコロンとその両脇を固め腕にしがみついてくる


「ふふふ……私幸せです。……今日からいい夢が見られそうです……」


「おにーちゃん……? 私もちゃんと可愛がってくれなきゃヤダよ……?」


 あああ!?俺今日からソフィアとさやかに添い寝されながら寝るの!?俺寝られるの!?これ!?


≪マスターなら絶対できますっ≫


 マキナちゃん!?そのセリフ絶対使い方間違えてるよ!




 翌日の朝、俺は約束通り遥ちゃんをソフィアと陛下のいる謁見の間へ連れて行った


「今日は時間を取っていただきありがとうございます、陛下。

 彼女が私がセレスティアから救出し保護した救世主、「宮川 遥」です」


「おぉ、あなたが東条様が助けられたという救世主様ですか。

 初めまして私はエルト国、第八九代国王ゾディアック・エルトと申します」


「はっ! はい……! 初めまして! 宮川遥ですっ!」


 遥ちゃんが陛下へ跪こうと腰を下ろすが、

 俺もさやかも跪かない事に気が付き小声で話しかけてくる


「せ、先輩っ……!?おっ、王様ですよね!?なんで跪いてないんですか……!」

「遥ちゃん、俺らは救世主だから跪かなくていいんだよ」

「え……」


 遥ちゃんがハトが豆鉄砲をくらったような顔になる


「あはは……やっぱ、そうだよねー……」


「こんにちは、私はエルト国 第一王女「ソフィア・エルト」と申します。よろしくお願いします。宮川様」


 ソフィアがニッコリと花の咲くような笑顔で微笑む


「……あ……あ、の……は……い……。よろしく、お願いします……」


 俺もそうだったけど、みんな大体この初対面のソフィアの笑顔に完全に心を掴まれるんだよな


 遥ちゃんがぼーっとソフィアにくぎ付けになってしまっていた


「……あの……東条先輩とお付き合いされてるんですよね……? ソフィア様っ……て……」

「ええ。司様と婚約してます」

「……あ……そうですか……。はい……、……お幸せに……」

「うふふっ! ありがとうございますっ」

「……あのさ、ぶっちゃけソフィアさんに会うまでさ? 「私の方が絶対可愛いはず!」とか考えてたでしょ? あんた

 ……どう? 勝負しようとすら思えないでしょ」


 さやかが遥ちゃんの方をちょいちょいとつつき小声で話しかける


「うん……。綺麗過ぎて悔しさも起きない……。完全に敗北ってこういう気分なんだね……。

 ここまで綺麗で性格も優しそうときたら戦う気すらなくなった……逆に清々しい気分……」


 遥ちゃんが虚ろな目で言う


「だから、変な事しないほうがいいよって言ったでしょ」

「うん……、その通りだね……大恥かくね……。っ! でも! 二番の座まで諦めてないから!」

「……諦めたら?」

「絶対嫌……! 諦めたら試合終了でしょ!」

「その試合は没収試合になりましたー」

「なってない! 昨日あれだけかっこいい事いっておいてソレ!?」


「あらあら? また新しい女の子を誑かしてきたんですか?」

≪いえ、この人はマスターの幼馴染ですね、一応≫

「ソフィア!?俺をどこぞの種馬みたいに言わないで!?」

「……司様?」

「俺が一番好きなのはソフィアだよ!」

「ふふっ……! もう、私が聞く前に察するなんて、さすが私の旦那様ですわ。ふふふっ……!」


 ソフィアが手を口に当てながら上品に笑う


「……ああ、でも司様? この国は確かに一夫多妻制は認めておりますが、

 正室を含めて五人までしか妻を娶る事は出来ない事はご存じですよね?」

「ああ、もちろん知ってるよ。ていうか、俺別に無差別に女の子口説いてないからねっ!?流れでこうなったけど!」

「五人までなの!?無制限じゃないんだ!?」

「五人!?そうなんですか!?先輩!」

「うん、そうだよ」


「「……。という事は……」」


 さやかと遥ちゃんの視線がぶつかる


「「……っ!」」


 バッ……!


 二人がお互いに身構え睨み合う


「言っておくけどねー!?私序列二位の座は絶対譲らないからね……!?」

「ハンッ……! その胸で先輩を満足させられるとは思えないわ! 諦めてそこ譲りなさいよ! 貴方じゃ役不足よ!」

「はぁ!?おにーちゃんはおっぱいで恋人を選ぶような人じゃないわよ! これだからアマチュアは!」

「アマチュアって、あなたは先輩のプロだとでも言うの!?」

「当たり前でしょ! おにーちゃんの事に関してだけはプロの自覚あるわ! こっちは八年やってんだ! 東条司ガチ勢舐めんな! アンタとは歴史が違うの!」

「……ふっ……。あなたすぐそうやって八年八年って言ってるけど、相手にされてなかった八年でしょーがっ!」

「それはおにーちゃんが常識人だから、見て見ぬふりしてただけよっ! ホントは手を出したいけど我慢してたってくらいわかるでしょうが!」

「結局現実は弱肉強食……、敗者を決めて争いは収まるのよ!」

「え、歯医者に? 虫歯あるの? 歯磨きしてないの? あんた……汚嬢さんだったの。

 うーわー、引くわー……。おにーちゃん? こいつ歯磨きしてないんだってー、キスしようとしてきたら逃げてね」

「……え? 歯磨き……? 虫歯……? ……あ。あなた馬鹿じゃないのっ! 敗者よ敗者! 頭悪すぎでしょ!」

「馬鹿って言った!?私この間の数学のテスト100点だったんだからね!」

「ふっ、それがどうしたの? 私も100点だったわよ!」

「へぇ? 100点? 何の教科で?」

「古文だけど?」

「古文!?古文のテストで100点取るとかアンタやっぱり変態ね!」

「古文のテストで100点取ったらなんで変態になるのよ!」

「変態に決まってんじゃん!?何あの、この作者の気持ちはどうだったでしょうとかって問題! そんなの知るか!

 妙な電波でも受信してなきゃ答えられるわけないでしょ! これだから文系は電波だって言われるんだ……!」

「理系こそわけわかんないわよ! なんで!?なんですぐに池の周りを走りたがるの!?なんで水貯めてる水槽の栓をわざわざ抜くの? ただの陰湿な嫌がらせじゃない!

 挙句の果てに「パイを求めよ」とか言ってセクハラしてくるし! テストでおっぱい求めるってどういう事よ! これだから理系は宇宙人だって言われるのよ……!」

「ほーら? πをおっぱいと勘違いするとか変態じゃん!! どんだけ頭の中ピンクなの! エロい事しか考えてないんじゃないの!」

「あーら? あなたは胸がないからそういう発想がないだけよ? あなたって可哀想ね? 胸も発想も貧相で……!」

「私Dカップあるっての! 別に小さくないし! ちゃんとあるし!」

「嘘ばっかり! このおっぱい詐欺師!」

「誰がおっぱい詐欺師だってぇ……! アンタの胸だってそこまで大きいとは言えないでしょ! 大きいってのはね、ソフィアさんみたいなおっぱいの事を言うの!」

「それは! 電気屋のテレビと一緒よ!ソフィアさんみたいにおっぱい大きい人が近くにいるから小さく見えるだけ!」


≪……マスターの周りの女性救世主ってどうしてこう一癖ある人ばかりなんでしょうねぇ……。

 発狂してマスターを壁に叩きつけて蹴り入れるシスターとか、笑いながらマスターの体に八本も矢を打ちこむ人とか、

 重度のブラコン拗らせた妹とか、初恋を諦めきれず周囲に破滅をまき散らす性悪ヤンデレ処女ビッチとか……≫

 マキナちゃん!?それは本当の事だけど言っちゃダメ!

≪はぁい≫



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