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機械の神と救世主  作者: ローランシア
第二章 始まりとやり直し
13/38

013 救世主と賑やかな夜

 レイザーさんとの手合わせの後、さらに力をつける必要があると感じた俺はさらに厳しい修行の日々を送っていた

 修行から部屋に帰ってきたら、すぐ風呂に入り眠りにつくだけの日々を過ごしていた


 マキナの出してくれる修行場で、400倍の重力をかけ崖から突き落とされ谷底から這い上がっていた


「はぁっ……! はぁっ…………くっ……」


 体力、握力、腕力、脚力……

 様々な基礎を鍛え直すために基礎体力向上の訓練をしていた


≪マスター! もうちょっとでーす! がんばってー!≫


 上にいるマキナが応援してくれる


「それ10分前も聞いた! もうちょっとなのは、確かだけど、なっ!」


 突き出た岩にしっかりと手をかける

 少しでも掴む力が緩ければ下に落ちてしまい、

 最初からやり直しになるため慎重に手をかけるところを選ばなくてはいけない


 この修行で気が楽な点があるとするなら

 一つ一つ確実に上がっていけばいいという点だろうか


 マキナが出してくれる魔物の大群相手をする実戦訓練では、時間制限がつけられるようになっていた

 指定の時間内に出現する魔物を全て倒すのが課題だ。できなければできるまでやらなければいけない


「魔物一万匹を三時間以内で倒す」という難題を出された時は茫然としたものだ

 条件をクリアするまでに30回以上をやり直し……何とかクリアすることができた


 さらにマキナの持つ過去の達人たちのデータを元にしたクローン達との実戦訓練も追加されていた


「よ……っと」


 崖を上がり切り座り込む


「ふぅ……上がり切ったか…………」


≪お疲れ様ですっ! マスター!≫

「ああ、……今何分かかった?」


≪35分23秒です≫

「げっ!? マジで……? 昨日より遅いじゃん。昨日20分台だったよな」

≪でも、昨日より安定感はありましたよ。昨日みたいに落ちそうになりませんでしたし≫

「昨日は手汗で滑って落ちそうになったからな」

「……な? マキナ。修行前と比べて、どうだ? マキナの能力上がったか」

≪はいっ! 修行を始める前に比べると全体の能力が5%上昇しましたっ≫

「何!? 5%も上がったのか!?」

≪はいっ!≫


 マキナが嬉しそうに答える


 よしっ……


「やったぜ……」

 思わず拳を握り締め、歓喜の声を出してしまう


 一度、マキナに聞いた事がある


「俺に戦いの才能はあるのか?」と

 するとマキナは「マスターに戦いの才能はありません」と答えた


 俺が人より劣っているなんてのは最初からわかっている。恐らくあの警備隊の兵士達の誰よりも、俺は戦いの才能がないだろう

 事実一つの技……「斬葬」を一つ習得するまでに40年以上の年月がかかった


 他人が知れば「たった5%だ」と思うかもしれないが、俺にとってはとても大きな成果だ

 だがこの5%は「戦いの才能が無くてもマキナの能力を引き出す事ができる」という証だ


 俺にも、出来る事がある……!

 俺はグっと拳を見ながら握りしめる


≪マスター、能力が5%上がった事で使えるデバイスが増えました≫

「どんな能力が増えたんだ?」

≪「ショックガン」と長距離で偵察可能な偵察専用ロボット「ビジョンアイ」というデバイスが使えるようになりました≫

「……それはどんな能力なんだ?」

≪対象に電気ショックを与えて数秒間だけですが、行動不能にすることができます≫

「行動不能!? すげぇじゃんそれ! 電気ショックっていうと……スタンガンみたいな感じか?」

≪はい。さらに出力が上がれば相手を気絶させる程度のショックを与えられます≫

「おぉ~、便利そうだ!」

≪はい。先日のレティシアさんの時のように相手を無力化したいときに有効だと思われます≫

「じゃあ、それがもっと強くなれば、これから相手を傷つけず無力化する必要がある時に使えるな! ビジョンアイってのはどんな能力なんだ? 偵察ロボってくーちゃんだけじゃないんだな」

「くーちゃんは、様々な兵装や機能を搭載したため行動範囲が限られてますが、ビジョンアイは偵察特化です」


 ブォン……!


 マキナが次元の扉を出現させ黒いボールを出現させる


「偵察特化……つまりくーちゃんみたいに迎撃には使えないけど、長距離の偵察が可能って事?」

≪はい≫

「おお。そりゃいいな。複数出せるのなら監視塔の代わりになるな」

≪はい。この世界の望遠レンズよりも数千倍先まで見通せます≫

「よし、じゃあ早速監視代理頼んでいいか?」

≪わかりました。この世界の情報収集も行っておきますね≫

「ああ。頼む」

「……よし、もっと修行頑張ろう! 頼むぜ! マキナ!」

≪はいっ!≫


 俺は修行の成果に対しモチベーションが上がり、立ち上がる。

 俺たちはさらなる力を手に入れるために修行を再開した


 一日の修行を終え、夜部屋に戻るとレティシアが、俺のベッドで眠っていた


 ……マキナ? ここは俺の部屋だよな?

≪はい。ここは間違いなくマスターの部屋です≫

「……とりあえず…………起こすか。おーい? レティシア――? 寝ぼけて部屋間違えたかー?」


 レティシアをゆすりながら声をかける


「うにゃ……、司様…………えへへ……」

「そうだよ、俺だよ。レティシア? 起きて自分の部屋のベッドで寝ろー?」


 さらにゆすって起こそうとするが、起きる気配がない

≪マスター? 新しいデバイスの電気ショック……レティシアさんに試してみましょうか…………≫

 やめたげて!?

≪一発で起きると思うんですけど……≫

 起きるだろうけど! 絶対ダメ!

≪……そうですか≫

 マキナちゃん!? なんでもすぐ使いたがらないの!

≪はぁい……≫


 レティシアの肩に手をかけたままマキナとそんな事を話していると……


「うにゃ……、あれ…………? 司さん?」

「おぉ、目が覚めたか。おはようレティシア」

「司様……えへへ…………」


 寝ぼけたレティシアが腰に抱きついてくる


≪あああ!? 何してるんですか!?≫


 コンコン!


「司様……? ソフィアです。まだ起きてらっしゃいますか?」


 えっ!? ソフィアさん!? ヤバい! この状況は非常にヤバい!


≪……開いてまーす。どうぞー≫

 マキナちゃん!? この状況わかっててやってるでしょ!


 ガチャ……


「失礼します……。…………何を、なさっているんですか……?」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!


 ……ソフィアさんが! ソフィアさんの肩が震えてる! ヤバい!


「あ……っ! あのですねっ! ソフィアさん!? これは違うんです! 誤解です! 今レティシアは寝ボケてるだけなんです!」

「……へぇ、寝ボケて…………? 寝ボケてわざわざこんな夜更けに司様の部屋に来て……、

 寝ボケて司様のベッドの上に乗って、寝ボケて胸の谷間が見えるくらい服を乱れさせて、

 寝ボケて司様に抱きついていると……? そういう事ですか…………?」


「そうです!」


 ヤバい! 並べられたらめちゃくちゃ嘘臭く聞こえる!?


「司様ぁ……」


 スリスリスリスリ……


 レティシアが俺の腰に抱きついたまま顔をグリグリと押し付け甘えてくる


「……へぇ? それも、寝ボケてるんですね? どう見ても司様に甘えてるようにしか見えませんけど…………」


 あああ!? ダメだ!? 状況が悪化の一途を辿ってやがる!


「レティシア!? おい! 起きてくれ! 寝ぼけてただけだって説明してくれ!」

 レティシアを強めにゆすって起こす


「んにゃっ……。あ…………? あれ? 司様……? どうして、私の部屋に?

 ……ま、まさか夜這いですか!? ようこそ!」

「ようこそじゃないよ!? 寝ボケすぎだよ! レティシア! ここは俺の部屋! レティシアの部屋じゃないよ!」

「……本当に、寝ボケていたみたいですね…………。すみません。司様……私司様の事を疑ってしまっ……て……」

「ほっ……。いえ。わかってくださったならそれで…………」

「あら……、こんばんは…………? ソフィア様……」

「ええ、こんばんは。レティシアさん……」


 ギュっ……!

 レティシアが俺の腰にしがみつく力を強める


「「……っ!」」


 ピシィッ……!


 何か、空気が張り詰めた気がした


「王女様がこんな夜更けに男性のお部屋にお邪魔するなんて問題になりますわよ?

 早くご自分のお部屋に戻られてはいかがでしょうか?」

 (意訳・お上品なお姫様が何こんな夜中に男の部屋来とんねん? 私の司さんに迷惑かける前にさっさと自分の部屋に戻れや?)


「それはあなたも同じでは? 日中は司様が修行に行かれていてご不在なんです。こうして夜にお邪魔するしかないでしょう?」

 (意訳・それはアンタも同じでしょ? 日中は司さんが修行でいないからこうやってきてんだよ。頭悪いんじゃないの?)


「修行で疲れている司様にお話……? 王女様はちょっと我儘なようですわ…………。もっと司様を気遣ってはいかがでしょう」

 (意訳・はぁ? 修行で疲れとる司さんに話? 王女様は我儘やなあ? もっと相手の事考えたらどないや?)


「まぁ、我儘だなんて嫌ですわ……。貴方に言われなくても気遣ってますわよ」

 (意訳・誰が我儘よ? アンタに言われなくても気遣ってるわよ!)



「……っ!」


 レティシアとソフィアさんが睨み合う


 三人とももっと俺を気遣って!? 俺心労で倒れそうだよ!?


≪マスター? 私はいつもマスターの事を考えてますが?≫

 マキナちゃん! この状況を作り出しといてそれ言う!?


「あの、司様……? 一つお願いがあるのですが…………」

「は、はい……? なんでしょう…………?」

「私の事は「ソフィア」と呼んでください。それと敬語も外してください」

「えっ、ソフィアさんって……呼んでますよね…………」

「……ですから呼び捨てで構わいませんわ。司様…………」


 ソフィアさんがレティシアを睨みながら言う


「ね……? お願いします。司様…………」

 ソフィアさんが俺の手をきゅっと握ってくる

「えっ!?」


 どうしたんですか!? ソフィアさん! あなたはこの国のお姫様なんですよ!? 王族なんですよ!?


≪でも、立場的にはマスターの方が遥かに上ですし……≫

 え……?

≪まだご自分の立場を理解できてなかったんですか……。マスターは「救世主」なんですよ?≫

 う、うん……

≪マスターはこの世界の人が破滅の王の軍勢に軍隊を向かわせて戦わせてるって聞いた事あります?≫

 ……ないな。みんななぜか「救世主が世界を救う」もんだって信じ切ってるからなぁ

 言い方選ばず言えば「いつか誰かが何とかしてくれる」のを待ってる感じだな


≪ですよね? 自分たちで何とかしようとしてません。

 救世主の気分ひとつで「世界を救わない」という選択もありえるというのにですよ?

 言ってみれば自分たちの運命を救世主に丸投げしてるも同然です。まあ、そもそもこの国にはそういう事に使う戦力が残っていませんが≫


 あ……、だから以前国王に初めて会った時「一国の王ごときが」って言ってたのか…………


≪そうです。この世界の伝承に「災いが訪れる時、舞い降りし者災いを払う」という言い伝えがあってですね≫


 へぇ、初めて聞いた。そういう伝承があるのか

≪愚かにもそれをアテにして救世主を呼び寄せていたのがこれまでの現状のようです≫


 あぁ。なるほど、やっと合点がいった。だから積極的に軍隊差し向けたりしてなかったのか……

 普通に考えれば、破滅の王の軍勢みたいなのが各地で暴れてたら、各国で協力してでもなんとかしようとするもんな


≪ホント愚かと言うかなんというか……≫

 まぁ、そのおかげで、雨風しのげる部屋と一日三度の食事と清潔な衣服にありつけてるんだし……ありがたい事だと思うよ、実際

≪それはそうですね≫



「ほら、司様が困ってらっしゃるじゃないですか。……やっぱりお姫様は我儘ですわ…………」


レティシア!? 君は君でなんでそんなに喧嘩腰なの! いつもの優しいレティシアはどこ行ったの!?


「司様……? そうなんですか? 私、司様を困らせてしまってますか?」

「いっ!? いや! そんな事ない……よ! ソフィア!」

なんとか敬語を外せた……。けどソフィアさん……いきなりどうしたんだ…………」


「ふふふっ! 司様? 無理に呼ばなくていいんじゃないでしょうか」

「……そうなんですか? 司様? 私無理に言わせてますか?」

「無理なんてしてないよ!? レティシア! まぜっかえしたらダメ!」

「もう……司様は優しいんですから…………ふふふ……」


 言いながらレティシアが腕を組み頭をもたげてくる

 むにっとレティシアの感触が伝わってくる


 ピクッ……


 ソフィアさんの表情がさらに険しくなる


 ゴオオオオオオオオオ……!


 吹雪が! ソフィアさんの後ろに吹雪が見えるよ!?


「司様……? 少しお聞きしてもよろしいですか…………?」

「な、何……? ソ、ソフィア…………」

「レティシアさんとはどういうご関係ですか」

「友達っ! 友達だよ!」

「ふふふ、私の未来の旦那様です。ソフィア姫様」


 レティシア? 君、シャブ(麻薬)やってるだろ?


「レ、レティシア? 違うだろ? 俺らはただの友達だろ?」

「そ、そんな……!? あの日ベッドで私を優しく抱きしめながら「俺が君を守ってやる」と言ってくれたじゃないですか!」


「誰だ!? そのかっこいい奴!? 君の記憶の中の俺かっこよすぎない!?」

 正しいけど、間違ってるよ


≪……アレを素で言ってたんですか≫

 マキナちゃん!? 君までなんで冷たい目で見るの!?

≪マスター……。こんな事してるとそのうち火サスみたいに刺されますよ?≫

 なんで!? 俺何か悪い事した!?

≪さすがにこれに関しては……擁護できかねます…………≫


「……それは、本当ですか? 司様…………」

「内容は正しくても意味が全然違うから! 友達として守るって意味だから!」

「友達、なんですね?」

「そう! 友達!」

「じゃあ、この際お聞きしましょう。司様が今好意を抱いている女性はいらっしゃいますか?」


 っ!?


≪あっ! それ私私! マスターが修行頑張ってるの私の為ですもん!≫

 マキナちゃん! ちょっと黙っててくれるかな!

≪うう、マスターが遠くに行っちゃう……≫

 どこにも行かないから! マキナは俺の神器だろう? 死ぬまでずっと一緒だっつの! いい子だから今は大人しくしてて!

≪っ……! 死ぬまで、一緒…………。……一……緒……。ふっ! ふふふっ……! そっ! そうですかっ、そうですよねっ! 私達はずっと一緒ですよねっ!≫

 そうだよ! 当たり前だろ!

≪もぉ、マスターったら突然プロポーズとか不意打ちすぎますよぅ……もちろんお受けしますけどっ! ふふふっ!≫

 ええっ!? プロポーズ!? ちょっとマキナちゃん待って!? 速度が早すぎて俺ついていけてない!

≪テレなくてもいいですって! ……やだもぉ…………、顔が熱いじゃないですか。

 オーバーヒートしちゃいますよ? 私……。ふっ、ふふふふふふっ!≫


「司様……? どうなんですか」


「いっ……、います…………!」


 ええい! 覚悟を決めろ! 東条司!


「……その方のお名前をお聞きしても?」

 ソフィアに氷のような目で見据えられる


「えっと、俺が好きなのは……」


≪「「好きなのは……?」」≫


「ソフィアです。初めて会った時に一目惚れして……その、世界で一番綺麗だと思ってます!」

「……まぁ! うふふふっ…………!」


 凍り付くような目で見据えていたソフィアが、

 パアっと花咲くような笑顔になり両手を胸の前で合わせる


 うーわ。うーわ……。俺、言っちまった…………


「ふふふっ! そ、そうですかっ! 司様が私の事を……ふふふふふふふっ!」

「……司様。この人の我儘に疲れたらいつでも言ってくださいね? いつでも私が癒してさしあげますから…………」

「今の司様の言葉を聞いてなかったのかしら。さ、早く司様から離れてくださいな。そこは私の場所です」

「嫌です。後からきて横入りなんて、お姫様なのにずいぶんお行儀が悪いですね?」

「……離れなさい」

「嫌だって言ってるじゃないですか。ここが私の居場所なんです」

「こ、この……っ」


 あっ!? ダメだ!? ソフィアさんの地が出ちゃう!? 俺そんなの見たくないぞ!


「ソ! ソフィア!? 右側! 右側空いてるから! ほら!」

「はいっ、司様……ふふふっ…………!」


 俺の右腕を胸に挟みソフィアが寄り添ってくる


 ソフィアとレティシアの視線が俺を挟んでぶつかる……


「「……フンッ」」


 二人の目線がぶつかった後プイっとそっぽを向きあう


 ……仲良くしてっ!?


「ソ……ソフィア? 今日はこんな時間にどうしたの…………?」

「はい。司様とお話がしたくてきちゃいました」

「そ、そうか。俺に会いに来てくれたのかぁ。ソフィアに会えて嬉しいよ」

「うふふっ、私も嬉しいですっ。いつ来ても修行に行かれているか、外出なさっててお会いできなくて……」

「あぁ……、うん。ほら、俺って救世主だから修行も欠かせないし、調べないといけない事とかあって…………」

「ええ、ええ。理解しておりますわ。司様が世界のために尽力してくださってる事は……」


 むにっむにっ……


 俺の両腕が! 両腕がかつてない幸福に包まれている!

≪……マスター? 今「マキナじゃこうはいかない!」とか思いませんでした…………?≫

 思ってないって!? 君ホント胸に対してのコンプレックスすごいな!?

≪だって! ソフィアさんとレティシアさんの胸に腕抱かれた途端にテンション上がってるじゃないですか!≫

 ……え? 嘘? 俺テンション上がってる?

≪普段より声のトーンが高くなってますよ≫

 マジで!?

≪はい。私常にマスターのバイタル・メンタルを見ていますので。

 加えて言うと心音も早くなってますし、血圧も上がってます≫

 そんな事……、ま、まぁ緊張はしてるけどさ…………

≪……マスター? ベッドに腰かけてくださいっ≫

 お? おお……


 マキナに言われベッドに腰かけると……


 ちょこん……


 マキナが膝に座ってくる

≪……これで我慢しておきます≫


「まあ。マキナ様ったら大胆ね」

「……ちょっと羨ましいわ…………」

≪ここは私の特等席です。譲りませんよ≫

「あ……、…………でさ? 一応……ソフィアの返事を聞いておきたいんだけ……ど……いいかな?」

「……もう。司様ったら意地悪…………。言わなくてもわかるでしょう……?」


 むにっむにっ


 胸を押し当てながら、唇にちゅっとキスしてくるソフィア


「あ……うん、まあ…………って……!? ん……っ……」


「ふふっ……、私のファーストキス…………あげちゃいました……ふふふっ!」

 唇に手を当てながら恥ずかしがりながら言うソフィア


 ええええ!? お姫様の! 第一王女様のファーストキスもらっちゃったよ!? これって大事じゃないの!?


≪「ああああっ!!? 司様マスターのファーストキスが!?」≫

≪私だってまだした事ないのに!?≫

 まだもなにも小3女子とキスする予定はないよ!?

≪そ、そんなぁ!?≫


「あ、あの……俺も…………その、初めてだった……」

「ふふふっ、じゃあ私達初めて同士ですねっ」

「う、うん……」

「な……何をしてらっしゃるの!? この姫様はぁ!!!?」

「ふふふっ。何を驚いているのかしら? 私は司様を愛してます。

 そして司様も私を好きだとおっしゃってくださった。……それならこういう事に至るのも自然な事でしょう?」

≪あーあ……。先に唾つけられましたね…………。ソフィアさん意外と大胆ですね≫

「全っ然っ!? あのっ!? そう言うのは二人きりの時にするべきでしょう!

 ムードとか考えないんですか! 司様の大事なファーストキスが台無しじゃないですか!」

「あら? 台無しだなんて酷いわ。どこかの猫ちゃんが私の司様に言い寄ってるみたいですし、先手を打っただけですわ」

「誰が猫ちゃんですか!?」

「ふふ、これで司様は私が予約しました。後はレールが勝手に敷かれて自動で私達を連れて行ってくれますわ。……ね…………司様……」

 言いながらソフィアが頭を俺の胸に預けてくる


 お、女の子ってなんでこんなにイイ匂いがするんだ!?

 頭がぼーっとしてクラクラしてくる……!


 い、いや。冷静になれ! 東条司! 今重要なワードが出ただろう!

 ……予約? 今「予約」って言ったよね…………!?


「あ。あの。……ソフィア? 予約って…………」

「あら、予約は予約ですわよ? 私は今、司様の正室の座を予約をしたつもりですが……」


 正室!? ちょっ!? それ要するに俺とソフィアが結婚するって事!?


「せ、正室!? ちょっ……その、それは気が早くない!? 俺らまだ知りあってからまともに話すの二回目だよ!?」

「うふふ。お会いした回数は関係ないと思います。大事なのは私達の気持ちがどうであるかという事だけでしょう?」

「そっ、それはそうかもしれないけど……」


 え、ヤバいヤバいヤバい!? なんか超スピードで物事が決定して進行していってる気がする!

 ちょ、押し強いって!? ソフィアさんってこんなに積極的な人だったの!?


「それに、これから司様がさらにご活躍をされていけば、いずれこの世界の英雄となられるはずです。

 そうなれば、司様の魅力にすぐ他の女性たちも気が付くはずですもの。

 ほら? そこの猫ちゃんのように……ね? ですから、私がいち早く予約をしておきたかったのです」


「予約って……! それならっ!」


「司様……? 私は司様の事をお慕いしております…………んっ……」


 レティシアの手が頬に添えられキスされる


「うんっ……!?」


 ツー……と俺とレティシアの唇から糸を引きながら顔を離される

≪「あああああ!!!? 司様マスターのセカンドキスが!!!?」≫

「あっ……! ちょっとあなた!? 何してるんですか! あなたシスターでしょう!? あんな糸引くキスして…………なんて破廉恥な!」

「貴方こそ破廉恥でしょう!? あなたはお姫様でしょう!? 少しは慎みを持ってくださいな!」

「私はいいんですよ! 司様の気持ちは私に向いてるんですから! 正室として当然の権利を行使したに過ぎません!」

「はぁぁ!? 自分の事は棚上げですかそうですか! それに正室!? たかがキスしたくらいで!? ちょっと頭がお花畑すぎやしませんかねーぇ!?」

「私と司様の記念すべきファーストキスをあなたのキスで汚さないでください!」

「は!? 汚す!? 私のキスで汚れるとおっしゃいますか! 王女殿下は!」

「汚れます! 司様は「私」を好きだと言ったんですよ? あなたじゃなく「私」を!

 そして婚約の証としてファーストキスを捧げました! それをあなたがキスしたら台無しじゃないですか!」

「私だって司様に「俺が一生お前を守ってやる」って言われましたー。告白されたのは私の方が早いんですー!」


 言ってない! 「一生」とか俺言ってないよ!? レティシア!


「……司様…………? 私の事……どう思ってます……か……?」


 レティシアが頬を赤らめ目を潤ませながら上目遣いで見上げながら聞いてくる

「え……。か、可愛いと、思ってるよ。うん…………」


 はい、とても可愛いですね。ええ、可愛いです


「っ! 嬉しいっ……」

 レティシアが抱きついてくる

「……司様?」


 ジロっとソフィアが俺を睨む


「あっ!? でっ、でも! 俺の一番はソフィアだから!」


 俺の言葉にソフィアが瞑目しながらうんうんと頷く


「わかりました。今はそれでも構いません。二番でいいですから‥‥…お傍にいさせてください…………」


 レティシアに瞳を潤ませながら上目遣いで懇願される


 無理だって! これ断れる男いないって!?


「う、うん。わかった……俺を好きになってくれてありがとう。大切にするよレティシア…………」

「嬉しいっ! 司様ぁ……」


 レティシアがゴロゴロと俺の胸で甘える


「はい。もういいでしょう? 二番さんは離れましょうね~」


 グイっとソフィアが俺とレティシアを引き離す

「あっ!? 司様ぁっ!? ……~~~~っ」


 レティシアがソフィアを睨む


「あ……ああ! うん、そうだな!」

「……司様? 再度確認ですが、私とレティシアさん…………どちらが大事ですか? どちらがお好きですか」

「もちろん俺の一番好きなのはソフィアだよ! ソフィアが一番綺麗だよ!」

「ふっ……ふふふ! そうですか。そうですよね? 司様は…………私が一番ですわよね?」

「そうだよ! 俺はソフィアが一番好きだよ!」


 ……念押しまでしてきますか!?


 かつてない修羅場に遭遇している気がする……!

 婚約って……つまり、俺と、ソフィアがいずれ結婚する…………?

 あのキスでそういう約束をしたの!? 今!?


 俺嫁さんもらう以前に、定職にすら就いてないんですけど!? いいの!?

 救世主なんて世界救うまではニートだよ!? ヒモだよ!?


≪マスター? ニートやヒモではないかと。街の防衛は立派な仕事ですよ。

 修行にしてもマスターの世界で言うところの「職業訓練」として認められるかと。

 いずれにしてもマスターは無職ではないかと思われます。今のマスターは職業「学生兼救世主」でしょうか≫


 え!? そうなの!? 破滅の軍勢を全部倒して平和にしてそれで初めて「救世主」とか「英雄」と世間から称えられるんじゃないの!?

≪いやぁ……、以前も言いましたけど、現時点で世間はマスターの事を十分「救世主」として役割を果たそうとしていると判断すると思いますよ?

 過去の救世主達の中には修行もせず、魔物襲撃時に防衛にも参加せずただ遊び惚けていた人達も多数いたようですし……。

 昔の救世主たちは大分評判が悪かったようですし、その反動もあるかと思いますが≫


 ……この間、陛下に褒賞もらう時に、貴族の人達が随分感心してたのはそれか…………

 俺より以前に召喚された救世主達は一体なにやらかしてんだよ……

 もしかして、俺が警備隊の人たちに嫌われてるのそれが原因じゃ……

≪ありえそうですねー≫


 そうだ! レティシアの事ちゃんと話しておかないと!

 このままソフィアとレティシアが喧嘩になって、レティシアが城追い出されたら大変だ……!

 ……そうだ! この国って確か…………!


「あの……ソフィア? この国って確か一夫多妻制が認められてたよね?

 レティシアはあの部屋にいてもいいよね……?」


「……わかりました。認めましょう。私を正室にしてくださるのなら側室の存在を認めますわ。

 確かにこの国は一夫多妻制を認めておりますし、側室がいる事がおかしい事だとも思いませんわ。

 言い寄る女性の数が多いほど、それだけ男性として魅力に溢れているという事ですものね」


「そ、そうか! よかった! ありがとう、ソフィア!」

 よしっ! これでレティシアがあの部屋から追い出されるような事は無くなったぞ!


「ふふふっ、女としての器量を疑われたくありませんもの。私も司様の正室として相応しくありますわ」

「司様、私をかばって……。なんてお優しい…………。やっぱり司様は私の救世主様です……!」

 レティシアがキラキラとした目で俺をみつめてくる


≪ていうか、マスター!? ソフィアさんだけって言ったじゃないですか!

 なんでレティシアさんまでいい感じになっちゃってるんですか!≫

 知らない内にこうなっちゃってたんだって!? 全然身に覚えないけど!

≪……あんな強烈な殺し文句言っておきながら「身に覚えがない」?

 ……うーわー…………この人……うーわー……本当にそのままの意味で言ってたんですかアレ。ホントにいつか刺されますよ?≫

 だっ! 大丈夫! 今ソフィアも言ってただろっ? この国は一夫多妻制が認められてるみたいなんだ!

≪……一夫多妻制?≫

 そう! だから、この国においてはソフィアさんとお付きあいしながら、

 レティシアと恋人関係になったとしてもこれは浮気じゃない! だから大丈夫!

≪……じゃあ、どういう形に収まるんですか?≫

 どういう形って……これは…………そう! 言うなればこれは「もう一つの恋」と言うんだ!

 俺は真剣な表情で力強く握り拳を作りながらマキナに宣言する

≪随分パンチの効いたパワーワード出してきましたね!?≫


 と、とりあえずこのギスギスした雰囲気をなんとかしないと……!


 あ……あれは…………っ?


 部屋の片隅のチェストの上に、チェスの盤と駒が置かれているのに気が付く


 そっ、そうだっ?

 この空気を和ませる手があったじゃないか!

 みんなで楽しくゲーム! うん! これならこの微妙な空気を打破できる!

 人付き合いが下手な俺でさえ「モンスターハンティング」でハンティングフレンドはたくさんできた!

 みんなで楽しい時間を過ごせば、きっと笑顔になってくれるはずだ!


「あの、ソフィアたちはチェスわかるの?」

「えっ? ええ……、嗜む程度には」

「もちろんですわ。司様」

「じゃ、じゃあゲームで遊ばない? 楽しくさ! ねっ!」

「いいとおもいますっ。司様……」

「うふふ、司様と遊べるなんて幸せ……」


 チェスのルールを俺が知らなかったため、俺はルールブックを読む事になった

 その間ルールを知っているソフィアさんとレティシアが勝負する事になった


「この勝負負けられません。司様には頭のいい女性が相応しいと思います」

 (意訳・私の司様に言い寄るなどこぞの雌猫が。私に無様に負けて見た目通りの頭の悪さ露呈しろや?)


「王女殿下はたいそう賑やかなご様子でいらっしゃいますね? 誠に恐縮ではございますが、ご逝去いただければ大変嬉しく存じます」

 (意訳・うっせーなぁ? てめぇ、死ねや)


 ────


 ソフィアがレティシアの事は認めてくれたけど、それと二人が仲良くできるかは別問題だったようで……

 マキナを膝の上に乗せルールブックを読みながら二人の対戦を眺めている


 マキナは俺の膝の上が気に入ったのかご機嫌だ


「死んでくださいっ!」

 カッ……!

「くたばれっ!」

 ͡コトッ……!


 あ、あれ……?

 ゲームって……こんな殺伐とした雰囲気でやるもんだっけ…………

 ゲーム……楽しい…………どこ行った……?


「いい加減諦めてくださいっ」

「あなたこそ、身分を弁えなさい!? 司様に相応しいのは私です!」

「……ふっ! 私に勝てるところがないからって身分を持ち出してきましたね!?」

「あなたに勝てる所なんてたくさんあります! おっぱいだって私の方が大きいし!」

「確かに王女様の胸って大きいから垂れて胸の下に汗疹ができてそうですよ、ねっ!」

 カッ……!


「できてないわよっ! あなたは仰向けで寝ても胸痛くなさそうねっ!? 羨ましい……、わっ」

 ……カッ!


「痛いですけどー? 私Gカップあるんでー!」

「ふっ! 私はIカップよっ!」

「I!? 奇乳とか言われません?」

「誰が奇乳ですか! 失礼な!」


≪I……。人が殺せそうですね…………≫

 ……男なら殺されても本望だろう

≪……その場合、凶器が見つからなくて鑑識さんが困りそうですね≫

 誰も想像しないだろうしな……

≪……ふうむ。一体犯人はどこに凶器を隠したんだ…………≫

 マキナ警部! 凶器がどうしても見つかりません!

≪もっとよく探すんだ! 証拠となる凶器が見つからん事には始まらん!≫

 はいっ! ……マキナ警部? まさか、おっぱいが凶器じゃないですよね?

≪おっぱいが凶器‥‥…? 何を馬鹿な…………。いや、待て……!? Iカップのおっぱいの片乳の平均的な重量は約2キ……ロ……まさか……!?≫

 マキナ警部! 怪しいおっぱいを発見しました!

≪でかした! すぐ調べてくれ!≫

 出ました! 右のおっぱいから血液反応!

≪まさかおっぱいが凶器だったなんて……!≫


 こうして、賑やかな夜が過ぎて行った

 結局ソフィアとレティシアの闘いは明け方まで続き、最終的にソフィアが勝利を収めた……


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