相拳
空より、夕焼け色より、熱い。
その熱は、人をかたどっている。
廊下に、二人。
銀の髪。金の瞳。そして脈動する鋼の肉。
銀城鍔裂。
「転校生か」
重く、鋭く響く声。
だが。
「前置きはいい」
より重く、低く。
声というよりは、岩の震える響きであった。
「やろう」
声が岩なら、肉体は巌である。
鍔裂は、翼より少し低い。
だが、学ランに詰め込まれた肉は、鍔裂より厚く、重い。
「雄斗・ホワイトキルヒェ」
少年が踏み出す。
「銀城鍔裂」
鍔裂もまた踏み出す。
熱く、重い肉体の二人。
だが。
その歩み。
柔らかく、静か。
布の擦れる音だけが響く。
隠密の歩法ではない。
肉の起こりを消し、技の機を打つ、武術の歩みである。
歩みを寄せるごとに、肉の内圧が高まり、空間に満ちる気配が、歪む。
歪み、そして、
「殺ッ!」
「疾ッ!」
一閃。拳撃。
直突きが、互いの顔面に突きこまれている。
「お前」
鍔裂が、目を見開く。
雄斗が嗤う。
「捨て置け」
己の肉を、引き剥がす響きであった。
「俺の血の色など、お前さんには関わりのない事だ」
「そうか」
鍔裂が、下がる。跳ぶ。
左半身を前に。両腕を下げ、微かに人差し指と中指を掌に引き込む。
抉り込む拳――倒す為ではない、殺す為の拳。
如何な相手であれ。
どのような目的であれ。
己のやる事は変わらない。
闘う。
それだけである。
「哮ッ!」
窓ガラスが揺れる。
重く、鋭く、鍔裂の喝が響く。鍔裂の瞳が一際輝く。縦に割れ、炎が灯る。
獣が、滲み出す。
眼前の戦い以外の全てを遮断する自己暗示。意志力と克己心無くしては成し得る技ではない。
もはや翼の意志は闘争のみである。
雄斗のめくれ上がった唇から、覗いた牙。同じ相の瞳。
もはや考える事はない。
ただ打ち込む事を考えればいい。
それで、いい。