⑤新たな......
授業をほっぽりだして私たちは初めて出会った場所である中庭裏のベンチに座った。
酷い顔だったのでとりあえずメイクを落とし、すっぴんの状態に戻してやる。
ああ、ニキビがなければすっぴんでもイケメンなのに。
「あ、ありがとう、エミリー嬢。君が、いなかったら僕はアンジェに本当のこと言えないまま……。永遠にもやもやとした気持ちで過ごしていただろう」
「気にしないでください。あなたのためにやったんじゃなくて、私がしたいからメイクしたんですから」
「それでもありがとう。……君はすごいね。まるで王宮にいる魔法使いのようだ。指先で魔法をかけて、僕を変えてくれたんだから」
「……人なんて一朝一夕で変わりません。あなたが元々の人格がコンプレックスの払しょくによって表面化されただけでしょう。見た目の変化は自分に自信をもたらしますから」
「……き、きみも、そうなのか」
「どうでしょう?……いえ、そうですね。私の場合は変わったんじゃなくて......」
生前の記憶のせいとでもいっておこう。
じゃないとこんな180度根暗な性格が変わるはずもない。
それにネガティブでマイナスな思考回路は今でも変わっていないはずだし。
「……やっぱいいです。ま、でもあなたが気に入ったのならよかった。じゃ、わたしはこれで。あと、同学年なのにエミリー嬢はやめてください。こそばゆいです」
「そ……そうなのか?じゃあ、え、エミリー」
「はい。そう呼んでください。じゃあ、私は授業があるので行きますね」
「あ、はい。……ぼ、僕のことも普通にアーノルド、で、いいです。あと、敬語もいらない」
「わかった。またねアーノルド」
アーノルドは私が握ったハンカチを握りしめ、落ち着かない様子で顔をぬぐっていた。
もう水滴はついていないのに。
まあ、そこは私が知らないことなので、さっさと授業に向かおう。
……人の印象のほとんどは見た目で決まる。人の性格はその人が過ごした環境で変化しやすく、性格は顔に現れる。
化粧はその見た目をいくらかマシにする程度の役割しかもたない。
見た目を変えてどう人生が好転するかはその誰か次第だ。
私はこそばゆくうずく顔の傷を抑えた。