001 異世界と東条司
人間の国エルト
空は龍達の大群に覆われ空が夜と見まがうほどの暗さになり、地上は見渡す限り魔物の大群が埋め尽くし王都を包囲していた
焼け落ちた建物から黒煙と炎が上がり、国全体から泣き叫ぶ声や悲鳴。
苦痛を帯びたうめき声、街中に響き渡る魔物達の咆哮の大合唱
ズッ……ドーン……!ズバァァァァッ! ヒュゴオオオオオオオオオッ!
グチャッ! ニチャアッ……! ゴリッ……ドゴッ!
「オオオオオオオオオオオオオオオ」
魔物が街中で暴れ周り街のありとあらゆる建造物を破壊し、
人々が虐殺される音と悲鳴が街中を埋め尽くす。まさに「地獄」と呼ぶに足る状況。
「グッ! ゲボッ……!」
「逃げ……ろ……!」
「いやあああああ!」
「やだああああ! 怖い怖い怖いぃぃぃっ!」
「誰か……助けてくれぇ……」
「嫌ぁ!? 離してまだ家の中に子供がいるの! リッタが! リッタがいるのぉっ!」
「奥さん無茶だ! 早く逃げるんだ!」
「どけぇ! 俺を先に行かせろ!」
「やっ!? やめてえ!?」
「クソっ……! ブチかましてやらぁ! だらああああああああああ!」
「魔物の軍勢だ! 早く逃げろ!」
「オオオオオオオオオオオオオ」
ひと際大きな咆哮が王国中に響き渡る
「ソフィア様っ! お逃げくださいっ! もう城はっ!エルトは持ちませんっ……!」
「騎士団長……、まだ民が、兵が戦っています。それでどうして王族の私だけが安全な所へ逃げられると言うのです」
「ソフィア様っ!」
ドッ……ガァァァン……!
ドラゴンの砲撃が城の外壁を穿ち、巨大な穴を空ける
巨大なドラゴンがこちらを見据え、口を大きくあけ第二撃目の砲撃を放つため体を大きく逸らし力を溜め始める
「くっ……!? 姫様……!」
騎士団長が姫をかばうように覆いかぶさる
「騎士団長っ!?」
次の瞬間ドラゴンの口から炎のブレスが放たれた──
放課後の教室
教室
キーンコーンカーンコーン……
一日の授業が全て終了した事を告げるチャイムが鳴り響きそれと同時に
「起立~。れ~い」
クラスメイト全員が帰り支度や部活の準備の為騒がしくし始める、
いつもの日常、いつもの教室、いつものクラスメイト達……
これが俺の日常の光景で当たり前の事だった
朝起きて学校に行き、学校で授業を受け、友達とくだらない話で盛り上がり学校が終われば家路に就く
こんななんでもない日々が、どれだけ尊いものだったのかなんて考えた事すらなかった
「ん~っ……! やっと終わったかぁ、今日も……」
伸びをした後、机の横にかけてある鞄に手を伸ばそうとした時だった
「おい、東条……。これ女子からの手紙……お前に渡してくれってよ」
「……はい?俺に?なんで?てか何コレ?」
「俺が知るかよ。……ほれ、あそこの教室の入り口で覗いてる女子がいるだろ、あの子からだ」
いいながら手紙を渡される
教室の入り口を見ると入り口からチラチラとこちらを覗き見る女子の姿がある
えっ……! あの子って……!
ドクンッ
その姿を見た時俺の心拍数が上がる
栗毛色のショートボブで目がクリッとしていて小顔で非常に愛らしい。
体の全体的な線は細く、しっかり腰はくびれていて女性的な体のラインをしている
背は150あるかないかくらいで高校二年という事を考えると小柄な方だと思う。
小柄な体に似合わず胸は大きく、モデルやグラビアアイドル顔向けの大きさを誇っていた
10人の男がすれ違えば10人ともが振り返るであろう美貌とプロポーションだ
「あの子って……」
「去年の文化祭のミスコンに選ばれた「白石叶」だよ。おい、早く手紙開けろよ」
「……何覗き見しようとしてんだよ。見せね~よ馬鹿」
「いいじゃねえか、ちょっとくらい!」
「よくないから言ってんだ。あの子の気持ちとか考えね~のかお前は……」
ヤバいヤバいヤバい! 俺が女子から手紙をもらう!? 何事だおい!
しかも俺がひそかに片思いしていたあの「白石叶」!? マジかよおい!
浮き足立つってこういう感覚か
早くこの手紙の中身を確かめたくなり机に席を立ちあがる
「あっ! おい! どこに行くんだよ!」
「お前のいない所だよ」
「おっ、俺も!」
「……ついて来たら卒業まで昼飯奢らせるからな」
「ぐっ……!」
……非常階段で読むか。あそこなら誰も来ないだろ……
教室を出る時手紙を送った送り主の女子とすれ違う。
ほんの一瞬だけ目が合うがすぐに視線を外し非常階段に向かう
非常階段に着き周りに誰もいないのを確認し手紙を開け内容を読む
女の子らしい小さな丸い文字で
東条司君へ
今日の5時に校舎裏の焼却炉の前に来てください
う、う~ん……?あれ……?おかしいな……?
俺が想像していたのと違うぞ……。俺はもっとこう……
「あなたの事が好きです。付き合ってください」とか!
「ずっと前から好きでした。付き合ってください」とか!
そういうの想像してたんですけど……?
……アレか!?大切な告白だから直接告白したいとかそういう感じか!?
さっきすれ違う時に一瞬だけ見た白石叶の顔が思い出される
白石……、可愛かったなぁ……
白石に……こっ……告白とかされたら……ど~する!? ど~するよ! 俺!
俺と、白石が付き合う……?
へ……へへへ……
ヤベッ!? 顔がニヤけてきやがる……!
バシッ
頬を両手で叩き活を入れる
落ち着け 落ち付け俺
……5時、って書いてあるな……
携帯をポケットから出し時間を確認する
ん、5時……? 今が……って!? もう4時50分……!?
やべっ!? 時間もうじきじゃねえか!
こんな一大イベント遅れるわけにいくか!
俺は焼却炉へ走り出した
焼却炉前に着くと白石がきょろきょろと周りを見渡しながら待っていた
携帯を確認すると4時58分
よし ギリギリだったけれど間に合った
深呼吸をして息を整え白石へ足を向ける
「……あっ……。東条君……」
「待たせたかな……」
「うっ! ううん!大丈夫! 私もさっき来た所だからっ」
「そっか。なら良かった。……で、俺に何か話?」
「えっと、あの。その……ね」
白石が顔を赤くしながら上目遣いでこちらをチラチラと見ながらおずおずと話しだす
「私……、あなたの事がずっと前から好きだったの。私と付き合って」
来た来た来た来たぁ! やっぱそうだ!
よしっ! あくまでスマートに返事をするんだ! 東条司!
くぅ~~~っ! やったあああああ!
俺の高校生活でまさかこんな事が起こるなんて
うおおおおおお これから春夏秋冬の恋人同士でする事全部やってやる!
俺の真の高校生活は今始まったんだ!
しかも俺のひそかに片思いしていた相手から告白されるとか最高じゃん!
高校二年の初夏までかかったがようやく 今ようやく俺の初恋スタートだぜ!
小躍りしてしまいそうなテンションを抑えながら口を開く
「はい! カーット!」
言いながら「ドッキリ大成功」の看板をもって女子生徒が俺たちの間に小走りで入ってくる
「ふっ……あはははははははっ」
白石が口元を手で押さえ笑いだす
「くっハハハハハあの顔っ! 傑作~~~っ」
「笑うの堪えるの苦しかった~~~~~っあははははははっ! もうサイコー!」
「ぷっ……、くくくっ……! いや~~~~っ!いい絵が撮れたよ~~~白石ちゃん 名女優っ! アハハハハハッ!」
焼却炉の周りの茂みや校舎の窓から男子女子問わず大勢の生徒たちが顔を出す
……
は……?
……え?
何?コレ……
ドッキリ……大成功……?
「ヤバい東条の顔がすげぇマヌケ面になってる! ウケるー」
「ハハハハハ あっ……あんな顔の東条初めてみたぜ」
「あっ……悪人面が あの悪人面がえらいことになってる! あははははははっ」
「ふっ……くくく…………あのっ! ごめんね~東条君。そういう事なの。ふふふっ……」
「叶~、笑うのちょー我慢してたっしょ? 途中バレるかと思って冷や冷やしたんだからっ」
「だっ、だって! 東条君……東条君……っ。あははははははっ! もー 東条君のせいで我慢しすぎて顔の筋肉がおかしくなりそうなんだからねっ!」
楽しそうに笑う、白石の顔を見てようやく理解できた
ああ……。そういう事か……
さっきまでの浮ついた気持ちが急激に冷めて行き、どうでもよくなってきた
さきほどまで世界で一番綺麗だと感じていた少女が酷く醜く見えてきた
ああ、これが百年の恋も一瞬で醒めるって奴か
なるほどな、こりゃ醒めるわ
俺の性格なら逆上してキレ散らかすかと思ったが、妙に頭の中がクリアに冷えてやがる
「おい、なんとか言えよ! 東条! ハハハハハ!」
「余りの事にショックで固まっちゃってるのぉ」
この状況で俺の味方は皆無だ。
仮にキレ散らかした場合、面白がってこいつらはさらに盛り上がり収集が付かなくなるだろう。
ムカつくという理由で暴力を振るったり暴言を吐いたりというのもアウトだ。
こういう連中はさも「自分は被害者です」という顔で大騒ぎするだろう
こいつらの思惑としては、俺が悔しがったり、あるいはキレたり……何かしらのリアクションを取った場合にそれを笑いのネタにする事が目的のはずだ
あえてこちらが一歩下がって大人の対応を返す事がこいつらにとって一番面白くない結果になるはずだ
「……なんだ、冗談だったのか? ハハハ……。趣味悪いな、お前ら」
怒りで震えそうな声を必死に抑えながら、出来るだけ普段通りのトーンで話す
「……えっ」
「……おいおい、やせ我慢しなくていいって……東条」
「……もっと悔しがったり怒ったりとかってね~の? お前……?」
「おい、東条って、こんなキャラだったか……」
「いや……、割と感情抑制できないタイプのはずだけど」
「普通……キレる……、よな。これって……」
「……仮に俺だったら、普通ブチキレるところ……と思うけど……」
「えぇ……なんか想像と違うんだけど……」
「……」
俺も驚きだよ
怒りってのは限界突破すると逆に冷めるものなんだという新発見をしたぜ
ほら?そろそろ足音が聞こえてきたんじゃないか。
ノリと勢いだけで行動している連中が後になって陥る「自己嫌悪」と「良心の呵責」って奴の足音が……
良心の呵責に苛まれず人を貶め傷つける事を生きがいにしているようなドクズが世の中にはいる。
だが、そこまでのドクズは割と稀だ。
もしかしたらこの中にも何人かはいるかもしれないが、この場にいる全員がドクズって事はないだろう
こいつらのように「コレやったら面白いんじゃないか」レベルの悪ふざけはノリと勢いが命だ
そのノリと勢いを俺の薄いリアクションで断ち切った
さて、この場にこのままいても時間の無駄だ
仕上げと行こうか
「白石」
「……はっ! はいっ!?」
おっとぉ? 白石ちゃんたら動揺しちゃってる? こんな事する割に意外と小心者だな
困った顔で上目遣いでこっち見て、怒られないか心配してる? だ~いじょうぶ
俺ってばさっきまで君にフォーリンラァヴッ しちゃってたから怒ったりしないし噛みついたりしないよ
居心地が悪そうにする白石と何人かの女子、一部男子達
ドッキリ大成功の看板をプラプラと揺らしながら居心地悪そうに足元の石を蹴っている
「やらせでも告白されて嬉しかった。嘘でも俺を好きだと言ってくれてありがとう」
微笑みながらその言葉を伝え踵を返し歩き出す
「えっ……?いっ……いえ!……あっ!? と、東条君っ……?っ……まっ、待って!?」
白石が追いかけてきて回り込んでくる
うっざ!? めんどくせえなぁ、引き止めてこれ以上何する気だよ? もしかして謝ろうとか考えちゃってる 君……
これだけ人に不快な思いをさせておいて、自分だけは謝って赦されてスッキリな~んて……そりゃ虫が良すぎるってもんだろ
これから「馬鹿な事をした」っつ~事実を抱えて生きて行けよ馬鹿女。……めんどくせえし、もうトドメ刺してから帰るか
「あぁ。そうだ……。この際だ、言っちまおう。……白石」
「えっ? なっ 何っ……? 東条君っ……!」
「俺さ? さっきまで白石の事好きだったよ」
「え……」
「いや、マジで。実に八か月間も片思いしてたよ。
あ~あ、言った言った……! ん~っ! 終わった終わったぁ! すっきりした~! んじゃ、俺帰るわぁ」
わざと清々したというように腕を上げて伸びをしながら白石をかわして歩き出す
「……えっ!?……とっ! 東条っ!? おい! マジで言ってんのか! お、おいっ!?ちょっと待てって!」
「いやいやいや、ちょっと待ちなさいって! 東条君ってば!」
「え……マジか、なぁ……これ……、……ちょっとヤバくね……」
「ヤバいよ……、私達……ぶっ壊しちゃったかも……」
急に青ざめだし弱気になる一同
何言ってんだ?こいつら……
人を面白おかしく笑いものにしようとしてた癖にな~にが「ぶっ壊しちゃったかも」だ
ハナからぶっ壊す気満々だっただろうが? 俺もお前らの人間関係これからぶち壊してやるから覚悟しておけよ
「ちょっ ちょっと待って! 違うのっ! あの東条君っ……! これはねっ!
あっ……! 待って! 立ち止まって! あのっ! 私の話を聞いて……!」
「……」
白石が駆け寄って俺の前に回り込んで、両手で道を塞ぎ行く手を塞ぐ
う~わ~……。ここまでやる?
人を貶める事にどんだけ熱心なんだ?こいつ……。普通に引くわ
「私も東条君の事が好きなの!」
「うん。もうそれさっき聞いたって。またドッキリなんだろ」
必死だな、白石。
そこまでして俺を笑いものにしたいのかよ、お前らマジでどうかしてるぜ
「違うからっ! ホントだからっ! 私本当に東条君の事好きだからっ!」
「……ハハハ! またまたぁ? 流石に二度同じ手はくわないって!」
俺が騙されると思ってんのか。だとしたら随分馬鹿にされたもんだ
「違うのっ! 聞いてっ」
「叶の言ってる事は本当よ! 信じてあげて」
「……はぁ? ドッキリ大成功の看板持った奴が何言ってんだ」
俺は「ドッキリ大成功」の看板を持った女子に顔を向け冷たく言い放つ
この状況でドッキリ大成功の看板持った奴が「信じて」ってもはやコントだろ
「うっ……そっ、それ、は……。と、とにかく 私の事は信じなくてもいいから叶の事信じてあげて」
もう言ってる事が無茶苦茶だな。俺はこの状況でこれを信じる程馬鹿じゃねーよ
「あっ!? 東条君っ!? あっ……明日っ !明日昼休みに教室行くからっ」
白石のその言葉に返事を返さず、白石の横を通り過ぎ歩き出す
帰り道歩いていると先ほどの事を思い出してしまい、気分が悪くなり少し休憩がてら帰り道の途中にある神社に立ち寄る事にする
神社の境内に鞄を投げ出し、大の字になって寝ころがる
「はぁ……。散々な目にあった……、俺の記念すべき瞬間がドッキリかよ」
ついため息を出し愚痴がこぼれてしまう
明日……学校行きたくねえなぁ、絶対噂になってるだろうし……
……あぁ、でも休んだら休んだで、それまたあいつらを喜ばせるだけか……ならサボるわけにいかね~な
意地でも行かねえと何を言われるかわかったもんじゃねえ……
救世主様。私の声が聞こえますか? どうかこの世界をお救いください
仰向けになりながら、天井を見据える
ハッ……バカバカしい。幻聴まで聞こえてきやがった
意外と参ってるな、俺……
「ああ、異世界でもどこでも行ってやるよ。やれるもんならやってみやがれ……! ハハハハ……!」
自分の精神状態に自嘲交じりで笑いながら応えると天井が輝き出す、
一瞬まばゆい程の閃光に包まれ、手をかざしまぶしさに耐えつつ目を閉じる
「っ!? なんだっ……!? まぶしっ……!」
光が収まり目に入ったのは見た事もない場所、
召喚陣のような祭壇と、俺を取り囲む十数人の見目麗しい美女と美少女達だった――――
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