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放課後のアポカリプス  作者: 阿再相利
8/26

双傍

 異様な熱感であった。

 焦熱(しょうねつ)の臭気が部屋全体に満ちているというのに、炎の気配が一切ない。

 紙も、燃えていない。

 燃え、焦がされているのは、ただ一人。

 影代(かげしろ)鳴委(めい)の、上履きと、制服のみ。

 汗ばんだ肌を覗かせ、今、下着の端を焦がされ――

「いっそ、手間が省ける、というものかしら」

 ――床に、落ちる。

 汗の珠が、落ちる。

 産毛(うぶげ)が微かに震える。

 肉の奥から熱が湧きだす。

 焦熱の臭気に、獣臭が滲み出す。

「おや」

 月法寺(げっぽうじ)(まもる)が頬を拭う。

 指先を、血が濡らす。

 肉が、鋭く削られている。

 頬だけではない。

 四肢、胴体、制服ごと切り刻まれている。

 鳴委の蹴りに。

「私をここに足止めするつもりだったのでしょう」

「そうだな」

「それでその有様かしら」

 獣臭が、強まる。

 鳴委の奥からせり上がっている。

「言う事を聞いてくれないと思ったのだが」

 護の指が、机の裏をなぞる。

「早計ね」

 鳴委自身は、東洋の術を知っている訳ではない。

 だが分かる。

 護は何かしらの術を仕掛けている。

 図書室全体に、追い込まれる度――床に本棚に天井に、血で以て何かの念を込めている。

「聞けば、申し出を聴いてくれたか」

 護もまた、それを認識している。

「たまにはいい闘いをしてみたい気分になるの」

「だろうな」

 鳴委が目を細め、

「それに、お互い呼ばれたわね」

 護に向ける。

「そのようだ」

 相互い、視線を交わし――

「次は喰らってあげる」

「歓迎してやる」

 ――窓を開く。



 低く、重い響きが、熱を伴って空間を満たす。

 廊下――熱の源は、二人。

 銀城(ぎんじょう)鍔裂(つばさ)

 雄斗(ゆうと)・ホワイトキルヒェ。

 言葉も無く、ひたすら殴り合い、受け止め合う。

 堅牢な肉体を持つ者同士で可能な、どこまでもフェアな対話。

「聞こえたか」

 正拳。

 雄斗が呟く。

「ああ」

 肩に受けながら、鍔裂――同じく正拳。

「呼んでいるぞ」

 掌を、真向受ける。

 骨を駆ける衝撃――雄斗はたまらなく嬉しくなる。

「行かないのか」

 無拍子――直突き。

 鍔裂の顔面へ。

「行くさ」

 避けない。

 むしろ、顔面を叩きつける。

 骨が軋む。

 肉が波打ち――歯を食いしばり、押しとどめる。

 互いに感じる。

 骨の奥にある熱を。

「見たいな」

 雄斗――正拳。

「ああ」

 鍔裂――正拳。

 相顔面に叩き込み――窓ガラスへ身を投げる。


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