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③魔法の手

いくらアーノルドの見た目がもっさりしているからといって人を見下す言い方で、なおかつ男を連れてくるのはひどい話だ。

しかも、容姿を理由に。確かに容姿は大切だし、汚い人と一緒にいたくないという気持ちもわからなくもない。やり方がいかがなものなのか。

だからだろうか、このアーノルドを綺麗にしてアンジェを見返してやりたいと思った。

それに加え、生前の経験からこの男は磨けば化けると勘が働く。原石を磨くことができるのは喜ばしいことだし、こちらとしても楽しい限りで、今からでも胸が躍る。

アーノルドを女子寮の自室に呼び込み、適当な椅子に座らせた。

「女子寮って勝手に入ってきていいのか?」

「駄目なんじゃない?男が入ってきたら女子寮の意味ってないし」

「は?じゃあなんでここでやるんだよ」

「ここが一式そろってるしやりやすいから」

「お、横暴だ」

「横暴でもなんでも、これでアーノルドさんが見た目を変えれるのなら安いものじゃないですか。アンジェ嬢、見返したいんでしょ?」

「う......」

ヘアピンを取り出して彼の前髪を上げて止める。思った通り端正な顔が現れ、たれ目は心配そうに私の顔を収めていた。

「なぁ、今からなにするんだ」

「化粧水はたいてムダ毛を処理して化粧を施します。いわゆるメイクです。メイク」

「は?け、化粧なんて、女がやるものだろ!お、おれ……」

「いいんですか?このまま帰っちゃってもぉ。あーあ。もったいないなぁ。せっかくイケメンになれるチャンスなのにぃ」

「……ッ!やればいいんだろ!」

やけくそに声を荒げたアーノルドは上げた腰を再び落とした。

子供が駄々をこねているようで可愛いなぁ、っと思えば、笑みがひとつ零れる。

まずは剃刀で無精ひげを剃って、眉を整える。そのあと化粧水をはたいてベースのクリームを塗る。

「くすぐったい……」

「動かないで。変なところにクリームついちゃうから」

もったいない。手入れをしていないから頬にニキビがいくつか目立つ。そのため、何種類かあるクリームをアーノルドの肌の色にあうように混ぜ、それをニキビの上に塗っていく。

そしてニキビが隠れ完全に顔全体にクリームを塗ったら、今度は隠しきれないクマの部分の消しに入っていく。

これはフェイスパウダーを重ね、口紅の色味を使って消していく。

あまり使うとくどく見えるのでうっすら色が入るくらいで、指で調整していく。

少々眉が細いので、たれ目にあうように眉を書けば顔の完成だ。

髪の毛は切ったほうがいいが、髪の毛の調整に関しては素人同然なので、いい感じに髪を梳き、前髪をとめておく。

化粧ケースにある鏡を取り出し、アーノルドに手渡した。

「……だれだ、この陽気な男は」

「あなたですけど」

鏡の端にはファンデーションが崩れていない私の顔が映る。それで本人は鏡の人物が自分なのだと認識したのか、素手でぺたっと顔に触れようとした。

「あ、駄目!あんまり触らないで。この世界……じゃなかった化粧って意外と取れやすいんだから」

「あ、ああ。わかった。ご、ごめん」

アーノルドは鏡を食いるようにみていた。その様子をみる限りご満足いただけたようで、私も一仕事終えた達成感が押し寄せた。

「見た目がすこし変わるだけでこんなにも、その、自信?勇気?がで、でるもの、だな」

「見た目は人間を変える一歩ですから。それに、人間の印象の大半は見た目だといわれてますし」

「そ、そうなのか……じゃあ」

「アンジェ嬢がどうなのかはわかりませんが、今のアーノルドさんはイケメンです」

本当のことだ。アーノルドは見違えるように見た目が変わった。男性をメイクするというのは初めてだったが、ここまで変わるとは思ってなかった。

「男が化粧なんてと思った、けど。あ、ありがとう、ハーネスト令嬢、ぼ、僕……」

「お礼はいいです。私もアーノルドさんのメイクアップ楽しめましたし」

アーノルドは立ち上がると礼を述べて足早に部屋を後にした。数分後、寮の裏口からでていく彼の姿を見送った。

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