021 尋問と不審
翌日、俺はレイザーさんと連絡を取り、朝から警備隊本部で尋問の続きをするために警備隊本部へ向かった
警備隊の門の前で檻からアルテミスを出す
すっかり兵士たちの態度は軟化しており、問題なく警備隊の中へ入れてもらえた
コンコン!
「おう、入れー」
「失礼します! 隊長! 救世主様がお見えになられました!」
「失礼します。……救世主様どうぞ!」
兵士がドアを開け中へ入れてくれる
「おはようございます、レイザーさん」
「おう! 来たか来たか! 待ってたぜぇ。この時をよぉ!」
言いながらソファに寝そべっていたレイザーさんが体を起こしこっちに顔を向けながら声をかけてくる
「東条、もうなんちゃら王子の件は収まったのか?」
「はい。諦めて自分の国に帰ったみたいで……」
「そりゃそうか。なんせ最初に使ったカードが切り札だったろうからな。
お前の死体がいつまでも上がらなきゃ失敗したと思うわなぁ」
「はい。なので諦めたんじゃないかと。それで事態は収束したと判断しご連絡しました」
「なるほどな。早めにケリがついてよかったぜ。なんせこの三日お前が来た時何を聞こうかずっと考えてたんだからな」
≪……レイザーさん? ダメですよ? マスターには同性愛の趣味はないですっ…………≫
マキナがそう言いながら俺の腰にギュっとしがみつく
その言葉にレイザーさんは目を一瞬丸くし、豪快に顔を右手で押さえながら笑いだす
「ハハハハハ!!! 嬢ちゃんにはかなわねえなあ! 違うって! 俺はあの黒マント女に何を聞こうか考えてたんだ」
≪そ、それならいいですけど≫
「大丈夫だって。嬢ちゃんみてえな別嬪が付いてんだ、こいつだって間違えねえよ。ハハハハハ!」
「マ、マキナ……。…………すみません。レイザーさん……」
「愛されてるな、色男! ハハハハハ!」
「ハハハ……」
「……んで、この三日でなんかわかったか? この三日間で少しは取り調べしたんだろ?」
「いえ……、全くしてませんね。ランデル王子の様子を伺っていた間は修行してました」
「修行……? なんで、修行なんだよ」
「あの映像で「あの方」を見てしまったから……ですね。あれはヤバいです」
「「あの方」の野郎はお前から見てもやべぇのか」
「はい……。あの「あの方」と呼ばれる人物は相当な強者のはずです。
私の今の強さではあの動きを捉える事は無理だと思い修行してました」
「お前がそこまで言うのかよ……。やっぱ相当だな。俺もあいつはやべぇとは思ったが…………」
「とりあえず、今は力を蓄えるべきだと判断しました。
どちらにしても、昨日陛下と貴族の皆さんにお願いした兵士の増員が実施されて、
この街の警備強化がされない事には、仮に近隣の国や街に破滅の王の軍勢が現れたとしてもこの街を離れられませんしね……」
「あぁ……。なんかオッサンから書類が来てたな。承認のハンコ押して、ルードの奴に丸投げしたが」
「……そういえば、ルードさん…………あの後大丈夫でした?」
「右足骨折と肋骨が三本折れて右腕骨折程度のかすり傷だ。唾つけときゃそのうち治るだろ。
あいつそれを理由に休もうとしやがったからな。ぶん殴って仕事させてらぁ」
「……大丈夫なんですか? それ。いや、自分でやっといてなんですけど…………」
「負けて泣き言言うくらいなら変ないちゃもんつけんなって話だろ? 自業自得だ。
あの時の罰として仕事押し付けてやったぜ」
「ハハハ……まぁ…………」
「なぁ? 嬢ちゃん。嬢ちゃんもそう思うだろ?」
≪はい。当然の報いだと思います≫
「ほら? 嬢ちゃんだってこう言ってるぞ」
「ハハハ……」
「さって! 今日の尋問を初めようぜ。今、茶を持って来させるからよ。先に尋問室に行っててくれ」
「わかりました」
マキナと一緒に尋問室に向かい、アルテミスを椅子に座らせる
「……っ」
少し待っているとレイザーさんがお茶を持った兵士と入ってくる
兵士さんが四人の前にお茶を置き退室する
「さって、始めるか。アルテミスちゃんよう?」
「フン……」
フイっと顔を逸らすアルテミス
「……相変わらず顔背けてばっかだな。おい」
「こいつ、レイザーさんの事好きなんじゃないですかね?」
「なっ……!!?」
「なるほど。あれか、恥ずかしくて顔見れないって奴か! いやぁ、照れるぜ……」
「おっ……お前!!? 頭おかしいのか!? なんで私がこんな奴を…………!! ふざけるな……!」
「おぉ~。やっとまともなリアクションが返って来た」
「感動のシーンだな、おい」
「そうやってまともな反応してくれれば、こっちも楽なんだよ。アルテミス」
「っ~~~~~……!!」
アルテミスが顔を真っ赤にしながら俺を睨む
「おっとぉ? 今度は赤面しながら俺をガン見か。俺に目移りしちゃった? 参ったなぁ、俺彼女いるんだけどなぁ」
「おいおい……。速攻で俺フラれたのか? アルテミスちゃんちょっとビッチすぎじゃねえ?」
「こっ! 殺すっ! 貴様らっ絶対殺すっ!」
アルテミスがガタガタと椅子を揺らしながら暴れる
「ハハハ! その調子だ、アルテミス。おちょくられるのが嫌なら、知ってる事全部話してスッキリさっぱりしようぜ?」
「貴様らに話す事などないと言っている!」
「……」
はぁ……、穏便に平和的に聞き出そうと思ったけど、仕方ないか
「アルテミス……お前…………、何か勘違いしてないか……?」
「……勘違い、だと…………?」
俺はアルテミスの目を見据え、静かに語りかけるように語り出す
「お前の命は俺らが握ってるって事、忘れてねえか……?」
「っ……!」
「お前から有益な情報が得られないのなら、お前を生かしておく必要性が消えるんだけど……?」
「まぁ、そうだなぁ……。最終的にはそうなってくるよな…………。このまま何もしゃべらないのなら、この取り調べ自体意味がない時間だ」
「平和な世界なら、何時間でも何か月でも時間かけて取り調べしても構わない。
でも、今この瞬間にもお前らが誰かを傷つけてる可能性を考えると早く手を打たないといけないんだ」
アルテミスの頭の中は調べられるようになったけど、それと自白は別の事だ
マキナにアルテミスの脳を調べてもらって何をやっていたかは知っているが、それと自白したという事は別だ
アルテミスの口で「こういう事をしていた」と言う自白させる事が重要だ
「貴様らはいつもそうだ! 自分だけが正しいと思っている! お前らが人を傷つけているとは考えないのか!?」
「お前を殺そうとした村人たちの事か?」
「そうだ! 私だけが不幸な目に遭っているわけじゃない! 私達は救世主になりたくてこの世界に召喚されたわけでもない!
勝手に召喚して「救世主」と崇めて祀り上げて! 都合が悪くなると逆賊のように扱い殺そうとする! そんな世界の方が間違っている!
瀕死だった私に治癒をしてくれた救世主はな……!?
治癒の力しか持たず召喚されたために、虐げられ穢されボロボロになるまで性的暴行を受けたと聞いた!」
……レティシアの事か
「お前が殺したアーレスだってそうだ!
何年も救世主として国と民を守ってきた救世主が、なぜ貶められ逆賊の汚名をかぶせられなくてはいけない!?」
「……それさ? そんなに「救世主」やるのが嫌ならさ、お前らを救世主だっつって周りが言って祀り上げようとした時、お前が拒否したらよかったんじゃねえか?」
「な……何? きょ…………、拒否だと……?」
「そうだよ。「救世主なんて嫌だ、やりたくない」って言えばよかったじゃないか。少なくとも俺はそうしたぞ。
紆余曲折あって救世主やる事にしたが、それは俺が自分で決めた事だ。お前の言うように「周りが自分を祀り上げたからやるしかなかった」は通らねえよ」
≪うちのマスターは召喚された初日、「救世主様! 世界をお救いください」とシスター達に懇願された時こう言いましたよ?
「……世界? 知らねえなぁ。勝手に滅んだらいいんじゃねえか? 俺関係ねーし!」と…………≫
「っく……! ハハハハハハハ!!! おっ…………おまっ……おま……え……っ!? ハハハハハハハ!
ダメだ! ツボった……! ハハハハっ!! おっ…………お前っそんな事言ったのかよっ!? ハハハハハハハッ……!」
「ええ。勝手に呼んでおいて無関係な私に「世界を救ってください」とか言われても知らんがなって話でしょ?
しかも私を呼んだシスター達は男だってだけで罵倒した挙句、神器について知らなかっただけで馬鹿にしてくるんですよ?
そんな態度されて誰が「俺が世界を救ってやるぜ!」なんて思いますか。やなこったですよ」
「ハハハッ! くっくっく……! …………そっ……そり……ゃ……っふくくくっ。
……いや、あの…………お前の、気持ちはわかるぜ……? でも……っ……でもよ……! ……ふっ……ハハハハハ!」
≪レイザーさん? マスターの名言はさらにありますよ?≫
「ふっ、くくくくっ……何? まだ何かあんのかよ…………嬢ちゃん……!」
≪はい。シスター達にさっきの言葉行った後文句言われた時に
「なんで俺が今日あったばかりの連中の為に命賭けて戦わなきゃなんねーの?」と────≫
「お前……本当に救世主なのか」
「ハハハハハっ!! 腹がいてぇ!! こんな救世主見たことねえ!
っふ……なんで戦わなきゃなんねーのって…………! 救世主の存在意義全否定じゃねえか! ハハハハハハハ!
はぁっ……はぁっ…………はーーーっ……はぁっはぁ……っ……! お前は俺を笑い殺す気か!」
「ハハハ……」
レイザーさんが少し落ち着くまで待つ
「うーん……そもそもさ? お前が王都に用事に出かけてた間に襲撃受けた時だってそうだ。なんで王都に出かけたりしたんだよ?」
「そ、それは国王が直々に褒賞を渡したいと呼ばれたんだ……!」
「……なぁ? ちょっと聞いていいか? あそこの村ってさ? お前だけで護ってたんだろ?」
「そうだ……」
「だったら何があっても離れるわけにいかないだろ。万が一「魔物が襲ってくるかもしれない」って思わなかったのかよ。
どうしても国王が話があるって言うのなら「私は村から離れるわけにはいきません。話があるなら陛下が村に来てください」
って国王に言えばよかったんだ。そう言えば使いの人くらいよこすだろ」
「お、お前!? 国王だぞ!?」
「村から離れられないんだからそうするしかないだろ。
それか村から離れている間、村を守るに十分な兵力を村に派遣してもらって不在の間守ってもらうか、そのどっちかくらいしか手が思い浮かばないがどうだ」
≪マスターはこの国の陛下に衣食住のお世話になってるから丁寧な態度ですけど、
仮にアルテミスさんのようにどこかの村に住んでいたとしたらこういう事平気で言いますよ?≫
「現に俺だって現在進行形でそうだからな。仮に遠くの村や街で魔物やお前らが暴れていたとわかったしても、
警備が強化されるまではこの街から下手に離れるわけにいかないからな。
お前を追いかけてた時だってそうだ。あと一キロあの森の広場が遠ければ追跡を諦めてたよ」
次元の扉で移動自体は一瞬でできるけど万が一でも妨害の力でマキナの力が封じられる事があるとわかった以上、下手に街を離れるわけにいかない
俺らが不在の間に街を襲撃されたらアウトだ。だから、よほどの事がない限り街から離れるわけにいかない。
「どーせ「救世主様~」とかちやほやされて、いい気になって魔物退治してたんじゃねーの?」
「そんな事はない! 貴様と一緒にするな!」
「三人の例外を除いて俺はこの国で救世主だからって大事にされた事ねえよ。むしろ目の仇にされてるぞ」
≪マスターの信じてもらえなさっぷりはすごいですよ?
まず召喚された初日に男だからってだけで召喚したシスター達から、
罵詈雑言を浴びせられ「救世主なら証拠に神器見せろ」と私を出すまで信じてもらえず。
次に暴漢を捕まえて警備隊に連れて行けばイグニスさんに救世主だという事自体を疑われ、
救世主だという事を証明しようと訓練場行けばルードさんにも疑惑の目を向けられた上に暴言言われまくりましたし。
魔物襲撃時、騎士団に緊急事態だと通報しに行ったら報告した人に「その話本当か? そもそもお前誰?」と存在自体を疑われ肝心の魔物襲撃の通報をスルーされる始末でした。
挙句の果てに警備隊に報告した時に至っては、イグニスさんたちと模擬戦した事でマスターの事を知っていたにも関わらず通報を信じてもらえませんでした。
……ちなみにこれらは、たった72時間以内に起こった出来事ですよ?≫
「お前……苦労してるな…………」
「お前に哀れみの目で見られたかねーよ!?」
「……東条。今日、飯奢ってやるよ…………」
「レイザーさん!? 優しく肩に手を置かないでください! それ結構傷つきますよ!?」
「お前……なんでそんな目にあってまで救世主やってるんだ…………?」
「あのさ!? 俺を不思議な生き物を見るような目で見るのやめてくんない!? 好きな女と約束したからだよ! 悪いか!」
「ったく……ふう…………、なんにせよ。その村が滅んだのは半分は魔物のせいだけど、半分はお前のせいだと思うぜ」
……まぁ、あの村人達が悪くないのかって言うとそれも違うとは思うがな
「っ……!」
アルテミスが悔しそうに唇を噛み締める
「……ん? あれ…………? なぁ? お前がその村を守ってるって事は、その国王は知ってたんだよな?」
「……ああ、知っていたはずだ」
「お前が呼び出された国って、どこだよ? エルトじゃないよな? まさか」
「セレスティアだ」
「……レイザーさん? 世界地図ってありますか」
「ああ、あるぞ。今取ってこさせる」
「おおい!? すぐに世界地図持ってこい!」
「はっ! はい!? ただいま!」
数十秒後、バタバタと兵士が入室してくる
「失礼します! 隊長!」
「おう」
「お待たせしました! どうぞ! 世界地図です!」
兵士が丸めた紙をレイザーさんに両手で渡す
「おう、あんがとよ。もういいぞ」
「はいっ!」
兵士が尋問室から出て行く
レイザーさんが丸めた紙を兵士から受け取り机に広げる
「これでいいか? 東条」
「はい。ありがとうございます」
「で……、セレスティアってのは…………」
「ここだ」
レイザーさんが指さす
「アルテミス? お前が護ってた村はどこらへんにあるんだ」
「アルザード山脈の麓の村だ……」
「何……? もしかして、そりゃフィーネって村か?」
「そうだ。……知っているのか?」
「……俺の故郷だった村の隣の村だ」
「そのフィーネって村どこらへんかわかりますか? レイザーさん」
「俺の村がこのあたりだったから……。この辺だ」
レイザーさんが地図の一部分をトンと指で叩く
アルテミスが頷く
「……国王直々に…………、こんなに遠くの村からわざわざ呼んだ…………? ……なーんかその話出来過ぎてて気に入らねえな」
「……? なんだと…………? 何が気に入らないんだ?」
「国王がお前が一人で村を守ってるって知っていながら、わざわざ遠い国に呼び寄せたってのが気にいらねえんだよ。
国や街が魔物や破滅の王に攻められて緊急事態だから救援に行ったとかじゃないんだろ? それ」
「ああ。今までの活躍の報酬と言う事で領地と爵位を与えられた」
「そして、お前が村からいなくなった途端に村に魔物が襲ってきた……。そうだよな?」
「ああ……そうだ」
アルテミスが頷きながら答える
「先日この街が魔物に襲撃を受けた時もそうだった。国の防衛の責任者がいない時にちょうど魔物が襲ってきたんだよ」
「……っ! …………同じだ……」
「……もう一つ質問だ。お前のその村ってのはさ? 頻繁に魔物に襲われてたのか」
「いや、せいぜい村の遠方の洞窟に住み着いた魔物が巣の近くに来た人を攫って殺したり慰み者にしたりで、
魔物が村に攻めて来るなんてことは一度もなかった」
「で、お前の役割はその攫われた人を助けに行ったり、村の近くに迷い込んできたゴブリンやオークを討伐したり?」
「そうだ」
「そうだよな。村に魔物が襲ってくるって状況ならお前だって、王都に呼ばれたからって行かないはずだよな」
「ああ。私だって魔物が来るかもしれない状況で遠くへ行くほど愚かではない」
それでも万が一の時の備えを怠ったのはお前の責任だけどな?
まぁ、この言葉は飲み込んでおこう。せっかくアルテミスが情報を出し始めたんだ、ヘソを曲げられたら面倒だ
「だよなぁ。……レイザーさん? レイザーさんの村はどうでしたか? 魔物というのは村に襲ってくるものだったんですか」
「いや、アイツらはああ見えて頭がいいからな、人が多い所を襲ったりはまずしねえよ。
あいつらは自分達が絶対に勝てると踏んだ相手しか襲わねえ。
行商人や旅人、冒険者なんかが街の外で少数でいる時に、街から離れた人気のない場所で大勢で襲うってのが奴らの常套手段だ」
≪野生の生き物らしい行動理念ですね≫
「ああ。俺が魔物襲撃時に迎え討った時もそうだった。第一陣を殺し切ったあとは魔物がビビって道を開けていたからな。
襲わず煽るだけで距離を取りながら何かを待っていたようだったが、アレは恐らくドラゴンが来るのを待っていたんだろうな」
≪弱者だけを狙い、強者には決して手を出さない……生物のありふれた行動ですね≫
「それがあいつらなりの生きる術なんだろうな」
……だから監視塔が壊されても修理を後回しにしてたのか
何故監視塔が壊されていたのか合点が行き、その事に頭を抱える
≪大きな謎が解けましたねー……≫
呆れる理由だったな……万が一襲ってきたらとか考えないのか、この国の連中は…………
≪マスターが頭抱えるのもわかりますよ……ありえないですからね。
修理を後回しにする理由がそれって考えつきもしませんもん……≫
俺別に戦闘とか戦争の事をよく知ってるわけじゃないけどさぁ……それでも監視塔が大事な事くらい想像つくぜ…………
≪普通はそうですよ。ええ……≫
「で……何が気に入らないってんだ? 東条」
「アルテミスに起こった状況があまりにも出来過ぎてて気に入らないんです。魔物があの村を全滅させなかったってのが一番気に入らない点ですね」
あの洞窟に人質救出した時の惨い有様を見る限り何か考えがあってやっているとは考えにくい
アレは、本能のまま命をおもちゃにしていた。アレが途中で自然に止まるとは思えない。
「……そういや、そうだ…………。魔物は本能で生きてるから、途中でやめるって事を知らねえ。なんで。皆殺しにしなかったんだ……?」
「ですよね。まるで途中で誰かに「やめろ」と言われたみたいに中途半端に村人を生き残らせていなくなってる……」
「ああ。魔物にとって、人を殺す行為は言ってみれば飯の為の狩りだ。ゴブリンやオーク、オーガにとって女は性欲を満たすための道具で男はただのおもちゃだ。
あいつらは本能で生きてる、だから加減を知らない。やる時は徹底的にやるはずだ。仮に生き残らせるとしても巣に連れ去って玩具にするはずだ」
「ええ、それは私も見た事があるんで知ってます。
誰かが魔物を倒しに来て逃げたってわけでもないだろうし、急にやめたように見えるんですよ……あの村人たちの数をみると。
おまけに大好物の裸の女まで連れ去りもせず放置したまま姿を消してる……」
となると、だ。点と点が繋がって線が出来るぞ……
「……破滅の王とセレスティアが裏で実は繋がってて、国王がアルテミスを城に呼んでいる間に、
魔物を操る神器を持った黒マントが魔物に村を襲撃させて、あえて村を全滅させずにある程度殺した時点で引上げさせる。
村人を扇動してアルテミスにその憎しみを向けさせアルテミスを暴行して処刑するように仕向ける。
そして、処刑される寸前に颯爽と現れアルテミスを救う破滅の王……アルテミスからすればまさしく「救世主」に見えるはずだ…………」
「その後アジトに連れて帰られて優しく治療されながら「私達の仲間にならない?」と勧誘させる……。
うん、これ……アルテミスがコロっといってもおかしくないな…………」
「……アルテミスを最初に殴って周囲を扇動した村人達が王か破滅の王に雇われてたら…………、
あの映像の状況を創り出すのは難しくないな……。あの時殴りつけた村人が「やっちまえ」とか煽ってたし、一応の筋は通るなぁ…………」
俺の仮定の独り言にアルテミスが顔面蒼白になり茫然と俺を見つめる
「おいおい……。何やら陰謀めいてきたじゃねえか…………。しかし、よくそこまで推理できるな。東条……」
「ハハハ……。推理なんて大層な物じゃないですよ。私、読書が趣味だったんで…………妄想したり仮定したりが好きなんですよ。
それにこれはただの妄想ですよ。証拠も何もない、ね……」
「ああ、そりゃわかってる。あとはそれをするだけの利点なり理由が解ればなぁ」
そうなんだよなぁ。これを通すならそれなりの理由がないとダメなんだよなぁ。
この仮定が正しいとしたら、メリットが見えてこないな……。
助けてもらおうって立場の人間が、救世主を貶めて殺すメリットって……なんだ?
≪……マスター。あの、お見せしたいものが≫
うん。何?
≪ランデル王子の傍仕えと、アルテミスを村に派遣したという王の側近の者は同一人物です≫
俺の目にランデル王子の傍仕えとセレスティアの王の側近の姿が映し出される
俺はその画像から目を離す事ができなかった─────




